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有村架純演じる“ヒロイン”に迷いが…?『海のはじまり』で表現された育児のオモテとウラ

  • 2024.8.6

人が父になり、母になる過程を描くことで、家族愛とは何か? という根源的なテーマに迫っているドラマ『海のはじまり』。8月5日に放送された第6話では、夏休みを利用して一時的な共同生活をスタートさせた月岡夏(目黒蓮)と南雲海(泉谷星奈)の様子に焦点が当たる。同時に浮き彫りとなるのは、夏の恋人・百瀬弥生(有村架純)の複雑な心境だ。

美容院はぜいたく品?

職場に出社した弥生は、後輩から「朝に時間がある人の頭してる」と言われる。弥生は「そこまで時間かかんないよ」と返すが、確かに彼女の髪型は、慣れていないと手間取ってしまいそうなほど凝った編み込みで仕上がっていた。

思い出されるのは、以前、美容院に行った弥生が美容師と交わしていた会話だ。新しいトリートメントを勧められ、時間に余裕のある弥生は「お願いします」と承諾する。その横では、小さな子どもを預けて、忙しい時間の合間を縫って美容院にやってきた母親の姿が……。

弥生自身も、その出来事を思い出したのか「最近いかに自分が自由であるかを実感するんだよね」と述懐している。

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(C)SANKEI

弥生は、朝に凝った髪型にする時間の余裕もあり、美容院でトリートメントをするお金の余裕もある。時間とお金に余裕のある彼女と対比されるのは、かつて、育児に忙殺されていた南雲水季(古川琴音)の姿だ。

元同僚だった津野晴明(池松壮亮)によると、水季は定期検診に行っていなかった。時間とお金に余裕がなく、たとえそれらができたとしても、自分ではなく子どものために使う生活。知らぬ間に病状は進行し、わかったときにはもう、できることがない状態だった。

夏と結婚し、海の母親になるのかどうか、弥生は明確な答えを出していない。夏に対しては「考えておいて」と伝え、母親になる意思があることを示しているが、どこか迷いが生まれているようにも思える。

弥生が母親になるということは、自分の好きな時間に好きなだけ美容院に行ける生活を手放すということだ。自分にかけていた時間とお金を、子どもに費やすということだ。後輩の誕生日に、ちょっと高級なワインと食事でお祝いをするようなことも、簡単にはできなくなるということだ。

母親になるということは、小さな命に間近で触れ、もっとも近い位置でその成長を見守る、豊かなポジションに立つということでもある。しかし同時に、弥生にとっては、手にしていた自由をすべて明け渡すことと同義でもある。美容院はぜいたく品となる。

何をもって父となり、母となるのか

本編で津野が口にしたとおり、水季が亡くなってから彼女の生前の暮らしや病気に向き合おうとすることは「綺麗事」なのかもしれない。あるいは、手遅れ。それでも夏は頑なに、水季や海がたどってきた道をなぞろうとしているが、ボタンを掛け違えているような違和感は拭えない。

夏が、海の生活のペースに合わせられるのも、夏休みだからだろう。何時までの会社や学校に行かなければならない、そのためには何時の電車に乗る必要があり、逆算すれば何時までに身支度を済ませなければならない……。そういった、時間の制約が取り払われた「夏休み」だからこそ、夏はイライラせず、子どもの気まぐれなペースに合わせていられる

それは、弥生にも言えることだ。海が生まれたばかりの頃を知らない。言葉も通じず、歩くこともできず、自分で自分のことが何ひとつできない状態の海を知らない。現在は7歳で、おぼつかない面もあるが、ある程度のことは自分でできる年齢だ。会話もできるため、コミュニケーションが取れないストレスで感情が爆発することもない。

言ってしまえば、子育てのピークとなるような時期を省略して、彼らは父や母になろうとしている。このドラマの登場人物は全員が優しく、誰ひとりハッキリした言葉では言わないが、もっとも苦労する時期を自動的にクリアして良いとこどりをしているように見えなくもない。

何をもって父となり、母となるのか。いよいよ、このドラマは核心のメッセージに触れようとしている。夏と弥生はどんな答えを出すのか。そして視聴者は、その答えに納得できるのか。



フジテレビ系 月9ドラマ『海のはじまり』毎週月曜よる9時
ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。
X(旧Twitter):@yuu_uu_