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娘に対し「友達をつくったほうがいい」と発言 朝ドラ『虎に翼』伊藤沙莉が演じる主人公の“危うさ”とは…?

  • 2024.7.27

かつて、明律大学の女子部でともに学んだ涼子(桜井ユキ)、付き人だった玉(羽瀬川なぎ)と再会した寅子(伊藤沙莉)。第17週「女の情に蛇が住む?」では、主従関係ではなくなった涼子と玉の、連帯の結び直しが描かれる。

長い人生を生きていくために必要な「よりどころ」

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『虎に翼』第17週(C)NHK

新憲法により、身分制度が廃止された。そのため、涼子は華族ではなくなり、これまでとは打って変わった、ごく一般的な生活をすることになった。桜川家が負った借金を清算した残りの資金で、涼子と玉は喫茶店を開業。星(岡田将生)に連れられてやってきた寅子と、ここで再会することになる。

新しい生活をスタートさせ、涼子は生き生きとして見えたが、玉の表情はなんだか浮かない。寅子が玉に事情を聞くと、かつて「桜川家」という華族制度に縛られていた涼子を、今度は、足が不自由になってしまった自分が縛ってしまっているのでは、と自責の念に駆られているという。

寅子の計らいで、涼子と玉はお互いに胸の内を見せ合った。かつての「お嬢様」と「付き人」の関係性ではなく、「親友」として関係を築き直すことを確かめ合った二人。玉がおずおずと「涼子ちゃん」と呼ぶのに対し、恥ずかしそうに微笑む涼子の姿が、なんとも微笑ましい。

そんな二人の様子を見て、おそらく寅子は「生きていくうえで必要なよりどころ」に思いを馳せたのだろう。「友達がいない」と口にしていた娘・優未(竹澤咲子)のことが気がかりになる。

かつて花江(森田望智)の家で女中をしていた稲(田中真弓)が近くに住んでいて、週に何度か寅子たちの家にお手伝いに来てもらっている。寅子は優未に向けるのと同じように、稲に対しても「たくさん、よりどころをつくってほしい」と望んでいた。

想像力の欠如が、無理解と早合点を生む

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『虎に翼』第17週(C)NHK

寅子の優しさや気遣いはまっとうなものだが、時と場合によっては、想像力の欠如として映ってしまいかねない。実際に、友達がいないと話した優未に対し「友達をつくったほうがいい」と諭してしまう。友達はいないよりもいたほうがいい、という、寅子の一辺倒な価値観の露呈にもなっている。

母である寅子の意見を受け入れ、一度は「友達をつくること」に向き合い、努力した優未。しかし、やはり上手くいかなかった。「お互いに無理をしてもつらいだけ」と話し、ひとりで勉強したり絵を描いたり歌を歌ったりすることを選ぶ優未は、「友達をつくらなきゃ」と焦る場合よりもよっぽど自立して見える。

人の心は、わからないものだ。どんなことに思い悩んでいるか、外からは見えない。まったく悩んでいないように見えて、抱えている背景は想定以上に重いこともある。

星に誘われ、杉田(高橋克実)の麻雀大会に見学へ向かった寅子と優未。場に現れた優未を一目見て、杉田は泣き崩れてしまう。彼はかつての大空襲で、一人娘と孫を失っていた。2年前には妻も亡くしており、それ以来、一人で暮らしているという。

田舎の風習に染まり切った、腹の底が見えない、少し扱いにくい人という印象だった杉田。彼もまた、受け入れられない死を背負わされて、苦しんでいた。どうやらそれは星も同じようで、寅子はあらためて、人を表面的に判断してしまうことの危うさに思い至ったように見えた。

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『虎に翼』第17週(C)NHK

長い人生を生きていくうえで、助けとなるよりどころは、なるべく多くあったほうがいい。それは確かだが、自分が大切にしている価値観でも、他者にとっては取るに足りないものである可能性もある。自分が「重い」と感じる荷物を、他者にも同じ重さで背負ってもらえるとは限らない。

想像力の欠如は、無理解と早合点を生む。寅子が至った境地は、人間関係と社会を、少しずつでもより良くしていくための第一歩であるように思える。



NHK 連続テレビ小説『虎に翼』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。
X(旧Twitter):@yuu_uu_