「おもしろすぎる」「一気に見た」絶賛の声が集まる『地面師たち』に世の中が夢中になるワケ

2024.8.13

7月25日にNetflixで配信が始まって以降、国内ランキング1位、週間グローバルランキングでも上位に入るなど、大きな注目が集まっている『地面師たち』。2017年に実際に起きた地面師詐欺をモデルにした小説が原作の本作は、地面師、不動産会社、警察の3つの立場の思惑が錯綜するスピーディーな展開が魅力だ。

3つの立場それぞれに困難と葛藤が積み重なっていく

地面師とは、架空の土地取引を不動産会社に持ちかけ、偽の契約をかわして大金を騙し取る大規模かつ繊細な技術を必要とする詐欺師だ。計画を立てるもの、土地を探すもの、偽造書類を探すものなどさまざまな役割に分かれており、グループを作って犯罪を行う。

本作の魅力は、地面師、不動産会社、警察の3つの立場それぞれに引き込まれる展開の巧みさにある。地面師とは、いわば詐欺集団。大金のために、なんの罪もない不動産会社を騙している。通常の倫理観であれば、共感も感情移入もできないだろう。だが、なぜか地面師グループの手口が上手くいくかどうかに対して、緊張感を持ちながら見入ってしまうのだ。

第一話から、地主のなりすまし役が質問に上手く答えられなかったり、取引される土地の写真がすぐわからなかったりする場面が入り、不動産側に偽物だとバレるのではないかとドキドキさせられる。果てに、なりすまし役は質問に全く答えられなくなってしまう。地面師たちにとってのこういった困難が、短い間隔で何度も繰り返される。地面師たちが困難をどう乗り越えるのかにいつのまにか引き込まれ、共犯者としての目線で見てしまうのだ。

困難や葛藤が積み重なっていくのは、地面師たちだけではない。地面師たちの獲物となる不動産会社や事件を捜査する警察にも、一筋縄ではいかない難題がふりかかってくる。不動産会社の社員は、大きなプロジェクトが破綻したばかりで必死に土地を工面するために動いているものの、大企業ゆえに決済をとるのに苦労したり、派閥争いによって妨害されたりとなかなか上手く進まない。警察は、なかなか事件の核心に迫ることができず、手が届いたと思ったら解決への道が閉ざされるなど、さまざまな問題が発生する。

この作品は、どの立場に立ってみるか、誰に共感するかを考える暇もなく、今画面に映っているキャラクターは降りかかってくる難題をどう乗り越えるのかだけに集中させられてしまうのだ。構成の上手さがこれを可能にしている。

視聴者だけが知っている秘密がスリルにつながる

そして、前述したような人物それぞれの困難や葛藤を全て把握しているのは、視聴者だけだ。この視聴者だけが全てを知っているという状況が、独特のスリルにつながっている。

たとえば、不動産会社社員たちは、地面師たちが取引する会社探し、地主のなりすまし役のキャスティングに難航していたことを知らない。視聴者は地面師側が詐欺をおこなうまでに苦労していたことを知っているからこそ、詐欺の手口が上手くいくかどうかに引き込まれてしまう。

また、地面師グループのメンバーたちは、リーダーであるハリソン山中（豊川悦司）が詐欺に関わっている人を仕末していることを知らない。ハリソン山中の真の恐ろしさを早い段階で理解しているのは、視聴者だけだ。

この視聴者だけが知っている秘密があることで、どのキャラクター同士の会話にも「秘密がバレるんじゃないか」「上手くいかないのではないか」「殺されるんじゃないか」という、視聴者だけが感じられる緊張感が常に存在している。息つく暇のない緊迫感は、登場人物同士の事情が絡み合っているからこそ生まれているのだ。

SNSでは、「おもしろすぎる」「7話分一気に見た」という絶賛の声が溢れ、さまざまなジャンルのクリエイターからも支持されている様子が伺える。物語の面白さはもちろんのこと、それを際立たせる構成や人物の作り方が見どころの一つだ。この記事では、本作の魅力である緊迫感を生む構成の巧みさのみに絞って紹介した。何がそんなに面白いのかはぜひその目で確かめてほしい。

ライター：古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X（旧Twitter）：@k_ar0202