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「スカートが短いなら、痴漢されても文句は言えない」ドラマ『不適切にもほどがある!』がギャラクシー賞受賞!昭和と令和のギャップからヒットした理由を徹底解明!

  • 2024.6.14
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(C)TBS

昭和から令和へのアップデートが急がれている。

2024年冬クールに放送されていたTBS系列ドラマ『不適切にもほどがある!』、ならびに東海テレビ系列ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』では、昭和の“トンデモ”価値観を令和に合わせてアップデートする、いまだからこそできる斬新なコンセプトが評判を呼んだ。

両ドラマに共通したメッセージは「世代間ギャップが生まれるのは当たり前。世代で区切りすぎずに一人の人間として対面で話をして、問題を解決しよう!」だと思われる。

このドラマが同時期に放映され、話題となった背景には、どんな世代間ギャップがあるのだろうか?

昭和から令和へのアップデートは本当に急務なのか、ドラマ本編の描写を深堀りしながら考えたい。

若者へのLINEに「。」はNG!?

そもそも昭和と令和を比べたとき、どんな世代間ギャップがあるのだろうか?

代表的な例を以下に挙げる。

  • マルハラ
  • 若者、絵文字を使わない問題
  • 誰からかかってきたかわからない電話に出られない
  • 会社はブラックでもホワイトすぎてもダメ
  • ドラマや映画の秒速再生

1. マルハラ

マルハラとは、LINEを代表するSNSやメールのやりとりにおいて、文章末尾に「。(句点)」をつける“ハラスメント”のこと。

もちろん、メッセージのやり取りで文末に「。」をつけるのは、本来ならハラスメントに該当する事案ではない。むしろ、何もつけないよりも丁寧な印象を与えるのでは、と思うだろう。

しかし2024年現在、20代以下の若い世代にとって、文章の末尾が「。」で終わっていると「怒っているのだろうか?」とある種の圧力に感じられてしまうという。

2. 若者、絵文字を使わない問題

それでは、若者にメッセージを送るときは、むやみに威圧感を与えないよう、適度に絵文字やスタンプを使えばいいのだろうか?

ここで注意したい。絵文字を使いすぎるのも、いわゆる「おじさん(おばさん)構文」として敬遠されてしまうのだ。

やたらと、赤い絵文字の「!」を多用したり、汗を垂らした顔文字を文中に潜ませたりすると、一気に「おじさん(おばさん)構文」認定されてしまう。カタカナが多いのも、その特徴だという。

反対に、令和の若者は絵文字やスタンプは必要最低限。やり取りもシンプルで、長文を送ってしまうだけで嫌がられてしまう可能性もあるので、バランスが難しい。

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第9話より (C)TBS

3. 誰からかかってきたかわからない電話に出られない

会社においても世代間ギャップは顕著だろう。

生まれたころからインターネットやスマートフォンがある、いわゆるZ世代にとって、「家電」という言葉はもはや死語である(「死語」という言葉そのものも、“死語”になりつつある)。

個人が一台ずつ所有しているスマートフォンには、連絡先に登録している相手なら、着信時に素性がわかるようになっている。令和の若者は、登録されていない番号の着信には最初から出ないのが、半ば当たり前だという。

「誰からかかってきた電話なのか?」があらかじめわかる連絡しか受けた経験がないため、相手がわからない電話に極度に苦手意識を感じる場合が多いのだとか。

4. 会社はブラックでもホワイトすぎてもダメ

もちろん会社は、ブラックすぎると離職者が増える。

しかし反対に「ホワイトすぎる」体制でも、物足りなさを感じた若い世代は転職を検討し始めるらしい。

あまりにも“優しい”環境下では、適切なフィードバックがもらえているという実感が持てず、理想とする成長が見込めない。転職することに抵抗がない若い世代は、ブラックでもホワイトでもない「自分に合った」会社を求め、結果的には兼業といった形に落ち着くことも多い。

5. ドラマや映画の秒速再生

ドラマや映画、YouTube動画の秒速再生をする層が増えていることからも、いかに若い世代が自分の時間を大切にする「タイパ至上主義」になっているかが知れる。

稲田豊史『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)といった新書も刊行されたように、映画やドラマを「娯楽」ではなく「情報」として摂取する意味合いが、若者の間では強くなっていることがわかる。

誰もが「おもしろい!」と認めるギャラクシー賞を受賞

阿部サダヲ主演、宮藤官九郎脚本のドラマ『不適切にもほどがある!』では、阿部サダヲ演じる主人公・小川市郎が、1986年から2024年へタイムスリップしてしまう。

彼の視点を通して描かれる約40年の隔たりを表すギャップが、シニア世代には「懐かしい!」、若者世代には「本当にこれが現実だったの?」と感じさせる。

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第10話より (C)TBS

第1話で描かれる、高校教師かつ野球部顧問である市郎の指導態度に、さっそく驚くほどのギャップが……。

「部活中に水を飲んだらバテる」といった理由で、炎天下でも生徒に水を飲ませない。連帯責任で、生徒全員を並ばせ「ケツバット」をする。

市郎が令和へタイムスリップしてしまうシーンでも、彼はバスのなかで堂々と喫煙。

挙げ句の果てに、たまたま乗り合わせた女子学生へ向かって「スカートが短い、痴漢されても文句は言えない」などと続けてひんしゅくを買う。

どれもこれも、令和のいまやってしまったら、すぐにコンプライアンスの観点からアウトになってしまう言動ばかり。

ちなみに、原田泰造主演の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』でも、この手のギャップが描かれている。

本作は、原田泰造演じる主人公のサラリーマン・沖田誠が、ガチガチに固まった昭和の価値観から、令和に合った考え方へとアップデートするため、周囲の人間から力を借りて成長していく物語だ。

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第9話より (C)TBS

本作も『ふてほど』と同じく、さっそく第1話から、誠の凝り固まった頭のなかが暴かれまくってしまう。

会社では女性社員へお茶を淹れるよう頼み、男性社員が代わろうとすると「お茶は女の人が淹れたほうがおいしいだろう」と口にするのだ。男女関係なく、手が空いている側がお茶を淹れるのが当たり前だろう……と思うだろう。

このようなドラマ内の描写は、あくまでも「フィクション」として描かれている。

しかし、以上のような、まさに「昭和的価値観」を持った人は、令和にも存在する。

男女問わず「性的な被害を避けるためには、慎んだ服装を徹底すること」と考えている人は多い。ニュースで性的被害について扱われているのを見ると「男性を勘違いさせるような言動をしたんじゃないか」と公に言われる場合もある。

「お茶は女性が淹れたほうがおいしい」発言をはじめ、「女性ならではの柔らかい視点や感性で〜」といった物言いは、ビジネスの場でこそよく聞かれる印象が強い。

こういった現状に対し「おかしいのではないか?」と考える層が増えたからこそ、ようやくドラマの題材として扱われるようになったのではないか。

昭和と令和の価値観を対比させる構図を、頭がガチガチに固まった主人公が未来へタイムスリップする展開を用いることで、違和感なく実現させた『不適切にもほどがある!』。その構成の妙、ストーリーのおもしろさ、話題を呼んだ背景が評価され、「第61回ギャラクシー賞マイベストTV賞 第18回グランプリ&テレビ部門」を特別受賞した。

ギャラクシー賞マイベストTV賞は、有志によって選ばれた、誰もが「おもしろい!」と認める作品に贈られる信頼できる賞。過去にはドラマ特区『美しい彼』(毎日放送)や日曜劇場『陸王』(TBS)、火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)などが受賞している。

コンプライアンスからの観点や、一部ブレのある人物造形など、多くの話題を呼んだ『不適切にもほどがある!』だが、マイベストTV賞が贈られたことで、本作のおもしろさが担保された形になるのではないだろうか。

現代人は、価値観の「転換期」にいる

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第9話より (C)TBS

本記事で挙げた二つのドラマ『ふてほど』『おっパン』に共通するテーマとは。

それは「昭和と令和の世代間ギャップを解消し、価値観をアップデートしよう!」である。

しかし、生まれた時期、育った時代が違えば、ギャップが生まれるのは必然だ。

生まれた時代や世代で人を区切りすぎない。ましてや、性別に役割を付与する考え方は、それこそ時代にそぐわない。

目の前にいる相手を「一人の人間」としてとらえ、対話することを前提に、できる範囲で向き合う。

ともに問題解決を目指す姿勢と環境づくりをすることが、我々が考えなければいけないことではないだろうか。

人はもともと、自分以外の他者には「こう考えているのだろう」「本当はこうしたいのだろう」とレッテルを貼ったり言動を先読みしたりしがちだ。

それは決して悪意からくるものとは限らない。優しさや無知からくるものもあるし、自分が安心したいから、という理由もある。

それでも、2024年に突入したタイミングで、昭和→令和へのアップデートをテーマにしたドラマが放映されていた背景には、いまを生きる者全員が共通して「転換期」に差し掛かっている現状を表しているのかもしれない。



番組概要:TBS系 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧 Twitter):@yuu_uu_