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「開幕前の巨人監督が、阪神監督に対して漏らした言葉やからなあ。」2023年シーズン直前に岡田監督が、原前監督に抱いた“違和感“

  • 2024.5.4
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写真:SANKEI

昨季、阪神タイガースを率いてチームを38年ぶりの日本一へと導いた岡田彰布監督。就任2年目の今季も開幕からチームは好調。4月28日時点でセ・リーグ首位に立ち、球団初の「連覇」へ向けて最高のスタートを切っています。そんな“名将”は普段、ベンチで何を思うのか――その胸の内を公開します!

【本記事は岡田彰布・著『普通にやるだけやんか オリを破った虎』(Gakken)より一部抜粋して掲載しています。】

「最高でーす」禁止令

  今回はフロントにも、きついことは言わんかったよ。球団社長が年下なんやからなあ。あれこれ言うのはしんどいわ。年取って、自然にそうなったわ。今は褒めるだけよ。

前回はそらフロントにも厳しく接したよ。特に広報やマネージャーら、身近にいる担当者にはきつい指導もしたし、役割の交代もさせた。曲がったことや間違いは許せない。おれの意を汲んで先手で動けという思いやったなあ。

あれから何年もたって、担当者も経験を積んで覚えてきたわなあ。今回は黙って見て、褒めた。何年間かのスカウトの働きが積み重なってドラフトの結果が出てきた。今は生え抜き中心でメンバーが組める。FAやトレードは補助的なものでいけるようになったのは、そらスカウトの力よな

とはいえ、広報担当に指示した選手への教育もある。佐藤輝が代表例だが、開幕直後はヒーローインタビューで「最高でーす」と叫び声を繰り返す選手がいた。「ファンをバカにしているとやめさせた。

試合展開に関係なく、本塁打を打つと手作りのメダルを首にかける塁に出れば何でもガッツポーズ試合に負けても笑顔で整列する……すべてやめた。野球に対する姿勢よ。当たり前のことをすればええだけ。当たり前を教えるのがフロントの仕事よ。

“日本一”の胴上げ

  日本シリーズの胴上げ。あれは格好よかったよ。フロントがようやった。シーズン優勝、日本シリーズ制覇、いずれの胴上げもチーフマネージャーが「ちゃんと監督を囲んで、丸い輪になって全員で胴上げをしよう」と指示した。

ビデオや写真で振り返ればよく分かる。最近はどのチームも胴上げはみんなが好きな格好でバックネットや外野へ手を挙げて目立とうとする、そんなバラバラの胴上げになっていた。

阪神も慣れていない85年の日本シリーズの胴上げでは、吉田監督が裏返ってしまった。「まるで大阪名物のお好み焼きです」と絶叫したアナウンサーまでいた。

その点、2023年のは、日本一になったチームの象徴ともいえる胴上げやろ。

思えば、おれが経験した2つの日本一は、人の力を超えたところがあった。

85年には日航機事故でシーズン中に、中埜(なか の)肇(はじむ)球団社長を亡くした。2023年は横田慎太郎さんの追悼試合があった。もちろん監督にも選手にも、それぞれの思いがある。中埜社長には選手会長だったおれが、日本一のウイニングボールを霊前に届けた横田さんのユニホームは、胴上げとともに選手の手で天に掲げられた

何かがあって、チーム全体の気持ちが1つになるのは当たり前のこと。ただ野球に対する判断は、どんな場面でも変えることはない。監督の涙はグラウンドの中では見せない、とおれは考えている。

監督の戦いは選手が見ている

  監督が選手を見ているのと同じように、選手も監督を見ている。監督の言動は選手に大きな影響を与える。2023年開幕直前にNHKでセ・リーグ6球団監督の対談が放送された。もちろん選手も注目していた。

司会が早稲田4年のおれと、東海大3年の原が大学日本代表でクリーンアップを組んだと話題を振った。三番サード原、四番ショート岡田。「いやそら原がサードしかできん言うから、しゃあないやん」とおれが言った。

原監督は「その通りです。わたしは何ひとつ、岡田さんにはかなわなかった」と言った。今はプロ野球監督として対戦する立場や40年以上前のプレーヤーとしての感想とはいえ、完敗を口にするとは……

おれはまあ「そらそうよ」と思ったけどな。同じグラウンドで練習すれば、どちらが上かは選手が一番よく分かる。それがおれの考えやけど、東海大時代の原は、そう感じたんやろうな。

それにしても何ひとつとは……。開幕前の巨人監督が、阪神監督に対して漏らした言葉やからなあ。シーズンの結果は、開幕前に出ていたのかもしれん。対巨人戦は 18勝6敗1分けと歴史に残る数字で圧勝した。原監督は辞任し、阿部監督にバトンを渡した。


抜粋・編集
花田雪
1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

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