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「何か違う」阪神・岡田監督が明かす遊撃のスタメン変更を決めた決定打…“恐怖の8番打者”が誕生するまで

  • 2024.5.3
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写真:SANKEI

昨季、阪神タイガースを率いてチームを38年ぶりの日本一へと導いた岡田彰布監督。就任2年目の今季も開幕からチームは好調。4月28日時点でセ・リーグ首位に立ち、球団初の「連覇」へ向けて最高のスタートを切っています。そんな“名将”は普段、ベンチで何を思うのか――その胸の内を公開します!

【本記事は岡田彰布・著『普通にやるだけやんか オリを破った虎』(Gakken)より一部抜粋して掲載しています。】

■最後は人柄で選んだ最強の八番打者

チーム作りの大半はキャンプで終わる。選手の特徴をつかんで、戦いの方向性を決めて浸透させる。2023年に「守り勝つ野球」を標榜したのは、それができるチーム構成だったから。

先発、中継ぎ、抑えと投手が豊富で、広い甲子園で試合をする。守備を固定して専門化し、守りの意識さえ作れば勝てると踏んだ。すべて秋季、春季キャンプで見極めた結果や。

守りのキーは遊撃やった。昨年までの中野は二塁にコンバートした。これも大胆なコンバートとか言われるけど、おれから見れば当たり前やん。もともと、中野は大学時代は二塁をやってた。チーム事情で社会人では遊撃やってただけやんか。プロでショートやらすほうがおかしいんよ。

糸原は左の打撃を買って代打の切り札にする。遊撃は小幡と木浪に競わせた。守りから見れば肩の強い小幡が一歩リード。開幕は小幡を使った。ただ「何か違う」という思いが残ってた。

木浪が打つとベンチのみんなが盛り上がるんよなあ。性格というか存在感というか、人を惹き付けるものが、何かあるんよなあ。キャンプから見てきた木浪の人柄を買って、すぐにスタメンを小幡から木浪に代えた。そのまま木浪を八番に固定し「恐怖の八番打者」が誕生した。

■出身校、出身地、家族も把握する

プライバシーを侵害しないのは当たり前。そのうえで選手の育った環境から性格、状態まですべてを見極める。前回の監督時にはある主力選手が甲子園の帰り、毎日のようにコンビニに寄るのを見た。おれと帰る方向が一緒で、目立つ車が止まっているから分かるんよ。白いベンツよ。そら目立つわ。

毎日コンビニ弁当では食べ物が偏るわなあ。阪神の主力が試合の帰りに、コンビニ弁当を買っているというのもなあ。そらファンも見てるよ。すぐにマネージャーに確認させたら「奥さんと別居しているようだ」と報告が来た。マネージャーに指示して健康管理ができるように相談させた。

「岡田監督は何でも見ている」と選手は驚くけど、何でも見えるんよ。すれ違った車のナンバーも見る。「ええ番号や」と背番号と同じ「80」があると、絶対に見逃さない。ゴルフ場のロッカー番号、カートのナンバー、すべてチェックする。選手の出身地、学校、家族なんかも全部、頭に入ってるで。

■人脈は全国にあるよ

2023年、抑え候補の湯浅が離脱して岩崎を使った。60試合投げた。あいつは大丈夫や。少々のことではへこたれん。高校はサッカーの強い静岡・清水東で、野球部の監督もよう知っとるよ。阪神ファンでユニホームもタテジマにしてたくらいや。大学は国士館やからな。鍛えられ方が違う。そんなん学校の教育やん。

大竹は現役ドラフトからエース級の働きをしたよな。球速ではなく投球術で勝負するタイプや。進学校の熊本・済々黌(せい せい こう)高校から早稲田、ソフトバンク。球の速さやなくて、頭がええんよ。慶応に行けるのを早稲田が取ったんや。そらいろんなとこから情報は入ってくるからなあ。

独特の人脈というか自然に集まりが続いているだけよ。早稲田の野球部では同級生を中心に毎年、30人くらい集まる。12月に全国各地で持ち回りの幹事を決め、ゴルフと温泉宿。早稲田時代の恩師、石山監督にも来てもらって、もう43年間続いているよ。教師で野球部監督をしている仲間も多いから、全国の選手の情報が分かる。

明星中学、北陽高校はもちろん愛日小学校の同級生ともずっと交流を続けてるよ。スカウトが知らんような全国の人脈、選手の裏情報まで、すべて耳に入る。野球だけではない行動や性格まで、周りの評価がドラフトやトレードの判断材料になるからなあ。


抜粋・編集
花田雪
1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

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