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「『普通』のレベルは人によって違う。それでええんよ。」岡田監督がチームに根付かせた“魔法の言葉”「2つの意味が込められているんよ。」

  • 2024.5.1
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写真:SANKEI

昨季、阪神タイガースを率いてチームを38年ぶりの日本一へと導いた岡田彰布監督。就任2年目の今季も開幕からチームは好調。4月28日時点でセ・リーグ首位に立ち、球団初の「連覇」へ向けて最高のスタートを切っています。そんな“名将”は普段、ベンチで何を思うのか――その胸の内を公開します!

【本記事は岡田彰布・著『普通にやるだけやんか オリを破った虎』(Gakken)より一部抜粋して掲載しています。】

■普通にやるだけやんか

2023年のシーズン中、おれは何度も「普通にやればいい」という言葉を繰り返した。特に意識して口にしたのではなく、ほんまに「普通にやるだけやんか」と思うとったよ。

おれは「ヒットを打て」とか「三振を取れ」とかは言わんよ。できることをしろと言うだけ。だから四球が増えたというのも、チームにとってどうするのがええか、当たり前に自分のできることを考えるだけやん。

特にCSから日本シリーズと続いた特別な舞台になればなるほど「普通に」を口にしてたなあ。「普通にの言葉には2つの意味が込められているんよ実力以上を求めないというのと、平常心を保てという2つの意味やな。

シーズンが進むにつれて、選手にもその考えが浸透したように思う。シーズン後の特番で、大山がこんなことを言うとった。

「普通にやればいいと言われて、ものすごく気が楽になった。普通にやって、いい結果が出ると自信になる。普通のレベルがどんどん上がっていった」

そういうことよな。「普通のレベルは人によって違う。それでええんよ。

「普通」を野球のプレーに当てはめるなら、守りを重視する野球につながる。おれが求めたのはファインプレーではなく、堅実なプレーなんよ。投手はバックにファインプレーをしてもらうより、打ち取ったと思った球をちゃんとアウトにしてもらいたいと思うてる。

ゲッツーだ、と狙い通りに打ち取ったのに、ランナーが残ったらがっくりするわなあ。試合が崩れるきっかけになるのは併殺が取れずに、走者が残ったときなんよ。

■ファインプレーに見えないのがファインプレー

  近本の守備位置が前寄りになった。これは後ろの打球は追いつけるという計算があるからやな。だから前に落ちる球を警戒する。つまりは守備範囲が広がる。足を生かした守備範囲の広さが売りや。普通ならダイビングしてファインプレーになる打球も、余裕で追い付いてしまう。

「ぼくの守備でいうと、今季のファインプレーは少なかった。前に守っていたからです」

と本人も言うてた。守備範囲を広げたことでファインプレーより、ファインプレーに見せない守備で投手を助けた

■評価を変えれば、意識もチームも変わる

2023年はチームプレーを大切にというイメージで見られたけど、おれは決して個人の記録を否定しない。それどころかチャンスがあったら、個人の数字を狙わせる。

2024年のテーマとして選手に言っているのは「個人のタイトルを狙え」ということや。タイトルでなくとも例えば3割とか、15勝とか数字にこだわればいい。

個人の数字がチームの勝利につながる、それが本来のチームプレーなんよ。残った数字はそのまま評価となり、自分の給料に跳ね返るだけどチームの成績が悪かったら給料も上がらんからなあ

具体的にいえば一番のチームプレーは自分が二塁走者のとき、打者がヒットを打ったら必ずホームに帰って来ることや。帰って来たらチームに点が入るだけでなく、打者に打点が付く。打点があるとないとでは、査定も違ってくる。査定ポイントになり、チームの勝利に結びつくというケースよな。

だから2023年の開幕前には、選手には四球は安打と同じ価値があると言った裏で、同時にフロントには四球の査定ポイントを上げるように申し入れたんよ。そうして優勝したらどうなった?

みんなものすごく給料が上がったやろ。自分のヒット数や勝ち星より、チームが優勝することで一番、年俸が上がったやんか。そういうことよ。普通にやったら、給料が桁違いに上がった。こんなええことはない。それを選手が分かったやんか。

安打も四球も同じように評価されることで、選手の意識も変わったよなあ。終盤の大切な場面で選手が、打つことより四球を選んでガッツポーズをしたんよ。ベンチもそうよ。ベンチにいる選手が、四球で盛り上がるなんて、今まではなかったやろ。勝ち方というか、打てないときにどう勝つかということがチーム全体に浸透した。自然体で、四球のガッツポーズが出たんやろ。おれはこのときに、このチームは強くなったと感じたわ。


抜粋・編集
花田雪
1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

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