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【不倫ドラマ】はなぜこんなにも人気なのか?平成から『あなたがしてくれなくても』まで続く人気の理由に迫る

  • 2023.6.8
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イラスト:熊野友紀子

夫婦間のセックスレスを描いた連続ドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系列)が、好調だと聞いた。未婚の私でさえも見ていて面白いのだから、既婚の当事者たちにはもっと響くものがあるはず。

まだドラマは中盤戦。ラストは2組の夫婦が空中分解するのか、それとも元の生活に戻っていくのか。

仕事をサボってふんわりとそんな妄想にふけっていたら、ふと昔(=平成)は、不倫を題材にしたドラマが多かったことを思い出した。今でこそ、不倫という題材はスーパーにも転がっているような身近なものと化した。ただ昔は、背徳の恋に酔う男女を描く……という劇場型のドラマが多かったと記憶している。時代の変遷に合わせているのだろうけど、どんなドラマがあったのか振り返ってみたくなった。

実は私こと小林久乃。昨年末に『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版刊)を上梓させてもらったほど、筋金入りのドラマオタクだ。この日のために(?)脳内に蓄積しておいたドラマデータを一度「TRILL」で探ってみようと思う。

ちなみに私は不倫経験も興味もない不貞の愛は創作された世界観を見て、楽しむのが一番と思っているので、悪しからず。

“平成不倫”は、女性が1Kのアパートで彼の帰りを待つ

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出典:Anastasiya 99/Shutterstock.com

あまり古い作品までさかのぼるのもどうかと思うので、まずは個人的に衝撃を受けた平成10年放送の『SWEET SEASON(スウィートシーズン)』(TBS系列)から。

男性上司・五嶋明良(椎名桔平)と不倫関係にあった藤谷真尋(松嶋菜々子)が妊娠。最終的には上司が記憶喪失になるという、平成ドラマらしい素っ頓狂な方向へ向かう。真尋は明良との結婚を夢見て、いつも一人暮らしの家で彼を待っていた。まだLINEもない時代にひたすら待つ。これが平成の不倫ドラマの在り方でもあった。

当時の日本社会における男性優位がドラマの中でも消えず、不倫は「男の火遊び」だと言われて、妻は納得せざるを得なかったと記憶している。

本作でも真尋の元に明良の妻(とよた真帆)が詰め寄るシーンがあった。「(夫と)暮らしてみなさい。生活って、こんなティーカップや写真立てばかりじゃない。もっとマヌケで、ノロマで、ゴミが出たりするの」というセリフを撒いて、なんとか夫を取り戻そうとする。まだ離婚がどこかで恥ずかしいもの、という認識があったからだ。そういうリアルな描写も記憶に残っている要因のひとつ。

それまで朝ドラの主演作『ひまわり』(NHK総合・平成8年)のような清廉なイメージだった松嶋菜々子の、思い切った方向転換も強かった。「あの松嶋菜々子が不倫……?」と目を疑うキャスティング。これが後に生徒と禁忌の恋に落ちる『魔女の条件』(TBS系列・平成11年)の教師役への布石だったのかもしれない。

不倫は女が耐えるもの、離婚も恥ずかしいもの。それらを描いたドラマがかつての日本にあったと言ったら、今の若者たちに信じてもらえるだろうか。

サレ妻VS恋する女。ゲス男を巡り、強くなった女性同士のバトル勃発

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出典:Dashu/Shutterstock.com

平成が後半に差し掛かった頃、不倫ドラマ界へ鮮烈デビューを果たしたのは平成22年放送『セカンドバージン』(NHK総合)だった。

よく覚えている。うっかり、ドラマのDVDを購入したほどハマった。出版社の優秀な編集部員・中村るい(鈴木京香)が、証券マンの鈴木 行(長谷川博己)と恋に落ちる。もう仕事だけで生きようと思っていたところに、るいのセカンドバージンは破られる。

女性は決して日陰で生きるのではなく、不倫であったとしても男性と対等。ヒロインの住居も1Kアパートから、だいぶレベルアップした家なのも印象的だった。行の妻・万理江役には深田恭子。夫の不貞に気付きながらも知らないふりを重ね、最後には「私のこと(不倫を知らない)バカだと思っていたでしょう?」と、るいに言い放った名シーンは後世に残したい。

他にも面白かったのは天下の優等生放送局であるNHKが、不倫を堂々とドラマデビューをしたこと。毎話恒例になっていた、ベッドシーンもあった。この作品でブレイクした長谷川博己も「誰だ、あのイケメン」と話題になったことも懐かしい。

前記の松嶋菜々子が不倫をする役へ進出したことも含めて、ギャップとはいつの時代も世間を面白くする材料なのだ。

“ごく普通の既婚者”が織りなす純度の高い恋

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出典:number-one/Shutterstock.com

男女平等が進み、さて不倫ドラマの行方もどうなるのかと思っていたところに、ドスン、と音を立てて転がってきた作品が平成26年放送の『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系列)

パート店員の笹本紗和(上戸彩)が、高校教師の北野裕一郎(斎藤工)と不倫関係に発展。この“パート店員”という設定が、新しかった。今までは男女どちらかに、経済的な豊かさがある設定が通例だったのに、もう不倫という題材もスーパーでタイムセールをされてもおかしくない身近なテーマになった。

このドラマの影響は大きかった。私の周囲の既婚女性は上戸彩化してしまい、出会い系サイトをはじめ、あの手この手で浮気をしまくっていた。今もたまにあるけれど、この放送中、よく不倫の恋バナをよく聞かされた。そして彼女たちは何食わぬ顔で家庭へ戻っていく。

加えて、それまでの役柄やパブリックイメージを裏切るような上戸彩=不倫妻という、想像もしなかったキャスティングも人気を後押しした。

“夫婦生活”に一歩踏み込んだ令和の不倫ドラマ

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出典:beeboys/Shutterstock.com

そして平成は終わり、令和の不倫ドラマとして話題を呼んでいるのが現在放送中の『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系列)だ。

『昼顔』が不倫を日常風景の一角にしたとすればこの作品は、夫婦生活に一歩踏み込んでいるらしい(「らしい」というのは、私が未婚のため……)。テーマはセックスレス。大好きだった人と結婚したはずの吉野みち(奈緒)は、夫の陽一(永山瑛太)と何年も性行為がない。が、陽一は「妻だけED」かもしれないと言いながら、浮気。落ち込むみちを励ますのは、同じく妻から相手にされない、同じ会社の新名 誠(岩田剛典)。ダブル不倫が始まるのか? それとも離婚を選ぶのか? というあらすじ。

これまた、奈緒というギャップキャスティングも物語の人気を押している。「私、そんな悪いことをしているつもりないのに……」と言いそうな、何かを抱えた表情作りはうまいなあと舌を巻く。良い意味で腹が立つ。

私と同じようにドラマ好きで、離婚歴のある某女性編集長がこんなことを言っていた。「第4話くらいで、みちと誠が旅館で寸止めするシーンあったでしょう? あれはないよなー、最後まで貫かないと!」。笑ってしまった。離婚経験のある人は私と視点が違う。

そう、不倫ドラマとは視聴者によって感想が、著しく変わる。自分の立場によって見方は変わる。サレ妻となって離婚した友人は「リアルすぎてもう見たくない」とも言っていた。私といえば超絶タイプの岩ちゃん(岩田剛典)を見てニヤニヤしながら、この先、自分が不倫したらどうなるのだろうと想像を膨らませる。

ああ、そうか。時代に合わせながらも異論が飛び交うから、不倫ドラマは消えない。それから書いて気づいた、ドラマ制作における数々の“ギャップ”が人気を担保し続けているのだと改めて。

どうにも止まらなくなりそうなので、これにて。



コラムニスト:小林久乃(Twitter:@hisano_k、HP:https://hisano-kobayashi.themedia.jp/)

地元浜松市のタウン情報誌、都内の出版社勤務を経て独立。雑誌媒体でのライター、単行本の編集者として活動中、出版社から執筆のオファーを受けて、2019年『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』で作家デビュー。その後『45cmの距離感』と続く。10代から生粋のドラマオタクであり、多数の媒体でドラマや映画のコラム、レビューを執筆中。エンタメに関する脳内データ量と、独特の視点が認知されて『ベスト・オブ・平成ドラマ!』も上梓。現在は紙、Web、ラジオと編集部員時代の経験を生かしたプロモーション業で粛々と活動中。静岡県浜松市出身。40代、正々堂々の独身。

イラスト:熊野友紀子(HP:https://www.kumagoya.net/

※記事内の記事内のイメージです。