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桜田ひよりが『星の教室』の夜間学級で見つけた一歩踏み出す勇気と学びの尊さ「人は、大人になってからでもいくらでも挑戦できる」

  • 2026.11.4

横溝正史の小説を映画化した『犬神家の一族』(76)にはじまり、『セーラー服と機関銃』(81)、『時をかける少女』(83)、『Wの悲劇』(84)など、数々の名作を世に送り出し続け、メディアミックスという手法で日本映画界に旋風を巻き起こした、角川春樹。その“最後の総監督作品”となる『星の教室』が、11月6日(金)に公開される。

【写真を見る】映画を通して、「この世界のどこかにいるさやかのような人を1人でも多く救いたい」と話す桜田ひより

本作は、高田郁の同名小説を『わたしは光をにぎっている』(19)、『静かな雨』(20)の中川龍太郎監督が映画化した人間ドラマ。主人公は、いじめがきっかけで「中学中退」のまま二十歳を迎えたさやか。大阪の下町にある夜間学級で、年齢も国籍も異なる“先輩”たちと出会い、止まっていた時間が少しずつ動き出していく。さやかを演じた桜田ひよりに、役と向き合った日々と、世代を超えた共演者たちと過ごした時間を振り返ってもらった。

「親子だからこそぶつかってしまう場面にさやかの本心が表れている」

【写真を見る】映画を通して、「この世界のどこかにいるさやかのような人を1人でも多く救いたい」と話す桜田ひより 撮影/杉映貴子 スタイリング/前田涼子 ヘアメイク/徳永 舞(BEAUTRIUM) 衣装協力/ニット¥24200、ワンピース¥26400(以上DEICY) その他スタイリスト私物
【写真を見る】映画を通して、「この世界のどこかにいるさやかのような人を1人でも多く救いたい」と話す桜田ひより 撮影/杉映貴子 スタイリング/前田涼子 ヘアメイク/徳永 舞(BEAUTRIUM) 衣装協力/ニット¥24200、ワンピース¥26400(以上DEICY) その他スタイリスト私物

舞台は2001年1月、大阪の下町。中学時代、いじめがきっかけで不登校になったさやかは、卒業を拒否して「中学中退」を選んだ。二十歳になった彼女は、レンタルビデオ店でアルバイトをするなかで図らずも封印してきた自身の過去と向き合うことになる。

山田洋次監督の『学校』(93)を通じて、“夜間中学”の存在を知ったさやかは、自らも夜間学級の門をくぐる決心をする。そこでは、様々な事情で義務教育を終えられなかった大人たちや、外国にルーツを持つ人々が笑顔で学んでいた。

「学校に行けなかったのは自分だけではない」と気づいたさやかは、先生やクラスメイトに支えられ新たな道を歩き出し、学ぶことを諦めない同級生たちもまた、ささやかな幸せを掴んでいく。

いじめに傷つき、両親にも心を閉ざし続けるさやか [c]2026映画「星の教室」製作委員会
いじめに傷つき、両親にも心を閉ざし続けるさやか [c]2026映画「星の教室」製作委員会

桜田は、あまり多くを語らないこの主人公をどのような人物として受け止めたのか。

「これまでも様々な作品を通じて、幅広い役を演じさせていただいてきましたが、そのなかでも今回演じたさやかは、特に感受性が豊かな子だったなと思っています。人の気持ちにとても敏感で、物事を簡単に受け流せず、深く考え込んでしまう女の子だなという印象がありました。ただ、そういう性格の子であるからこそ、人の気持ちに寄り添えるし、共感性も高い。本当に素敵な女性だなと感じましたね」

世間体を気にするさやかの母(仙道敦子)は娘の挫折を恥じ、父(萩原聖人)も2人の緊迫した関係に踏み込もうとはしてこなかった。そんな鬱々とした過去の記憶も、たびたびさやかの前に立ち現れる。

「さやかは、自分の過去をとても大きな重石として捉えていると感じました。あの時、手を差し伸べてくれなかった両親に対する感情が、いまでもたまにフラッシュバックしてしまうんです」。

世間体を気にする母と干渉してこない父との間に溝ができてしまう [c]2026映画「星の教室」製作委員会
世間体を気にする母と干渉してこない父との間に溝ができてしまう [c]2026映画「星の教室」製作委員会

なかでも象徴的なのが、普段は見せない激しい感情を、さやかが爆発させる場面だ。

「親子だからこそぶつかってしまう場面は、とてもリアルで。演じている私自身の心も痛かったです。さやか目線の痛みもそうですし、お母さん目線のヒリつきも、さやかとして感じていたので。『仲良くしたい』という気持ちももちろんあるのに、自分が期待していたものとは違う温度感の言葉を家族からかけられたりすることで反発し、心を閉ざしてしまう。物に当たるのはしんどかったですが、普段、親には見せられないさやかの本心が、あの場面には表れているのではないかなと思います」。

「真木さんが『自然と隣に行ってあげたくなってしまった』と話してくださいました」

角川春樹最後の総監督作品で主演を務めた桜田ひより 撮影/杉映貴子 スタイリング/前田涼子 ヘアメイク/徳永 舞(BEAUTRIUM) 衣装協力/ニット¥24200、ワンピース¥26400(以上DEICY) その他スタイリスト私物
角川春樹最後の総監督作品で主演を務めた桜田ひより 撮影/杉映貴子 スタイリング/前田涼子 ヘアメイク/徳永 舞(BEAUTRIUM) 衣装協力/ニット¥24200、ワンピース¥26400(以上DEICY) その他スタイリスト私物

さやかが働くレンタルビデオ店を切り盛りする店長の緒方を演じたのは、原田泰造。ひょうひょうとしながら、そっと背中を押してくれる店長の絶妙な距離感について、桜田はこう分析する。

「さやかがアルバイトを続けられているのは、店長の雰囲気が大きいんじゃないかなと思います。無理に距離を縮めるわけでも、遠ざかるわけでもなく、見守っていてくれる。店長は、親とは違う立場や視点で物事を捉えているので、さやかにとっては新しい世界で居心地がいいし、思わずクスッと笑ってしまう瞬間もある。2人のやりとりを観ていると、彼女にもちゃんと居場所があってよかったなと思いました。店長の持つ優しさや温もりに、さやかが救われている部分も大いにあるんだろうなと感じました。そしてそれは、原田さんご本人の魅力でもあると思います」。

レンタルビデオ店の店長・緒方はさやかに優しく接する [c]2026映画「星の教室」製作委員会
レンタルビデオ店の店長・緒方はさやかに優しく接する [c]2026映画「星の教室」製作委員会

本作への出演にあたり、劇中のさやかと同様、映画『学校』を観たうえで、「夜間学級に通っていた方の卒業文集や、インタビューも読みました」と語る桜田。さらに、現在の時間割や、実際のカリキュラムなどにも目を通し、理解を深めていったという。

「現状を知った時、なんて心が温かくなる場所なんだろうと思いました。年齢も国籍も問わず、みんなが同じ目標に向かって進んでいて、先生と生徒という垣根を超え、『教室にいる全員が仲間なんだよ』という空気感が、様々な資料からも伝わってきました。こんな環境で学べたら、学び自体が本当に楽しく感じられて、その後のいろんな経験につながったり、考え方が変わったりもするんだろうなと思いました」

夜間部の理科教師、江口と、夜間中学を取材しに来た漫画家の用瀬(もちがせ) [c]2026映画「星の教室」製作委員会
夜間部の理科教師、江口と、夜間中学を取材しに来た漫画家の用瀬(もちがせ) [c]2026映画「星の教室」製作委員会

夜間学級の理科教師・江口を演じたのは真木よう子。物語の序盤、「卒業資格のない人なら誰でも夜間学級に入学できる」と穏やかに説明する江口の前で、さやかが「中学生活をやり直したい」と涙をこぼす場面がある。

「さやかが初めて自分の過去を吐露する時の、『別に無理に話さなくてもいいけど、ちゃんと受け止められるよ』という、真木さんの空気感が、本当に柔らかくて…。さやかにとって、過去を話すことでちゃんと自分と向き合えたり、いまの自分の感情を知ることができたりするとても特別な場面ですが、実は、真木さんが私の隣に来てくださるあの動きは、本番だけのアドリブでした。そのカットの撮影が終わった後、真木さんが『自然と隣に行ってあげたくなってしまった』と話してくださって。さやかが優しさに包み込まれている、素敵なシーンになっていると思います」。

夜間中学で国籍や年齢を問わず大切な仲間ができるさやか [c]2026映画「星の教室」製作委員会
夜間中学で国籍や年齢を問わず大切な仲間ができるさやか [c]2026映画「星の教室」製作委員会

夜間学級のクラスメイトを演じたのは、浅野温子、山本學、中尾ミエら日本映画界の重鎮たち。そのなかで、桜田はどんな立ち位置にいたのか。

「さやかは受け身で、一歩引いて物事を見る癖があるので、私自身も、皆さんがお話しているのを遠くから眺めている時間が多かったです。混ざりたい気持ちもありましたが、そこはさやかに寄り添いたいなと思いました。それこそ年齢や経験問わず、和気あいあいとしている姿が、本物の学校みたいだなと思いながら見ていました」。

一方、ずっと受け身だったさやかが、夜間学級で出会った人たちの逞しさや温かさに触れたことで、「そこからどう脱却し、どう自分の人生を歩み出すのか。さやかの内面で起きる変化が、『星の教室』においてはとても重要でした」とも明かす桜田。

「お互いがぶつかるシーンでも、みんなで話しながら前向きな気持ちで撮っていたのが印象的でした。それぞれの登場人物が抱えている悩みや視点を、監督と共有していく時間もありました」。

「お芝居を通じて放出されるエネルギーの大きさに向き合うことで、さやかの心がどんどん動いていく感覚が強くありました」

クラスメイトたちに支えられ、前向きに学校生活を送れるようになったさやかだったが… [c]2026映画「星の教室」製作委員会
クラスメイトたちに支えられ、前向きに学校生活を送れるようになったさやかだったが… [c]2026映画「星の教室」製作委員会

現場を率いたのは、繊細な人間描写が高く評価された中川龍太郎監督だ。

「中川監督の作品はもともといくつか拝見していたのですが、監督の映画には、ご自身が持っている空気感と、出演している俳優陣の空気感とが相乗効果で現れているなと感じていたので、『そこに自分も入れるんだな』といううれしさがありました。現場では、全編通して、『桜田さんはどう思った?』『桜田さんはどうしたい?』と、監督のほうから聞いてくださったおかげで、自分の意見もちゃんと伝えることができましたし、その結果それまで気づかなかった自分の発見にもつながりました。一人ひとりの意見を尊重してくださる中川監督の柔軟さに、とても助けていただきました」。

撮影当時89歳だった山本學 [c]2026映画「星の教室」製作委員会
撮影当時89歳だった山本學 [c]2026映画「星の教室」製作委員会

劇中には、浅野扮する中国残留孤児の蕗子と、山本が演じる交通整理員の遠見が、それぞれの壮絶な戦争の記憶を全身全霊で語る場面も登場する。

「あの場面は、本当に圧倒されました。浅野さんや山本さんがお芝居を通じて放出されるそのエネルギーの大きさに、誠心誠意向き合うことで、さやかの心がどんどん動いていく感覚が強くありました。それこそ年齢も経験値も全く違いますが、同じ俳優として、感化されました。本当に学びの絶えない現場でした」。

「自分のなかでずっと大切にしておきたい部分は、無理して出す必要はないんじゃないかな」

さやかに恋心をいただく健児 [c]2026映画「星の教室」製作委員会
さやかに恋心をいただく健児 [c]2026映画「星の教室」製作委員会

物語の終盤、思いもよらない人物がある事件を引き起こし、夜間学級に衝撃が走る場面も。何をもって、その人物の真実とするべきなのか、と問いかけられる局面でもあるが、桜田自身、「人が多面体であるのは当たり前のこと」だと考えている。

「もともと人にはいろんな側面があると思っています。タイミングや接する相手によっても見せる顔は違いますし、受ける印象が人によって変わってくるのは当然のことで。もちろんその状況にもよりますが、自分がそれまで知らなかった別の顔を知った時に、人格を否定するのではなく、その人の新たな一面として、ちゃんと受け止めてあげたい。そんな思いが、この作品を通してより強くなりました。『いろいろな側面があってのその人なんだな』という心の持ち方を学べました」。

そんな新たな気づきも踏まえて、桜田自身も、人前で素の自分を見せることに対するためらいが少なくなった部分もあるのかと尋ねると、そこに対してはこんな回答が。

「自分が人に『見せたい部分』と『見られてしまった部分』は、全然違うと思っていて。さらけ出したいなら、そうすればいいし、誰にも見せずに、自分のなかでずっと大切にしておきたい部分は、無理して出す必要はないんじゃないかなと思いました」。

終盤、さやかが遠見とベンチで言葉を交わす場面も「印象深い」と桜田は振り返る。

「『靴ひもがほどけたら結び直せばいい』という、まさに、いまのさやかに必要な言葉を、山本さん演じる遠見が的確に柔らかく言ってくださる場面も好きです。きっと観ている皆さんも心がギュッと締め付けられながら、温もりに包まれるんじゃないかと思います」。

さやかの気持ちに寄り添うことが大切だったと語る桜田ひより 撮影/杉映貴子 スタイリング/前田涼子 ヘアメイク/徳永 舞(BEAUTRIUM) 衣装協力/ニット¥24200、ワンピース¥26400(以上DEICY) その他スタイリスト私物
さやかの気持ちに寄り添うことが大切だったと語る桜田ひより 撮影/杉映貴子 スタイリング/前田涼子 ヘアメイク/徳永 舞(BEAUTRIUM) 衣装協力/ニット¥24200、ワンピース¥26400(以上DEICY) その他スタイリスト私物

「人は何歳からでもやり直せる。学び直すことだってできる――」。本作が掲げるそんな力強いメッセージを、桜田はさやかを通じ、どう届けたいと考えているのだろう。

「さやかの成長物語ではありますが、いろいろな視点で楽しめる映画だと思っています。出演されている方々の年齢層も国籍もバラバラですし、幅広い方に刺さるはずです。人は、大人になってからでもいくらでも挑戦できますし、学びは、年齢を問わず、自分発信で進めていけるものなんだなと知りました。この映画を通して、さやかのように、人の温もりに触れ、一歩踏み出す勇気を感じていただけたらうれしいです。実際に私自身が共演者の皆さんから受け取ったものは、ひとりずつまったく違うのですが、『人が人を思う気持ち』は、誰もが一貫して持たれていたんじゃないかなと思いました」。

取材・文/渡邊玲子

※高田郁の「高」は「はしごだか」が正式表記

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