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「保険なんて騙されてる」と言った俺が、彼女の保険を使わずに払おうとした通帳の中身

  • 2026.11.6
ハウコレ

洗面所の水を拭きながら、頭にあったのは父の口ぐせでした。鞄の内ポケットに入れた通帳が、本当は何のためのお金だったのかを話します。

洗面所の床を拭いても拭いても、水は洗濯機の下から広がってきました。外れたホースを片手に持ったまま、俺は彼女に電話をかけました。修理代のことより先に、彼女の顔が浮かんでいたのです。

父の口ぐせ

「ごめん、洗濯機の水が下の部屋まで漏れた」
電話の向こうの彼女に、まずそれだけを伝えました。
電話を切って床を拭いている間、頭にあったのは父のことでした。
「保険なんて騙されてる」は、もともと父の口ぐせです。
父は昔、知り合いに勧められるまま保険に入り、解約したときには払った額の半分も戻らなかったそうです。
その話を繰り返す父を見て育ち、俺も同じ言葉を使うようになっていました。
父は今でも、保険のパンフレットを見るだけで顔をしかめます。
彼女が更新の書類に名前を書いていたときも、深く考えずに口にしていたのです。

俺が払うと決めた理由

下の階の住人の方に「天井にしみができてしまって」と言われたとき、払うのは自分だと決めていました。
ホースを確かめずに洗濯機を回したのは俺です。
それに、彼女の保険を使えば、彼女が払ってきたお金で俺の失敗を埋めることになります。
それだけは、どうしても嫌でした。
「部屋の保険、入ってるから」
「保険は使わない。俺が払う」
彼女の声を背中で聞きながら、俺は振り向けませんでした。

通帳の中身

寝室の引き出しの通帳は、2年かけて少しずつ貯めてきたものでした。
いつか彼女に渡す指輪のために、給料から分けておいたお金です。
この部屋に越してきたころから、渡す日をずっと決めかねていました。
「これで足りるはずだから」
数字を見せたのは、足りると分かって安心してほしかったからでした。
指輪のことは言えないまま、通帳を鞄の内ポケットに入れます。
「明日、下ろしてくる」
テーブルに置かれた保険の控えを、俺は見られませんでした。

そして...

次の日、出かけようとした俺の前に、彼女が控えを持って立っていたのです。
「1回だけ、電話させて」
保険会社の担当者は、下の階の修理費も補償の対象になると説明してくれました。
俺は横から、控えの細かい文字を何度も読み返していました。
電話を切った彼女に「だから言ったでしょ」と言われ、頭を下げるしかありませんでした。
父の言葉を信じ込んでいたのは、俺のほうだったのかもしれません。
鞄の内ポケットの通帳は、指輪の値段のまま1円も減りませんでした。

(30代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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