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加賀翔(かが屋)が読むシェイクスピア『マクベス』「僕に書ける言葉では辿り着けないところへ連れていってくれる作品」【n人のブックウォッチャー】

  • 2026.11.3

作家やクリエイター、お笑い芸人、音楽アーティストなど、多彩なジャンルで活躍する人たちが、心に残る一冊をセレクトして、自身の言葉で紹介! 本を選んだ理由やそれぞれならではの視点を通して、本との新しい出会いや、読書の楽しみを届けます。

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『マクベス(新潮文庫)』 (シェイクスピア:著、福田恆存:訳/ 新潮社)
『マクベス(新潮文庫)』 (シェイクスピア:著、福田恆存:訳/ 新潮社)

今回シェイクスピアの戯曲を選んだのは、僕たちがやっているラジオのイベントで、リスナーと一緒にシェイクスピアの舞台をやるかもしれない、という話になったからだ。RCCラジオ「かが屋の鶴の間」には演劇経験のある社員さんもいて、もしかするとリスナーの中にも経験者がいるのではないか、というところから話題に上ったのである。実際にシェイクスピアをやるかどうかは定かでないが、ここで読まなければ一生触れないままかもしれない。そうして手に取ったのが『マクベス』だった。

番組イベントでは、過去にリスナーの詠んだ自由律俳句をミニコントに変えて披露したり、楽器が弾けるリスナーに演奏してもらい、その演奏を背に相方の賀屋が歌ったり、とリスナーと一緒にできる何かにチャレンジしてきたが、『マクベス』のような物々しい印象の舞台をやるとなれば相当に大変だろう。

魔女から王になるという予言を受けたマクベスは、スコットランド王・ダンカンを殺害し、王に即位する。しかし、それをきっかけにマクベスの心は次第に壊れていく。彼以上に野心と実行力を持つマクベス夫人、マクベスと共に予言を受けた将軍バンクォー、マクベスへの復讐に燃える貴族マクダフなどが登場する戯曲である。小説ではなく戯曲なので、当然だが全編が台詞で構成されている。

自分が参加するならどの役なのだろう、相方はどんな役ができるだろう。「ならば一度やってみよう」ということで、僕は立って動きながら、すべての台詞を声に出して読んでみることにした。とてもとても大変だった。何が大変かというと、まずとても照れる。全くと言っていいほど日常的な言葉が出てこない。マクベス夫人の「私を女でなくしておくれ、頭の天辺から爪先まで、恐ろしい残忍な心でいっぱいにしておくれ! この血をこごらせ、優しい情けの通い路をふさいでおくれ」という鬼気迫る台詞を声に出しているときは、誰かに聞かれたら何かを唱えていると思われかねない。

しかし実際に口にしてみるのはとても面白かった。「残忍になりたい」と言うだけなら簡単だが、血をこごらせ、優しい情けの通い路をふさいでくれ。ここまで言う。言葉を重ねることで、むしろ彼女の中に残っている情けや、それを消してしまわなければならないほどの決意までが見えてくるようだった。とにかくみんな長く語る。これが劇だからではあるが、一人のターンがとても長い。だから会話では到達できない発露を感じられて興奮した。

分からない言葉も多々あり、意味を調べながら読み進めていると、日常的な言葉はもしかすると感情表現を狭めているのかもしれないと思った。僕たちは普段、言葉だけでなく表情や声色でも気持ちを伝えている。「怖い」「不安だ」「腹が立つ」と短い言葉でもなんとなく伝わるが、『マクベス』の人々は、不安ひとつを伝えるためにも、あらゆる言葉と思慮を尽くす。その言葉の豊かさが、野望に取り憑かれていく人間の愚かさを引き立たせていて、心苦しくなった。

『マクベス』が最初に上演された時期にも諸説あるが、1606年には宮廷で上演された記録が残っているという。そして第二幕第三場の門番の場面には、当時の事件を連想させる時事ネタが盛り込まれていると知って驚いた。時事は慎重に扱わなければすぐに古びてしまうものだが、笑いを生むこともある。もしかすると当時、これほどシリアスな物語を観ながら、その真剣さを笑いに転じていた人もいたのではないか。四百年以上前の客席を想像して胸が熱くなる。

『マクベス』の物語だけを簡単な言葉に置き換えれば、もっとずっと短く説明できる。しかし、そうした瞬間にこの戯曲は強度を失ってしまう気がする。話の流れや派手な展開だけが人を惹きつけているのではない。この世界の人々が、自分の中に起きた感情を言葉にすることにあまりにも真剣だからこそ心を打たれるのだと思う。

普段決して使わないような言葉ばかりなのに、声に出していると、既知の感情を超えていく瞬間が何度もあり、『マクベス』は、僕に書ける言葉では辿り着けないところへ連れていってくれる作品だった。

これをみんなでやるのはとても難しいだろう。しかし、「世間を騙すには、世間とおなじ顔色をなさらねば」というマクベス夫人のセリフをリスナーが言っている背中。ぜひ見たいと思った。

◆加賀翔さんが紹介した本

『マクベス(新潮文庫)』(シェイクスピア:著、福田恆存:訳/ 新潮社)

【プロフィール】

加賀翔(かが屋)

マセキ芸能社に所属するお笑いコンビ。

2015年に相方の賀屋壮也と「かが屋」を結成。

2019年、2022年にキングオブコント決勝進出。

写真撮影が趣味・特技であり、Nikonプロフェッショナルフォトグラファー認定。

東京ニュース通信社「TVガイド PERSON」・WEB「ENCOUNTER MAGAZINE」・集英社「SPUR」にてカメラマンとして連載を持つ。

お笑い芸人、カメラマンの他、TVやCM、映画など幅広く活躍中。

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