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「怒りっぽい・転びやすい」5歳児が変わった! 子どもの情緒と運動・姿勢の深いつながりとは?[専門家が監修]

  • 2026.10.31
cocreco怒りっぽい、転びやすい子どもを変えるカギとは。 イラスト:松本うち

怒りっぽさや落ち着きのなさは、性格や特性と受け止めがちです。しかし理学療法士・アスレティックトレーナーの池上悠さんは、「どんな子でも、身体と心は常にリンクしている」と指摘します。“身体の視点”を加えることで、子どもの見え方は変わっていくのです。

今回は、走るのが苦手で転びやすく、感情の起伏も大きかった男児のケースをもとに、なぜ身体を整えることで集中力や情緒面にも変化が現れるのか、その具体的な仕組みを伺います。

「怒りっぽい」は性格じゃない? 身体のぎこちなさとの意外な関係

発達障害及び発達が気になる子どもをはじめ、5000人以上の発育・運動サポート実績を持つ理学療法士・アスレティックトレーナーの池上悠(いけがみゆう)さん。なかでも印象的だったのが、保育園時代からサポートしてきた男児(当時5歳)のケースです。

5歳のころは、走るのが遅い、転びやすい、動きがぎこちないなど身体面の課題に加え、「できる・できない」へのこだわりが強く、すぐに怒ったり泣いたりと感情的・衝動的な面もあったといいます。

「実際に走る姿を見ると、トップスピードに乗ったあと自分でうまく止まれず、転んで止まるような感じでしたね。保護者の方は、すぐ怒る子どもの様子から小学校に上がったときに友人関係は大丈夫か、体育の授業についていけるか、と心配されていました」(池上さん)

第1回でも触れたように、困りごとの多い子どもには、猫背や極端な内股・ガニ股、反り腰などの「姿勢のクセ」や、手足のぎこちなさが見られるケースが少なくありません。

そこで池上さんは、ぎこちなさをやわらげるために、手足を協調して動かす運動を取り入れながら、全身を使う有酸素運動を組み合わせました。

「有酸素運動は、身体を使ってエネルギーを発散する感覚を身につけていくことが目的です。感情的・衝動的な子どもには発散が非常に大きな要素です。エネルギーの出口を“身体側”にも作っていくイメージですね」(池上さん)

cocreco全身を使う有酸素運動のひとつ「エリア・タイムトライアル鬼ごっこ」。走ることでエネルギーが発散され、また範囲や時間の制限があることで衝動が抑えられ、コントロールの練習になる。 写真提供:池上悠

こうした運動を続ける中で、変化は、劇的に一気に起こるのではなく、小さな変化の積み重ねとして少しずつ見えてきます。たとえば、最初はよく怒っていたけどその時間が少し減る、落ち着いて取り組める時間が少し延びる、などです。

そして、保護者の関わり方の変化も、この男児の変化を後押ししました。

親の変化が子どもの成長を加速させる

池上さんは、子どもへの関わり方も重視しています。

指導の際は、「できた・できなかった」という結果だけで評価せず、「前より長く座れた」など、実際にチャレンジしたことを具体的に伝えることを意識しています。メニューも、7~8割できれば十分。あせらず、少しずつ「できた」を増やしていきます。

「運動のメリットのひとつは、小さな成功体験を段階的に積み重ねやすいこと。自分で身体を動かしますから、『やればできる』という感覚を育みやすく、それが自信や行動面の変化にもつながっていきます」(池上さん)

cocreco視線・手足を協調して動かす運動「ボール投げ」。足腰で踏ん張りながら上半身でボールを投げることで、手足の協調性を養う。また、目標地点を見て(視線)集中する力も同時に育む。 写真提供:池上悠

実際、先の男児も小学校に上がるころには情緒面も落ち着き、小学5年生となった現在も大きな困りごとなく過ごしているといいます。

その成長を後押ししたもうひとつの要因が、父親の関わり方でした。

怒りっぽい子どもが落ち着き始めた!

「当初はお母さんのみ取り組んでいましたが、子どもの変化を実感するようになってからは、お父さんもレッスンを見学するようになりました。

お父さんも『できた・できない』でとらえがちでしたが、やがて『チャレンジしたことを評価する』という視点を親子で共有できるようになると、子どもの成長のスピードもさらに上がっていきましたね」(池上さん)

良い姿勢が情緒面にも影響する理由

身体の使い方を整えることによる変化は、単に姿勢や動きの改善だけではありません。

「身体は、筋肉や骨格だけでなく、呼吸や血流、内臓、自律神経などが“チーム”のように一体となって働いており、その連携によって成長や神経の発達が促されています。

身体を整えるうえでの基本は『姿勢』と『体幹』です。良い姿勢とは、『リラックスした状態で自然にまっすぐ立てる』こと。

姿勢が整い、自然に胸が開いた状態になると、呼吸が深くなって酸素が取り込みやすいだけでなく、内臓も本来の位置で働きやすくなります。

すると、食べたものをエネルギーへ変える働きや、自律神経のバランスも整いやすくなり、身体全体のシステムが機能しやすくなるんです」(池上さん)

反対に、身体全体の働きがうまく巡らない状態では、疲れやストレスを溜め込みやすくなります。すぐに怒ったり泣いたりする背景には、呼吸や血流、神経の働きなど“身体の中の通り道”がとどこおり、感情やエネルギーの出口がうまく作れなくなっている状態にあると考えられます。

「例えば、『頭に血がのぼる』という表現がありますが、感情が高ぶると顔が赤くなったり、身体が熱くなったりするように、身体と感情は密接につながっているのです」(池上さん)

cocreco姿勢づくりの土台となる体幹を鍛える「四つばい運動」。身体を安定させながら手足を使って歩くことで全身をスムーズに動かす力が育つ。 写真提供:池上悠

池上さんによると、“身体の中の通り道”がスムーズになると、神経からの信号も伝わりやすくなり、身体の感覚入力や反応の偏りも整いやすくなるといいます。

脳にも必要なエネルギーが届きやすくなることで、過剰な感覚反応や興奮状態が落ち着き、集中力や認知面、感情面にも好影響が広がっていくのです。

池上さんのアプローチは、いわゆる「運動療育」とも少し異なります。

運動療育とは、発達障害や日常生活での困りごとに対し、運動を通じて改善を目指すアプローチです。一方、池上さんが重視しているのは、すべての子どもに共通する“身体の土台づくり”だといいます。

「身体を支える、手足を動かす、歩く、走る──。人であれば共通して必要な“土台”があります。まずは、その土台である『姿勢』と『体幹』、手足の協調性などの『身体の使い方』を整えて、身体全体がスムーズに働きやすい状態をつくることを目指しています」(池上さん)

実際に運動に取り組んだ家庭からは、「集中力が上がった」「自分から新しいことに挑戦するようになった」「友達に話しかけるようになった」など、さまざまな変化の声が寄せられています。

「なかには『続けることが大切だよね』と自ら言う子もいますね(笑)。子どもはとても敏感なので、自分の中の変化もしっかり感じ取っています」(池上さん)

こうした身体づくりは、自宅でも簡単に取り入れることができます。

次回は、週1回から道具なしで始められるおうち遊びを紹介。姿勢づくりのベースになる体幹運動や、「感情的・衝動的になりやすい」「コミュニケーションが苦手」といった悩み別の具体的な遊び、関わり方のコツを伺います。

取材・文/稲葉美映子

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