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家畜のウイルス「シャモンダ」に初めて人が感染

  • 2026.10.30
家畜のウイルス「シャモンダ」に初めて人が感染
家畜のウイルス「シャモンダ」に初めて人が感染 / 蚊とヌカカの一種が、同じ人(撮影した人自身)の肌を同時に刺しているところです。今回の患者にウイルスを運んだとみられているのも、ヌカカ(Culicoides属)の仲間です。 Credit: Dunpharlain / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、16:9 に切り抜いて表示)

夏の夕方に川べりを散歩していたら、腕に小さな虫が止まり、気づくとかゆい点がいくつも並んでいました。

2026年の夏、ヨーロッパで、あるウイルスの新しい系統が姿を現しました。

名前はシャモンダウイルスといい、おもに牛に感染して広がっています。

ところがフランスで、このウイルスに人が感染した初めての例が報告されました。

家畜のウイルスは、どのようにして人の体に入り込んだのでしょうか。

そして、牛の流行が広がる中で、私たちが気にかけるべきことはあるのでしょうか。

フランスで起きたこの症例の報告から、分かっていることを順に見ていきます。

研究の詳細は、2026年10月22日付で学術誌『Eurosurveillance』に掲載されました。

免疫が弱った患者に起きた脳炎

ウイルス検査の結果と症状を、日付の順に並べた模式図です。赤い丸の陽性は脳の症状より少なくとも2か月前から続き、移植片は陰性でした(線の形は模式的で、縮尺は正確ではありません)。
ウイルス検査の結果と症状を、日付の順に並べた模式図です。赤い丸の陽性は脳の症状より少なくとも2か月前から続き、移植片は陰性でした(線の形は模式的で、縮尺は正確ではありません)。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図、論文の図1(Bonnet et al., Eurosurveillance (2026)、CC BY 4.0)をもとに作成)

患者は、免疫の働きがひどく弱まった状態にあったフランスの人でした。

この患者は、他人から提供された幹細胞を移す治療(同種幹細胞移植)を受けていました。

その1か月後の2026年9月、患者は脳に炎症が起きる脳炎を発症し、その後亡くなりました。

原因を探るため、脳と脊髄をひたす液体(脳脊髄液)が調べられました。

腰の背骨の間に針を刺して採った、人の脳脊髄液が入った4本の容器です。見た目はふつうの状態の脳脊髄液です。
腰の背骨の間に針を刺して採った、人の脳脊髄液が入った4本の容器です。見た目はふつうの状態の脳脊髄液です。 / Credit: James Heilman, MD / Wikimedia Commons(CC BY 3.0)

使われたのは、試料の中の遺伝物質をまとめて読み取り、何がいるかを洗い出す方法(メタトランスクリプトミクス)です。

すると液体の中から、シャモンダウイルスの欧州の新しい系統「SHAV-EU1」が見つかりました。

ウイルスの遺伝子を狙って増やす別の検査(RT-PCR)でも、同じ結果が確かめられています。

さらに、中枢神経から採った組織を調べると、ウイルスが大量に含まれていました。

牛で流行していたウイルスが、人の脳の周りで数多く見つかったのです。

調べはそこで終わらず、患者から以前に採られていた試料にも及びました。

対象になったのは、血液、呼吸器、便の試料です。

その結果、脳炎が始まる少なくとも2か月前から、これらの試料にウイルスがいたことが分かりました。

つまり脳炎は、感染してすぐに起きたものではなかったことになります。

ウイルスはいつ、どこから入り込んだのか?

フランスのジュラ県、シャンパニョールの近くにいるモンベリアール種の牛です。患者がいつ感染したかを探るときに手がかりになったのは、こうした牛の側の記録でした。
フランスのジュラ県、シャンパニョールの近くにいるモンベリアール種の牛です。患者がいつ感染したかを探るときに手がかりになったのは、こうした牛の側の記録でした。 / Credit: Prankster / Wikimedia Commons(Public domain)

では、患者はいつ感染したのでしょうか。

実は、感染した日はまだ特定できていません。

調べた中でいちばん古い7月2日の試料が、すでにウイルス陽性だったからです。

そこで手がかりになったのが、牛の側の記録です。

牛で最初にウイルスが検出されたのは7月初めで、乳牛では6月から症状が記録されていました。

これらを合わせて、患者は2026年6月中旬から7月1日までの間に感染した可能性が高いと考えられています。

患者の病歴をさかのぼると、気になる出来事も見つかりました。

6月19日に、患者は下痢と食欲不振を起こしていたのです。

これは、ウイルスに感染した大人の牛で見られる症状とよく似ています。

研究者たちは、これがこの感染の最初の症状だった可能性があるとみています。

さらに古い血液や呼吸器の試料を使い、ウイルスが最初に現れた時期を探る調査も続いています。

次の謎は、ウイルスがどこから入ったかです。

患者がどの道すじでウイルスに感染したかの候補を、可能性の高い順に上から並べた図です。虫に刺された道が最も有力で、移植による感染ははっきり外されています。
患者がどの道すじでウイルスに感染したかの候補を、可能性の高い順に上から並べた図です。虫に刺された道が最も有力で、移植による感染ははっきり外されています。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

ひとつ考えられるのは、移植された幹細胞にウイルスが混じっていた可能性です。

しかし、移植に使われた細胞(移植片)は、ウイルスの検査で陰性でした。

そもそも患者の血液は、移植より前からウイルス陽性になっていました。

このため、移植によって感染した可能性は否定されています。

いま調べられている感染経路の候補は3つです。

最も有力なのは、牛と同じように、虫に刺されてうつったという道筋です。

その虫は、おそらくヌカカ(Culicoides属)という、刺す小さな羽虫だとみられています。

患者の自宅は農村地帯にあり、そこでは7月初めに、動物の間での感染が公式に確認されていました。

人の肌にとまって血を吸っている、ヌカカの一種(ハイランドミッジ)です(イギリス・アラン島のブロディック、2020年7月)。おしりの先のあたりに、赤いしずくが見えています。
人の肌にとまって血を吸っている、ヌカカの一種(ハイランドミッジ)です(イギリス・アラン島のブロディック、2020年7月)。おしりの先のあたりに、赤いしずくが見えています。 / Credit: Frank Ashwood / iNaturalist(CC BY 4.0)

実際には、6月の時点ですでに感染が起きていたとみられています。

ただし、ヌカカ以外の虫などが運んだ可能性も、調べる必要があるとされています。

残る2つの候補は、輸血と食べ物です。

どちらも出来事の順番から考えると可能性は低く、今のところ裏付ける証拠はありません。

輸血でうつるには、免疫が正常で症状の無い献血者が、6月の時点でウイルスを血液中に持っている必要があります。

しかし動物では、ウイルスが血液中にいる期間はごく短いと報告されています。

生の牛乳やチーズからうつる可能性も、低いと考えられています。

牛乳からウイルスが見つかった報告はまだ無く、動物どうしが直接触れ合ってうつる証拠も無いからです。

それでも、この2つの候補をはっきり外すための調査は続いています。

今のところ、ウイルスは牛と同じく虫に刺されて入り込んだという見方が、最も有力なのです。

牛の流行が広がる中、人への危険は

フランスのモルヴァン地方、コルビニーの近くにいるシャロレー種の牛です。このウイルスはおもに牛に感染し、フランスでは牛の流行が各地に広がっています。
フランスのモルヴァン地方、コルビニーの近くにいるシャロレー種の牛です。このウイルスはおもに牛に感染し、フランスでは牛の流行が各地に広がっています。 / Credit: Pline / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

では、ほかにも感染した人はいるのでしょうか。

報告によると、今のところ、ほかに人が感染した証拠は見つかっていません。

ただ、この患者の体がウイルスにどう抵抗したか(抗体の反応)は、市販の検査法がまだ無いため調べられませんでした。

研究チームは今後、抗体を調べる検査を用意し、保存されている血液を使って、家族やフランスの住民にウイルスにさらされた人がいないかも調べる予定です。

その一方で、牛の流行はフランス各地に広がっています。

10月15日の時点で、フランス本土96県のうち53県で、牛の流行が確認されました。

フランス本土の県を1つずつマスにして、牛の流行が確認された県に色をつけた図です。半分以上のマスが色づき、牛の間で流行が大きく広がっていることが分かります(マスの並びは地図ではありません)。
フランス本土の県を1つずつマスにして、牛の流行が確認された県に色をつけた図です。半分以上のマスが色づき、牛の間で流行が大きく広がっていることが分かります(マスの並びは地図ではありません)。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

半分を超える、およそ55%の県に広がっている計算です。

牛の間でこれだけ広がっていながら、人の感染が確認されたのはこの患者だけなのです。

では、なぜこの患者は感染し、重い病気になったのでしょうか。

研究者たちは、患者の免疫がひどく弱っていたことに注目しています。

このウイルスは、一般に人の体の中ではうまく増えにくいとされています。

それでも、免疫の守りが弱いこの患者では、人に感染できたのかもしれません。

そして、中枢神経や便、呼吸器の試料が陽性だったことから、ウイルスは体の複数の場所に広がったとみられます。

実際、患者の試料に含まれるウイルスの量は、感染した動物の試料より多いものでした。

フランスのオー=ラン県、フェネマットにいるモンベリアール種の牛です。患者の試料に含まれていたウイルスは、感染した動物の試料よりも多いものでした。
フランスのオー=ラン県、フェネマットにいるモンベリアール種の牛です。患者の試料に含まれていたウイルスは、感染した動物の試料よりも多いものでした。 / Credit: Eponimm / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

組織の試料からはウイルスを育てられ、そのウイルスは細胞を壊す様子を見せました。

つまり患者の体にあったのは、遺伝子のかけらだけでなく、増える力を持つウイルスだったのです。

このウイルスは、牛のおなかの中の子(胎児)の脳でも、多く見つかることが報告されています。

研究者たちは、このウイルスには脳や神経に入り込む性質がありうると考えています。

実際、患者の神経の症状は、このウイルスに感染した馬で報告された症状と一致していました。

人に感染する仲間のウイルスで最も近いオロプーシェウイルスの症状とも、一致していたといいます。

フランスのオート=ピレネー県で撮られた馬たちです。患者の神経の症状は、このウイルスに感染した馬で報告された症状と一致していました。
フランスのオート=ピレネー県で撮られた馬たちです。患者の神経の症状は、このウイルスに感染した馬で報告された症状と一致していました。 / Credit: Florent Pécassou / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

同時に、ウイルスが体中に広がるのを抑えるうえで、免疫の力が大切だということも浮かび上がります。

一方で、まだ答えの出ていない問いもあります。

このウイルスでは、表面の突起のたんぱく質(スパイクたんぱく質)などに、中身を変える変異が報告されています。

人に適応するリスクを知るため、これらの変異を慎重に調べる必要があると研究者たちは述べています。

今回の例が示すのは、牛のウイルスが、免疫のひどく弱った人では脳にまで達しうるということです。

ただし研究者たちは、患者の免疫がひどく弱っていたことから、この1例だけで、免疫が正常な一般の人に深刻な危険があるとは今のところ言えないとしています。

人から人へ直接うつる可能性は低いとみられますが、輸血や臓器移植でうつる可能性は、なお気がかりな点として残るとしています。

手袋をした手に、ヌカカの一種(ハイランドミッジ)が大量に群がっています(イギリス・スコットランドのケアンゴームズ国立公園、2008年8月)。ヌカカのメスの成虫には血を吸うものが多く、明け方や夕暮れ、湿り気の多いときに現れます。
手袋をした手に、ヌカカの一種(ハイランドミッジ)が大量に群がっています(イギリス・スコットランドのケアンゴームズ国立公園、2008年8月)。ヌカカのメスの成虫には血を吸うものが多く、明け方や夕暮れ、湿り気の多いときに現れます。 / Credit: Ewan Shilland / iNaturalist(CC BY 4.0)

【これまでの研究】

パスツール研究所などの研究チームは以前に、免疫の弱ったフランスの患者2人が、原因の分からない脳炎で亡くなった例を調べました。

脳の組織を調べると、シャモンダウイルスと同じ仲間(オルトブニヤウイルス)で、それまで人からは見つかっていなかったウンブレウイルスが見つかり、脳の神経細胞に感染して大量に増えていました。

患者たちが発症の前に過ごした南フランスでは、このウイルスに近い仲間の遺伝子が蚊から見つかり、研究チームは、免疫の弱った人ではこうしたウイルスが脳炎を起こしうると結論づけています。 (関連研究)

牛がしっぽをぶんぶん振っているのは、ご機嫌だからではなく、本気の防衛戦なのかもしれません。

ここからは、ヌカカをもっと知りたい人へ

ヌカカとは、人や家畜を刺すこともある、ごく小さな羽虫です

ヌカカの仲間で、体の大きさは2.5mmほどです。
ヌカカの仲間で、体の大きさは2.5mmほどです。 / Credit: xpda / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

ヌカカは体長1〜3mmほどしかなく、蚊帳の目を通り抜けてしまうほど小さな虫です。

名前もその小ささにちなんでいて、「糠(ぬか)のように小さな蚊」という意味です。

ただ、すべてのヌカカが血を吸うわけではありません。多くは花の蜜を食べたり、トンボなどの翅にとりついてその体液を吸ったりしています。

世界では4000種以上が知られています。約60の属(近い種のまとまり)のうち、人や家畜の血を吸うのは4属です。

血を吸う種類は、おもに朝と夕方に外で肌の出ている所を刺します。ときには服の内側にまでもぐり込みます。

幼虫は池や沼、川などの底で育ちます。そのため、刺されることが多いのも、そうした水辺の近くです。

刺されると激しいかゆみが出ます。大発生した土地では、外で働けなくなることもあります。

日本では、ヌカカは人の病気を広めないとされています。一方、アフリカや南アメリカなどでは、人の寄生虫の病気や家畜のウイルス病を運ぶ例があります。人のオロプーシェ熱も、おもにヌカカの一種に刺されることでうつります。

【よくある疑問】

Q. ヌカカに刺されると、すぐに気づきますか?
A. ヌカカは体がとても小さく、刺されたときの痛みも少ないため、刺されても気づかないことが多いです。それでも、刺されたあとの症状は悪化することがよくあります。

Q. ヌカカはどんな虫に似ていますか?
A. ヌカカの見た目はユスリカの成虫に似ています。ただし、ヌカカは血を吸うための発達した口を持っています。多くの種類は翅に模様があり、止まるときは翅を重ね合わせます。

Q. ヌカカに刺されないためには、どうすればよいですか?
A. 虫よけ剤(忌避剤)を体に塗っておくと、刺されるのを防げます。ヌカカが運ぶオロプーシェ熱の予防でも、虫よけ剤を使うことと、肌を出さないことが勧められています。

Q. ヌカカは家の中でも刺しますか?
A. イソヌカカという種類は、海岸近くの沼で生まれます。磯釣りの人を襲うほか、電灯の明かりに誘われて家の中に入り、刺すこともあります。

写真で見るヌカカの仲間の成虫と幼虫

オランダのエルストの公園で撮られた、ヌカカの仲間の成虫です(種までは確かめられていません)。今回、患者にウイルスを運んだとみられているのも、ヌカカの仲間の刺す小さな羽虫です。
エストニアのラクヴェレの池で2021年5月に採られた、ヌカカの仲間の幼虫を顕微鏡で撮った写真です。

この研究の概要 発表 感染症の報告を載せる学術誌「Eurosurveillance」に、2026年10月22日に掲載されました。 研究チーム Margot Bonnet さんら34人の研究者による報告です。人の検査で依頼を受けてから、獣医の検査機関が確かめるまでは1週間で、研究チームはフランスの専門の検査機関どうしがうまく連携できたとしています。 調べた対象 同種幹細胞移植を受けた後に脳炎で亡くなった、免疫のひどく弱ったフランスの患者1人です。 調べ方 脳脊髄液の遺伝物質をまとめて読み取ってウイルスを見つけ、RT-PCR という検査で確かめました。中枢神経から採った組織と、以前に採られていた血液・呼吸器・便の試料も調べ、組織からはウイルスを育てました。 分かったこと 牛で広がるシャモンダウイルスの欧州の系統「SHAV-EU1」に、人が感染した初めての例でした。ただし患者の免疫はひどく弱っていたため、この1例だけで、免疫が正常な一般の人に大きな危険があるとは言えないと研究チームは述べています。 まだ分かっていないこと 感染した日と感染経路は、まだ確かめられていません。また、市販の検査法が無いため、患者の体がこのウイルスに対してどんな抗体を作ったかは調べられませんでした。

参考文献

Fatal encephalitis caused by Shamonda virus Europe 1 (SHAV-EU1) in a patient with a severely weakened immune system, France, 2026 (Eurosurveillance)
https://doi.org/10.2807/1560-7917.es.2026.31.42.2600883

コトバンク「ヌカカ」
https://kotobank.jp/word/%E3%83%8C%E3%82%AB%E3%82%AB

国立感染症研究所「オロプーシェ熱とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/12746-oropouche-intro.html

元論文

Fatal encephalitis caused by Shamonda virus Europe 1 (SHAV-EU1) in a patient with a severely weakened immune system, France, 2026
https://doi.org/10.2807/1560-7917.es.2026.31.42.2600883

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。 好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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