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ソフィア・コッポラ、監督引退を考えた『マリー・アントワネット』

  • 2026.10.30

公開から20年を迎えたソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』。2026年10月、米IndieWireのポッドキャストに出演したソフィアが、本作の撮影は監督人生でもっとも過酷だったこと、そして母エレノア・コッポラが遺した舞台裏の映像について語った。(フロントロウ編集部)

母が撮りためた80時間の映像

ソフィアが『マリー・アントワネット』を撮影していた当時、ドキュメンタリー作家でもある母エレノアは、カメラを手に撮影現場の舞台裏を約80時間にわたって記録していた。エレノアは以前にも、夫フランシス・フォード・コッポラが『地獄の黙示録』の撮影で追い詰められていく姿を記録しており、その映像は1991年公開のドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』に使用された。

しかし、娘の撮影現場で記録した映像は、長年手つかずのままだった。転機が訪れたのは、コロナ禍の2020年。一家でナパにある両親のブドウ園に戻った際、エレノアが「映像を出して見てみましょう」と提案したという。「それまで一度も見たことがなかったし、母があれほどの量を撮っていたとは知らなかった」とソフィアは振り返る。

エレノアは2024年に87歳で亡くなったが、晩年には、この映像をドキュメンタリーとして完成させることを望んでいた。ソフィア自身は「制作しようと思ったこともなかった」というが、母の願いをかなえるために作業を進め、『Making Marie Antoinette』として完成させた。

「監督をやめたい」と思うほどの現場

ソフィアによると、『マリー・アントワネット』は自身が手がけた作品のなかでも、群を抜いて過酷な撮影だったという。ヴェルサイユ宮殿での撮影や膨大な衣装替えなど、撮影の段取りに伴うストレスに押しつぶされそうになり、本気で映画監督をやめたいと思った瞬間もあったそうだ。

そんなソフィアが落ち込んでいる際、カメラを構えてトレーラーに入ってきたのが母エレノアだった。「母以外の人には、あんなふうに心を開いて、正直に、弱さを見せて話すことは絶対になかった」とソフィア。「見せるのは恥ずかしいけれど、映画づくりの現実や、そのときの気持ち、自信のなさが伝わればと思う。誰もがそういう経験をするんだと、若い映画監督たちの助けになればうれしい」と語っている。

20年前の自分の姿を見たソフィアは、「経験の浅い監督だった頃の自分を見るのは、本当にいたたまれない」と苦笑い。父からはいつも「『アクション』はもっと大きな声で言え」と助言され、周囲から軽く見られないか心配されていたそうだ。

酷評もブーイングも「男性目線」だった

公開当時、本作は厳しい評価にさらされた。ソフィアは最近、当時の酷評をまとめた箱を見つけたといい、「『王室の大混乱』みたいな面白い見出しばかりで、書いたのは全員男性だった」と明かした。

「フリルがあって女性的だから、中身がないものとして片づけられた。女性の視点に対する態度が、当時は違っていたんだと思う」

カンヌ国際映画祭のプレミア上映でブーイングを浴びたという話についても、「大げさに伝えられた」と説明した。一部のイギリス人記者がブーイングを始めたものの、記者会見で「ブーイングされましたね」と指摘され、そのまま見出しになってしまったという。

当時、ソフィアが驚いたのは、18世紀の宮廷劇に1980年代のポストパンクやニューウェーブを組み合わせた選曲への反発だった。スージー・アンド・ザ・バンシーズやニュー・オーダー、ザ・ストロークスらの楽曲を使用したこの手法は、現在では珍しくなくなっている。

ソフィアは「無難なことをして平凡な反応をもらうより、嫌われても愛されてもいいから挑戦したい」と話している。2026年には、カーリー・レイ・ジェプセンが新作の着想源として本作を紹介するなど、現在も新しい世代に影響を与え続けている。

母の日記に残されていた言葉

ドキュメンタリーの制作を進めるなかで、ソフィアはもうひとつの発見をした。エレノアの日記に、娘の撮影現場について記した文章が残されていたのだ。その文章は、エレノアの親友で俳優のダイアン・レインによって朗読され、作品のナレーションに使用されている。

エレノアはソフィアと同じ年齢の頃、すでに3人の子どもを育てており、家族のために創作活動をあきらめなければならないと感じていたという。

「母はずっと、母親であり妻であるために、自分の創作活動を十分にできなかったと感じていた。だから、私が両方をこなせているのを見て、とても喜んで励ましてくれていた」とソフィアは振り返る。

エレノアはその後、80歳で初の長編劇映画を監督した。ソフィアによると、母はそのきっかけについて「私の仕事を見たことがきっかけだった」と話していたという。

リマスター版『マリー・アントワネット』と『Making Marie Antoinette』は、公開20周年に合わせて米国で劇場公開された。リマスター版はクライテリオンからもリリースされる予定だ。

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