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「いい人生だな」引っ越し6回、年金暮らしの70代夫婦が賃貸を選び続ける…宅建士が聞いた“本音”

  • 2026.11.8
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。賃貸の現場に25年携わっている、宅建士のひろです。

「家は、買うもの」

そう考えて、持ち家を選んできた方は、多いのではないでしょうか。最近は持ち家か賃貸か、という話題もよく目にします。実は私も長いあいだ「持ち家派」でした。

今回は、賃貸仲介の営業をしていたころに出会った、70代のご夫婦のお話です。

「お子さんの家が近いからですか?」と聞いた、接客の場面

営業マンとして店にいたころ、まったく別の土地から引っ越してくる予定の、70代のご夫婦が来店されました。遠方からの引っ越しにはたいてい理由があります。私は部屋の条件を聞きながらこう尋ねました。

「お子さんの家が近いからですか?何かこの辺りにご縁が?」

すると、ご夫婦は笑ってこう教えてくれたのです。

「何年かごとに、自分たちが住んでみたい土地に引っ越しているんだよね」

聞けば、年金生活になってからは、5年前後を目安に住んでみたい土地へ引っ越しているとのこと。私の店に来るまでに、引っ越しは6回ほどだったそうです。それまではごく普通に暮らしながら、転職や転勤など、そのときどきの事情で住み替えてこられたのだろう、と私は思いました。

特別に裕福なご夫婦というわけではありません。ごく普通の年金で暮らすご夫婦です。年金生活になって、ようやく引っ越しの融通がきくようになったのかな、とも感じました。

何回も引っ越しをする理由

案内中、思わず私はこう聞いていました。

「何回も引っ越しをされるのは、大変じゃないですか?」

ご夫婦は顔を見合わせてから、こう答えてくれました。

「確かに持ち家も考えたことはあるのよ。でもね、自由にいろいろなところで住むのはなかなか楽しいものよ」

「特に年を取ってからは、2人にとって旅行みたいなものかも」

「まあ、長く同じところに住むと人付き合いも面倒じゃない」

「とはいえ、最終的には施設に入るかもしれないけどね」

そう言って、ははっと笑い合うご夫婦を見て、私は「いい人生だな」と思いました。

ご夫婦はずっと普通の賃貸暮らしをしてきた方たちです。けれど、だからこそ、年を重ねた今、住みたい土地へ身軽に移りながら、こんなに自由な暮らしができているのだな。そう気づいて私は素直に感動しました。

その部屋にご夫婦は5年ほど住み、やがて退去されました。次に住みたい街が見つかったのです。

賃貸で見落とされやすい、2つのこと

当時の私は、「年を取ったら、賃貸は借りにくいのでは」と思っていました。数字の上でもそうした声はあります。2023年に株式会社R65が実施した調査では、65歳以上で賃貸を探した人の約27%が、年齢を理由に入居を断られた経験があるといいます。ただ、現場で見てきた範囲では借りられないわけではありません。

1. 入居にかかる費用は、交渉できることもある

賃貸では、敷金・礼金・家賃のフリーレント(一定期間の家賃を無料にすること)を、入居前に相談するのは、珍しいことではありません。物件や条件によっては、費用が下がることもあります。

2. 高齢でも借りられる物件はあるが、選択肢は狭まりやすい

収入や保証人(保証会社)、緊急連絡先などの条件がそろえば、借りられる物件もあります。年齢だけで一律に断られるわけではありませんが、選択肢は狭まりやすいと考えておくと安心です。

持ち家にも、賃貸にも、いいところと、つらいところがある

もちろん賃貸がいいことばかり、というわけではありません。

・賃貸のいいところ:住みたい土地へ身軽に引っ越せる。修繕の負担が軽い。費用を抑えやすい
・賃貸のつらいところ:家賃を払い続けても自分の資産にはならない。年齢が上がると、保証人や住み替えの手続きの負担が重くなることがある

・持ち家のいいところ:自分のものになる。自由に手を入れられる。老後の住まいの安心感がある
・持ち家のつらいところ:大きな修繕や、固定資産税などの負担がある。住み替えにくい。立地によっては、いざというときに買い手がつかない

売りに出しても、買い手がつかない実家

実は、私自身が、いま悩んでいます。

私の実家は、売りに出すことはできます。けれど、買い手がなかなかつかない場所にあります。山やリゾート地のように、売りには出せても、0円でも買い手がつかない土地や家もあります。

「資産になる」と思って持った家が、いつのまにか手放せない荷物になる。このまま子どもの代になったらどうなるんだろう。持ち家のこわさはそこにあると、いまの私は感じています。

そんな私は、あの夫婦の笑い声を思い出しました。

資産にならない、というデメリットは確かにあります。けれど、大きな修繕やトラブルからすぐに逃げることができる。どちらが良いかは永遠に答えが出ないような気がします。それでも一度きりの人生の自由さを買う。これも一つの資産かもしれない。そう思いました。

持ち家か賃貸かで迷ったら

最後に、迷ったときの見方を3つ、お伝えします。

  1. お金だけでなく暮らし方で考える。何年後にどんな暮らしをしていたいかを、先に思い描く
  2. 将来の変化も見ておく。家族、健康、転居の可能性など、いまとは違う時期のことも考えておく
  3. 出口を考えておく。持ち家なら「売る・貸す・手放す」、賃貸なら「年を取ったときの住み替え」を早めに確認しておく

どちらが正解ということはありません。ただ、「家は買うもの」という思い込みだけで決めてしまうのは、もったいない選択です。時期が来たら売却して自由に暮らす。それも悪くないかもしれません。

参考:
住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)等の一部を改正する法律等について(国土交通省)


ライター:ひろ宅建士ライター

賃貸仲介で15年、独立後は賃貸管理会社を経営して10年。通算25年にわたり、不動産の現場に携わる宅建士。仲介時代は店舗責任者として、部門全国1位の表彰を受けた。管理会社の経営者として、入居者対応、退去立ち会い、原状回復、空室・空き家の管理など、大家さんと入居者の双方の悩みに向き合ってきた。現場で見てきた「正論だけでは割り切れない場面」をふまえ、わかりやすく、現場に根ざした不動産情報を届けることがモットー。


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