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「自分で決める」ワクワクをもう一度。介護施設を“1日限定デパート”に変えた愛生館の挑戦と、家族・地域に広がる笑顔の輪

  • 2026.10.28

要介護度が高まっても、自分の意志で好きなものを選ぶワクワク感を届けていきたい——。愛知県碧南市の社会福祉法人愛生館は、シニアリンク・ニッセンと連携し、10月16日(金)に特別養護老人ホーム「ひまわり」の地域交流スペースを“一日限定デパート”へと変える特別企画を実施した。

家族に依頼して日用品や衣類を購入するのではなく、「自分で選ぶ」喜びを取り戻すことで高齢者のQOL(生活の質)向上を図るとともに、地域住民も巻き込んだ新たな交流拠点の構築に挑む。施設内を“一日限定デパート”に変えた1日と、企画に込められた想いを追った。

外出の壁を越えて届ける、「自分らしさ」を選ぶ大切なひととき

超高齢化が進む中、介護施設への入居や要介護度の進行に伴い、高齢者が自力で買い物に出かける機会は減少傾向にある。背景には移動手段や車両の確保に加え、付き添いスタッフの人手不足、事故や転倒リスクといった安全面の確保などの課題が存在する。そのため、衣服や日用品の調達は「家族やスタッフによる代行」や「カタログからの調達」に頼らざるを得ないのが現状だ。

愛生館によると、現場ではさらに個々の体調に配慮した課題も浮き彫りになっているという。車椅子などに乗車できる時間は利用者の体調によってバラつきがあり、長時間の座位を保つことが難しい高齢者は外出機会自体を諦めざるを得ないという側面もある。

しかし、食事や衣服が常に用意される環境に包まれていると、自分の意思で欲しいものを吟味し、選ぶワクワク感や「自分で決める」という喜びを感じる機会は少なくなりがちだ。こうした背景から、愛生館はこれまでにもキッチンカーや移動スーパーなど、生活に彩りを添える取り組みを重ねてきた。

衣服を選ぶ時間も、その人らしさや日々の楽しみを彩る大切なひととき。自分でお気に入りの一着を選ぶプロセスは、高齢者の心身の健やかさやQOL(生活の質)向上にも優しく寄り添っている。

「安全に配慮しながらも、買い物や外出の楽しさを感じてもらいたい——」。愛生館では、そうした現場の想いや模索の中から、従来の枠にとらわれない新しい工夫を取り入れることにした。

チラシを眺める喜びから本物の買い物体験へ

「買いに行けないなら、デパート側を施設内に引き込めばいい」。この発想の転換から生まれたのが、今回の「一日デパート」企画だ。

愛知県碧南市で福祉事業を展開する愛生館は、高齢者向け訪問販売に強みを持つシニアリンク・コミュニケーション、および大手カタログ通販のニッセンとタッグを組んだ。施設にいながら本物の買い物の醍醐味を味わってもらうための試みとして、10月16日(金)、特別養護老人ホームひまわりの地域交流スペースを、1日限りのデパートへと変身させた。

この企画の裏側にある、現場のスタッフが抱いていた想いについて、特別養護老人ホームひまわり 施設長の長谷川民枝さんは次のように語る。

「新聞の折り込みチラシを見て、『これが食べたいな』『これが欲しいな』とお話ししてくださる方が多くいます。チラシを眺めるだけでも楽しむことができるのだから、実際に商品を手に取ることができたら、さらに大きな喜びに繋がるのではないか——。そう考えたことが、訪問デパートという形にこだわったきっかけでした」

これまでにも多様なアプローチで買い物の機会を作ってきた愛生館。現場での手応えと、それに伴う課題についてはこう振り返る。

「これまでに、キッチンカーや移動スーパーに来ていただいたりもしました。その中で、入居者さんが『自分の意思で選んで買い物を楽しむ姿』が本当に生き生きしていて、ご自身で選ぶ喜びの大切さを実感したんです。一方で、施設からの外出支援は送迎車や付き添いスタッフの都合上、一度にご案内できる人数に限りがありました。だからこそ今回の『一日デパート』は、より多くの方に楽しんでいただけるよう、施設内での開催にこだわりました。

また、介護施設に対して少し閉鎖的なイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、施設に入居されても社会の一員であることに変わりはありません。このイベントが、ご家族さまや地域の方との交流の場になればという想いも込めています」(特別養護老人ホームひまわり 施設長 長谷川民枝さん、以下同)

本物の店舗さながらの活気と選ぶ楽しさをプロデュース。色や柄を比べ、迷い、自分の好みで決める「服を選ぶ時間そのもの」をサポートし、自分らしさと笑顔を引き出したい。そんな温かい想いから実施されたのが今回の「一日デパート」だ。

地域や家族を巻き込む温かな輪——買い物体験が見せた、知られざる「人生の輝き」

「一日デパート」には特別養護老人ホームひまわりの入居者だけでなく、愛生館グループ内の他施設(デイサービスひまわり、碧南市養護老人ホームひまわり、複合施設CORRIN 碧カレッジ等)の利用者も参加した。また開催前には、回覧板などを通じて近隣住民にも周知。地域に開かれた場として施設へ足を運んでもらうきっかけを作り、福祉事業をより身近に届ける機会となった。

地域住民の来場や当日の反応について、長谷川さんは次のように手応えを語った。

「一般的に、お知り合いが入居されていない限り、地域の方が介護施設に足を運ばれる機会は多くありません。今回は地域で回覧板を通して告知を行ったことで、実際に足を運んでもらうことができ、福祉事業をより身近に感じていただく非常に良いきっかけとなりました。

当日は買い物を楽しまれることに夢中で、入居者さんとの直接的な会話こそ多くは見られませんでしたが、同時開催していた入居者さんの作品を展示した『文化祭』を熱心に鑑賞される姿も多く見受けられました。施設に足を踏み入れていただくこと自体が大きな一歩であり、取り組みとして確かな手応えを感じています」

さらに、当日は入居者のみならず多くの家族が会場へと足を運んだ。家族と一緒に買い物を楽しむ姿や、予想を超えた生き生きとした表情に出会える機会ともなった。

「平日開催にもかかわらず、私たちが想像していた以上に多くのご家族さまが一緒に買い物に参加してくださいました。敬老会や夏祭りなど、これまでもご家族参加型のイベントを実施してきましたが、過去最高の参加人数だったと感じています」

「中には試着した服を大変気に入られ、そのまま着て購入したいとおっしゃるほどお買い物を楽しまれている姿が印象的でした。当初は参加をご遠慮されていた方を『見るだけでも気分転換になれば』とお連れしたところ、素敵なベストを見つけて『どうしてもこれが欲しい』とおっしゃる場面も。スタッフからご連絡すると、ご家族さまが午後から駆けつけてくださり、一緒に買い物を楽しんでいただくことができました。

ご家族さまも『認知症状もあり、自分で選ぶのは難しいかもしれない』と思われていたようですが、いくつになってもご自身の興味や好きなものへの関心は変わらないのだと、改めて実感した瞬間でした。

また、認知症が重く普段は意思疎通が難しい方が、自分で洋服を手に取った瞬間に意識がスッと集中し、生き生きとした表情を見せてくださったことが印象に残っています。ご家族さまにお話を聞くと、『もともと、お買い物が好きだった』『昔、洋裁等をしていた』といったエピソードを教えてくださり、私たちがまだ知らなかった入居者さんの人生や素顔に触れられる、本当に貴重な機会となりました」

「施設にいるから」とあきらめない挑戦。地域全体へ広がる「選ぶ喜び」と笑顔の輪

愛生館では、地域の方々に興味を持って施設へ足を運んでもらうこと自体が、地域共生社会の実現に向けた大きな一歩になると考えている。未来に向けた今後の抱負について、長谷川さんはこう言葉を込める。

「今回の試みで見えた課題や手応えを糧に、今後は特養以外のグループ施設へも取り組みを広げていきたいです。施設という枠組みを超え、地域全体に開かれたコミュニティの拠点を目指していきたいと考えています」

「自分で選ぶ」というささやかな、けれどかけがえのない喜びを取り戻す取り組みは、高齢者の心に明かりをともすだけでなく、施設と地域を温かく結ぶ架け橋となった。買い物という日常のひとコマから始まった愛生館の挑戦は、これからも地域全体へ笑顔の輪を広げながら、誰もが自分らしく輝ける未来へと続いていく。

■特別養護老人ホームひまわり住所:愛知県碧南市鷲林町4-109-1公式HP:https://aiseikan.xsrv.jp/01/?page_id=1052

愛生館公式HP:https://aiseikan.xsrv.jp/01

(Kanako Aida)

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