1. トップ
  2. 不憫な聖女は、政敵の美しい俺様当主から「秘書になってほしい」と言われ…。魔法世界で聖教会の闇を暴くファンタジーロマンス【書評】

不憫な聖女は、政敵の美しい俺様当主から「秘書になってほしい」と言われ…。魔法世界で聖教会の闇を暴くファンタジーロマンス【書評】

  • 2026.10.24
虐げられた聖嫁は、政敵の当主に愛される 江本マシメサ/宵マチ/アース・スター文庫
虐げられた聖嫁は、政敵の当主に愛される 江本マシメサ/宵マチ/アース・スター文庫

『虐げられた聖嫁は、政敵の当主に愛される』(江本マシメサ/宵マチ/アース・スター文庫)は、理不尽な理由で離縁されてしまった不憫な聖女と、魔導会の若き俺様当主が織りなす、魔法いっぱいのファンタジーロマンス小説だ。

メクレンブルク大公家に嫁いだギーゼラは、信心深く教会の慈善活動にも熱心。「聖嫁」と呼ばれ、街の人々から慕われている心優しき女性だ。

しかし傍若無人の夫・シモンから子どもができないことを理由に、突如離縁を言い渡される。子どもができないのは、シモンには愛人がおり、親しい接触が一切ない「白い結婚」であったから当然のことなのに。

あまりにも理不尽に婚家を追い出されてしまったギーゼラだったが、実家にもいられない状況になってしまい、途方に暮れて下町の教会へ。

そこで偶然、政敵であったオルデンブルク大公家の若く美しい当主・エーリクと出会う。

エーリクからの思わぬ申し出。ためらうギーゼラだったが...

ギーゼラの嫁いでいたメクレンブルク大公家は聖教会を統べる存在だ。神が創造した世界との共存を第一とし、魔法を否定した生活をしている。対してオルデンブルク大公家は、世界樹を称え魔法による便利な世界を目指す魔導会のトップである。

それゆえ、この二家は建国以来の「政敵」だった。

だがエーリクは、政敵のはずのギーゼラに「秘書になってほしい」と申し出る。エーリクの目的は王太子に近づき、不穏な動きをする聖人インゴルフの正体を暴くこと。聖教会側の彼を調べるためには、ギーゼラのような聖教会に通じた人間が必要だったのだ。

離縁されたとはいえ、かつての政敵の味方になることをためらうギーゼラだったが、聖人インゴルフ、彼に関しては、ギーゼラも不審に思うことがあり、エーリクに協力することに。

かくしてギーゼラはエーリクの屋敷で共に暮らすこととなるのだが、屋敷には魔法があふれ、妖精や使い魔、飼い主不明の美しい白猫までおり……初めての魔法でいっぱいの暮らしに驚きを隠せないギーゼラと、エーリクの生活は――。

本作の読みどころの一つは、「魔法のある丁寧な暮らし」を体感しながら、ギーゼラとエーリクの関係が穏やかに深まっていく様子を堪能できることではないだろうか。

ギーゼラは魔法を一切使わない生活をしており、エーリクと暮らすことになって初めて「当り前のように魔法がある暮らし」を体験する。

お掃除もお料理も着替えも移動も、全て魔法で行われることに、ギーゼラは一つ一つ律儀に驚いたり、感動したりする。「日常に魔法があるってこういう暮らしなんだ……!」と、きっと読者もギーゼラと共にワクワクしながら楽しめるはずだ。

またエーリクの人間不信とも言える凍え切った心が、ギーゼラの料理を通して溶けていく様子にもほっこりした。

エーリクは長年兄に命を狙われており、毒殺を警戒した結果、いつも決まったマズい食事しか食べていなかった。ようやく兄を追放し、その懸念は無くなったのだが、ギーゼラが来て、彼女の手料理を食べ、共に食卓を囲むまでは、食事というものに楽しみを見出せずにいたはずだ。激しい感情変化があるわけではないのだが、氷が溶けるように緩んでいくエーリクの様子は、読んでいて温かい気持ちになれる。

はてさて、そんな魔法のある丁寧な日常の一方で、聖人インゴルフの正体を暴くための本筋も展開される。

彼の正体を追い、聖教会の闇に迫る流れにはハラハラしつつ、淡い恋と妖精とお料理と、優しい気持ちになれる魔法がたくさんかかっているような物語を、ぜひ楽しんでもらいたい。

文=雨野裾

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ