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磯村勇斗が映画『mentor』で見つめた人間のリアル

  • 2026.10.22
©2026「mentor」製作委員会

花火遊びで火事を起こし、被害者を出してしまったかつての少年2人(磯村勇斗、末澤誠也)は、15年後、罪の意識を抱えながらもそれぞれの道を歩んでいた。そしてあるとき、思いがけず、被害を受けた相手(綾野剛)と再会することになって……。『ヒメアノ〜ル』('16年)、『空白』('21年)、『ミッシング』('24年)など、善悪や正しさだけでは割り切れない人間の感情を映し出す𠮷田恵輔監督が新たに描いたのは、加害者と被害者の関係を糸口した終始不穏な悲喜劇だ。磯村勇斗は過去を封印したアーチェリー選手を演じている。

ELLE 『mentor』は、全編にわたって不穏な空気が漂い、龍之介(磯村)、拓海(末澤)、埜本(綾野)の3人が互いの本心を見せないまま向き合う演技も印象的でした。磯村さんが演じた龍之介は、アーチェリーを通じて感情をコントロールしている人物です。役作りでは、どんなことを意識しましたか?

磯村 アーチェリーの選手は、精神統一や感情のコントロールがとても大切で、練習場を訪れたとき、メンタルや集中力についての本がたくさん並んでいて、自分の状態をどう保つのかが大事な要素なのだと感じました。龍之介は、子どもの頃の火事のトラウマを乗り越えようと、アーチェリーにのめり込んでいった人物なので、自分の世界やルーティーンを守りながら生きているところを大切に演じたいと思いました。

ELLE 拓海、埜本との再会によって、龍之介が保ってきたものは少しずつ崩れていきます。心情の変化はどのように表現しましたか?

磯村 拓海や埜本さんとも再会することで、龍之介がこれまで保ってきたものがすべて崩壊していく。そこは変化をつけながら演じたいと思っていました。アーチェリーをしている自分が、龍之介にとって一番の支えであり、現実から切り離される場所でもあったと思います。アーチェリーを失ったら、自分が何者なのかわからなくなるくらい、彼にはそれしかない。拓海たちと再会してからは、いつものリズムも崩れ、思い出したくない過去に向き合わざるを得なくなります。拓海のことを嫌っていたわけではないと思いますが、火事の事件がある以上、できれば避けたい気持ちは強かったと思います。

©2026「mentor」製作委員会

きれいごとではない感情をすくいとるからこそ面白い

ELLE 𠮷田恵輔監督の演出を通して、俳優としての気づきありましたか?

磯村 𠮷田監督は、普通なら「描かなくてもいいのでは」と思うような仕草や間に、人間味を見つける方です。登場人物が心の中で何を考えているのかが、ちょっとした動きから伝わってくる。人がふと「この人、何か変だな」と心の中で思っているような、見ちゃいけないように感じる部分まで、映像としてすくい取る。きれいごとだけではない、人が生きていくなかでの感情が、嘘なく描かれているところが監督の魅力だと思いますし、そこが面白く、参加できてよかったです。

©2026「mentor」製作委員会

ELLE シリアスな展開のなかで、思わず笑ってしまう場面もたくさんあります。印象に残っているシーンはありますか?

磯村 ファミリーレストランのシーンです。配膳ロボットが、絶妙なタイミングで通りかかるんですよ。「なんでそこで来るの?」という感じで、現場でも笑ってしまいました。3人で会話をしているようで、どこか成立していない。その空気がおかしくて。普段なら見過ごしてしまうような瞬間を、𠮷田監督が映像に残しているところも面白いと思います。

ELLE 末澤さん、綾野さんとの撮影現場は、どのような雰囲気でしたか?

磯村 現場では3人でよく話をしていて、和気あいあいとしていました。緊張感のあるシーンでも、「ここはこうしよう」と相談しながら進めていました。綾野さんが「2人がやりやすいように動くから」と言ってくださることもあって、僕たちを引っ張ってくれる存在でしたし、綾野さんの、もっと良くしようと粘り強く作っていく姿勢や、現場での発想から学ぶことが多かったです。末澤さんは、感覚が鋭く、監督から求められたことをためらわずに実践する。素直で、これからもいろいろな作品で見たいと思う俳優さんです。

©2026「mentor」製作委員会

アーチェリー選手役で感覚が研ぎ澄まされた

ELLE アーチェリーの練習を通じて、ご自身にも変化はありましたか?

磯村 アーチェリーは、集中力と忍耐力が必要な競技です。弓に「クリッカー」という装置が付いていて、矢を引いたときに音が鳴る。その音を聞いて、すぐに放つタイミングをつかまなければいけません。練習を続けるうちに、感覚が研ぎ澄まされていく感じがありました。役者の仕事で集中するのとはまた違って、長い時間、ひとつのことに意識を向け続ける感覚です。道具を自分の体の一部のように扱う必要もあって、少しずつ一点に集中する力がついたと思います。

撮影では、実際の選手が打つ距離にも挑戦して、やってみたら意外と的に届いた。それからは同じ距離で撮影しました。撮影で使っていた道具もいただいたので、また機会があればやりたいです。

Hearst Owned

ELLE 『mentor』はオリジナル脚本の作品です。原作ものの映画化も多いなかで、オリジナル作品に感じる魅力を教えてください。

磯村 オリジナル作品は大好きです。監督や脚本家の作家性が強く出ますし、台本に書かれていることをもとに、キャラクターを自分の中で想像し、組み立てていく作業も面白い。可能性が無限に広がると感じます。原作がある作品には、すでに出来上がっている人物像や、求められるイメージがあります。一方でオリジナル作品は、答えが監督の中にしかない。現場でやってみて、監督が想像していなかったものが生まれることもあります。若い監督や脚本家がオリジナル作品を描く機会が増えたら、日本映画界はさらに豊かになっていくと思います。

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『mentor』

花火による火事を起こした少年2人と、火事で妻子を失った男性。15年後、引きこもりがちな拓海(末澤誠也)の前に思いがけず現れた、被害者の埜本(綾野剛)。土下座して詫びる拓海を、埜本は“メンター”のように助言し、優しく包み込む。一方、拓海とともに火事を起こした龍之介(磯村勇斗)は、アーチェリー競技でオリンピックの代表選考を控え、自分の人生をまい進していたが、拓海や埜本と再会することに……。そして、交わった3人の運命は、やがて思わぬ方向へと動き始める。全国公開中。

監督:𠮷田恵輔 出演:磯村勇斗、末澤誠也、綾野剛

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磯村勇斗/1992年、静岡県生まれ。2014年俳優デビュー。'17年NHK連続テレビ小説『ひよっこ』で一躍注目を集める。映画『月』('23年)で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、エル シネマアワード2023でエル メン賞を受賞。また、今年、第1回目を開催した「しずおか映画祭」の実行委員会代表を務めている。2026年の出演作にNetflixシリーズ『ソウルメイト』、『俺のこと、なんか言ってた?』(10月22日配信予定)など。

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