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ベネチア・ビエンナーレ日本館代表の荒川ナッシュ医が見つめる、「アートと家族のあたらしいかたち」

  • 2026.10.22
荒川ナッシュ医 1977年、福島県生まれ。LA在住の日系アメリカ人クィア・パフォーマンスアーティスト。「私」という主体を問い直し、作品や作家の主観の不確かさを、グループ・パフォーマンスを通して浮かび上がらせている。 Hearst Owned

無数につり下げられた飲みかけの哺乳瓶と、ミラーサングラスをかけた赤ちゃんの人形たち。今年の日本館代表に選出された荒川ナッシュ医は、同性婚を経て、2024年に代理懐胎で双子の赤ちゃんを迎えた。会場のインスタレーションは、子育てやケアの実体験から着想されたものだ。鑑賞者は赤ちゃん人形を抱えながら、会場を巡る。

抱きしめる重み、愛するための境界線。いま私たちに問いかけるもの

「持ち上げた瞬間、『重い!』と驚かれますが、実際の赤ちゃんに近い重さを体感できます。おむつ替えのスペースでは、占星術ライターの石井ゆかりさんによる詩が読めます。それらの詩は、私が双子に伝えたいと選んだ57の歴史的な日付にひもづいているものです」

腕にずっしりと伝わる重みや世話をする行為は、自分と他者との境界を揺らし、生々しい責任感を呼び起こす。

パートナーと双子、今回の制作にも関わった実母と。 Hearst Owned

78歳の実母らが300着以上の産着を縫い上げるなど、「家族の作品を家族とつくる」プロセスそのものも作品に組み込んだ。「私が子どもをもつことを相談したとき、母は『面白いんじゃない』と後押ししてくれました」

マイノリティや生殖医療といった社会問題を背景に据えながらも、表現の起点にあるのは、抱く、あやす、世話をするといったごく身近な日常の営みだ。「子どもの有無や人形を抱っこするか否かにかかわらず、思考のきっかけが生まれる構造を目指しました。アートの世界は、現在どんどん広がっています。アートにしかできないことと、さまざまな人が共感できるユニークな視点、その両方を体感できる作品を作りたい」

荒川ナッシュ医さんにQ&A!

Q.なぜアーティストになったのでしょうか?

A.ニューヨークでアートを学ぶ中で、西洋や日本のパフォーマンスアートの歴史といった深い文脈に触れる一方、それをいかに公の場へ開き、民主的に共有できるかを考えてきました。パフォーマンスというメディアは、身体感覚を通じて、誰もがダイレクトに体験できる強さを持っています。

Q.これまでに、人生を変えた体験はありましたか?

A.20歳で渡米した当初は、数年で帰国する予定でしたが、ニューヨークの自由な距離感や当時のLGBTQ+コミュニティの広がりに救われ、長年に渡り拠点としました。マイノリティの物語(日系移民の歴史やLGBTQ+の文脈など)を、いかに提示できるか。今回のベネチアビエンナーレ日本館代表選出のような、国家や制度という大きな枠組みのなかで、責任を強く意識しています。

Q.今後予定されている展覧会やプロジェクトについて教えてください。

A.来年6月から、本展が日本へ巡回し、東京のアーティゾン美術館で展示する予定です。今後については、子育てだけでなく、母の高齢化に伴う「高齢者の視点からのケア」など、自分自身の生活の変化とともに、社会と接続するパフォーマンスのあり方を模索していきたいと考えています。

photo TOMMASO GESUATO text SARA WAKA

Hearst Owned

・第61回 ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館「草の赤ちゃん、月の赤ちゃん」
2026年11月22日まで開催

・アーティゾン美術館
「第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 荒川ナッシュ医|草の赤ちゃん、月の赤ちゃん/不連続統一体のように」

2027年6月19日~9月20日開催予定

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