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「それだけは無理」友人のカメラを受け取らず、見知らぬ夫婦に撮影を頼んだ私。その理由は

  • 2026.10.18
ハウコレ

押すだけでいいと分かっていたのに、友人のカメラを受け取れなかった私。旅の間ずっと撮られる側にいたのには、誰にも話していない理由がありました。

列の最後尾から、白い枠の中に立つ友人を見ていました。カメラを構えているのは、先ほど会ったばかりの夫婦の奥さん。本当なら、私が引き受けるはずの役割でした。大学時代からの友人と出かけた、2泊3日の旅の途中のことです。

撮られる側にいたかった

「写真得意なんだから撮ってよ」

港町の駅を出て最初の坂道で、友人の首から下がったカメラを指さし、そう頼みました。友人の撮る写真は、被写体の人がとても楽しそうに写る。ずっとそう思っていたのです。

頼んだのは1枚や2枚ではありません。カフェでは席を待つ人がいるのに料理の角度を何度も変えさせ、神社では柵をまたごうとして腕をつかまれました。後ろで待つ人の視線には気づいていたものの、カメラを向けられている間はそれを見ないふりでやり過ごせました。

途中で「私のことも撮ってよ」と言われても、「あとでね」と笑って流したままでした。

押せなかったシャッター

私は写真を撮るのが昔からひどく苦手でした。構えると傾き、シャッターを押した瞬間にブレてしまう。高校の修学旅行で仲のよかった友達グループを撮ったときのことです。

「目をつぶっているし、ブレているよ。もう撮らなくていいや」

笑いながら言われた一言でした。そのあと彼女たちは、別の子に撮り直しを頼んでいました。

それ以前から写真を撮るのは苦手でしたが、その出来事以来、人のカメラを預かることまで避けるようになりました。

背中に回った両手

岬の展望台で自分の撮影を終えると、友人が白い枠の前に立ちました。

「ここでは私を撮って。設定は全部しておくから、シャッターだけ押して」

前から楽しみにしていた場所で、友人が撮ってほしいと言った大切な1枚。けれど私が押せば、きっとまた傾いてブレてしまう。それがこの旅でたった1枚の友人の写真になってしまう。そう思うと両手は背中に回り、足が一歩下がっていました。

「それだけは無理」

私より上手な人に撮ってもらったほうがいい。頭に浮かんだのはそれだけで、すぐ後ろにいた夫婦に「すみません、この子を撮ってもらえますか?」と声をかけていました。

友人に「ちょっと待って」と袖を引かれても、引き下がれませんでした。係員の方に「次はこちらのご夫婦の番ですので、一度枠の前から離れていただけますか」と言われ、「この子、まだ撮っていないんですよ」と言い返してしまいます。

「でしたら、列の後ろに並び直してお待ちください」

並んでいる人たちの前を通り、私は最後尾まで歩きました。写真を失敗するのが怖いという自分の事情で、撮る役目をずっと友人に押しつけていたことには、そのときまで気づいていませんでした。

そして...

奥さんにカメラを向けてもらう友人を、列の最後尾から見ていました。

旅館に戻って「明日の分も撮ってね」と言うと、友人はカメラを外してバッグにしまい、こう言いました。

「明日からは、自分のスマホで撮ってね」

私は窓の外に目を向けたまま、うなずくことすらできませんでした。うなずけば、写真が撮れない理由を話さなければいけない気がしたからです。

最終日の駅のホームで、海を見ている友人の背中にスマホを向けてみました。画面の中の友人は少し傾いていて、結局撮影ボタンは押さずにポケットへ戻しました。友人には、撮影を押しつけ続けたことをまだきちんと謝れていません。

(20代女性・事務職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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