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『バックルームズ』『オブセッション 災愛』が話題。いま、私たちがホラー映画に惹かれる理由

  • 2026.10.17
Courtesy IMDb / Instagram

『ゲット・アウト』(2017年)や『サブスタンス』(2024年)、そして最近では『オブセッション 災愛』(2025年)や 『バックルームズ』(2026年)が、普段はホラーを見ない観客たちを引きつけている。『オブセッション 災愛』は製作費100万ドル未満の映画として歴代最高の興行収入を記録し、『バックルームズ』はA24史上最大のヒット作となった。こうした成功の背景にあるのは、どのジャンルよりも巧みに、時代や社会に潜む不安をすくい上げるホラーならではの力だ。

ホラーだからこそ描ける、社会のタブーや本音

アンドレア・スビサティはカナダのホラー専門誌『Rue Morgue』の編集長で、作家・批評家のアレクサンドラ・ウェストとともに、ポッドキャスト「Faculty of Horror」のホストを務めている。2012年以来、スビサティとウェストは見過ごされがちなこれらの映画をスーザン・ソンタグからスティーヴン・キングまで幅広く引用し、精神分析理論もたっぷりと交えながら、それぞれの文化的背景やより広い映画史のなかに位置づけてきた。

コラリー・ファルジャ監督の『サブスタンス』を取り上げた回では、わずか1時間の間に、オゼンピック、プロテスタントの労働倫理、グリム童話、ネポベイビー、フェイスブック、ファシズム、フィットネス文化、ボードリヤールのシミュラークル、そしてもちろん、女性として年を重ねることにまで話が及んだ。「私たちには、口をつぐんでいろと言われることが、こんなにもたくさんあるんです」とウェスト。「そこへファルジャはこう問いかける。『では、私がこれを声に出して言ったら? みんなが居心地の悪さを感じたら? そして、その気まずさに一緒に向き合わなければならなくなったら?』。ホラーにできる、このような小さな挑発は、ほかのジャンルではなかなかできないことです」

YouTube出身の若手男性監督が生んだ、ふたつの話題作

二人は『オブセッション 災愛』と『バックルームズ』についても作品が長期的にどのような影響を残すのか、見極められるようになってから取り上げるつもりだという。この2作はどちらもYouTubeを出発点とする、20代のアメリカ人男性監督による作品だということを除けば一見それほど共通点がない。『バックルームズ』は、離婚歴のある家具店の店主が、黄色い部屋や廊下が果てしなく続く異空間を発見し、 自分のセラピストをそこへ誘い込む、ローファイなSFホラー。一方、『オブセッション 災愛』は、願いがかなう代わりに恐ろしい災いが降りかかる古典怪奇小説『猿の手』を思わせる物語。「いい人」を自認するベアが、思いを寄せるニッキーの意思を顧みず、自分を愛してほしいと願ったことから、悪夢が始まる。

「ホラーへのアプローチはまったく違いますが、並べて見ると、どちらも自分の問題を女性に解決してもらおうとする男性の物語に見えます」とウェスト。「そして、もっと広い文脈で見ると、男性たちが『君には手に入れる権利があるのに、それを奪われている』と吹き込まれているような空気があるんです」。カナダの映画批評家ジャスティーン・スミスも同意する。「どちらの作品も、互いの言葉が通じ合わなくなり、有害な言説が飛び交うインターネット文化から生まれています」

ほかのZ世代と同じく、二人の監督はオンラインで成長してきた。だが、『バラエティ』誌によれば、若者はリアクション動画や推しカメラの映像を次々とスクロールする一方で、映画館で映画を見る傾向が最も強い層でもあるという。「ホラー映画を見に行くことは、お金を払って買える体験のなかで、最も安上がりなものかもしれません」とスミスは指摘する。「受け身で楽しめると同時に、人と体験を共有することもできるんです」

ホラー映画が、自分の心と向き合うきっかけに

Courtesy IMDb / Instagram

一人でいながら、誰かと一緒にいる。暗闇のなかで悲鳴を上げる。監視文化と、何事からも皮肉交じりに距離を置く態度のなかで育った、不安を抱える世代には、うってつけの組み合わせだ。そして、ホラー映画は意外にも、自分の心の傷に安心して向き合うきっかけになることがある。

例えば、性的同意についての記事は読みたがらない十代の若者が、『オブセッション 災愛』でニッキーが呪縛から一時的に解き放たれ、この苦しみを終わらせてほしいと懇願する姿を見るとしたら。育児にいら立ちを募らせる新米の母親なら、自己啓発書より『ババドック 暗闇の魔物』(2014年)から得るものが多いかもしれない。そして今日、AIが仕事も、きれいな水も奪っていくことに打ちのめされている人には、『バックルームズ』のコピペ量産物のような怪物たちは、正面から立ち向かうことのできる脅威だ。少なくとも、映画が終わって現実に戻るまでは。

図解や論考がデータや言葉で社会の不安を説明するのに対し、ホラーは、その不安を物語として体験させ、感情を解き放ってくれる。ホラーは昔からそんな役割を果たしてきたのだ。

怪物の姿を借りて描かれる、時代の不安

1931年の映画『フランケンシュタイン』。 Archive Photos / Getty Images

「『フランケンシュタイン』や『ドラキュラ』の時代から、ホラーは社会における女性の役割や母性、創造、科学、移民への不安といったテーマを扱ってきました」とスミスは指摘する。スラッシャー映画には核家族の崩壊、悪魔憑きの映画にはジェンダーへの不安や社会からの疎外、ゾンビ映画には核の脅威やパンデミック、外国人嫌悪が映し出されている。そして、これらに繰り返し顔を出すのが、女性のセクシュアリティーをめぐる不安や恐れだ。

「私たちは、自分たちの不安をこうした怪物に投影しているんです」とスビサティ。家庭内暴力を生々しく描くドキュメンタリーのかわりに、『透明人間』(2020年)のように現実を離れてスリルを味わえる作品を選ぶ。「まさにそれが、私がホラーに引かれる理由なんです」とウェスト。「こうした経験を、安全な距離を保ちながら映し出し、フィクションにしてくれる」

ホラー映画が描く次の恐怖とは

1974年の映画『悪魔のいけにえ』。 Movie Poster Image Art / Getty Images

これからのホラーは、どんな不安を描くのだろうか。スビサティは「スマートフォンやデジタル上の自分との関係、信頼、自分自身がブランドになることへの不安」を挙げる。スミスが注目するのは、「文明だけでなく、人としての礼節まで崩れていく物語」だ。「未来がないのなら、なぜ社会のルールに従う必要があるのか。そんな問いです」

一方で、突然の音や映像で驚かせるジャンプスケアや、過去作のリメイクも作られ続けるだろう。『オブセッション 災愛』のカリー・バーカーは、『悪魔のいけにえ』(1974年)のリブート版を監督する予定だ。長年ホラーを見つめてきたウェストとスビサティは、ブームが繰り返し訪れては去っていくことを知っている。それでも、大ヒット作との出合いが、このジャンルの奥深さを知る入口になることを願う。

「こうしたヒットをきっかけに、すでにある膨大な作品を発見してほしい。いつもそう願っています」とスビサティ。「もっと掘り下げて、『ホラーって、思っていた以上に奥深いんだ』と気づいてほしいんです」

Translation & Text:Naoko Ogata

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