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配達員の俺が、あの家の置き配写真にだけ花壇を入れ続けた理由

  • 2026.10.18
ハウコレ

花の写真にお礼のメッセージが届いた日、打ちかけた返事を消して別の言葉を送りました。最後の配達の日になっても、本当の理由は書けないままでした。

両手に段ボールを抱えたまま、同じ色の玄関ドアが3つ並ぶ通りで表札を見比べました。門柱の形も、表札の小ささも、3軒ともほとんど変わりません。この区域の担当になった最初の週、俺はここで1度、荷物を隣の家に置いていました。

1軒隣に置いた箱

気づいたのは、完了報告を送る前に、撮った写真を確かめたときでした。写真に写った表札の番地が、伝票の住所と1つずれていたのです。

すぐに引き返し、隣の家の前から箱を回収して、正しい家の玄関に置き直しました。誰にも気づかれずに済んだのは、運がよかっただけです。

それから、正しい家を見分ける目印を探しました。3軒の中で違っていたのは、その家の玄関脇にある小さな花壇だけ。紫と黄色のパンジーが咲いていました。

以来、あの家に置き配をするときは、箱を花壇の手前に寄せ、花が切れずに入る位置まで下がって撮るようにしました。この家で間違いないと、自分に確かめるための写真です。

目印のつもりだった

初夏のある日、花壇が黄色一色に変わっていました。目印が消えたのかと思い、表札を2度確かめてから、背の高くなった花に合わせてスマホを少し上に向けました。

配送アプリのメッセージ欄に、そのお客さんから連絡が届いたのは、それから間もなくのことです。コンビニの駐車場にトラックを止め、休憩に入ってから開きました。

「いつもお花まで一緒に撮ってくださってありがとうございます!通知が来るのがちょっと楽しみになってます」

花のために撮っていたつもりはありませんでした。目印にさせてもらってます、と打ちかけて、送信する前に消しました。知らない配達員が自分の家の花壇を目印にしていると知ったら、いい気はしないかもしれない。代わりに送ったのは、これだけです。

「こちらこそ、いつもきれいに咲いていて助かっています」

嘘にならない言葉を選んだつもりでした。その日から、あの家の前では花の色を先に確かめるように。次は何が咲くのか、少し待っている自分がいたのです。

撮り直したコスモス

秋に入って、別の区域への異動が決まりました。

最後の配達の日、あの家の花壇ではコスモスが咲いていて、薄いピンクの花が箱の後ろに収まるまで何枚か撮り直すことに。

トラックに戻ってから、アプリのメッセージ欄を開きました。

「本日でこの地区の担当を外れます。お花のおかげで、このお宅だけは迷わずに届けられました。ありがとうございました」

迷わずに、と書いたのが、本当の理由に一番近づいた一文でした。最初の週の失敗までは、書けませんでした。

しばらくして、半年間のお礼と、新しい場所での無事を気づかう返信が届いたのです。本当のことを伝えようと書きかけては消し、結局は既読をつけただけでアプリを閉じました。

そして...

新しい区域にも、よく似た外観の家が並ぶ通りがありました。そういう場所では、箱を下ろす前に、まず表札と玄関まわりの特徴を探すようになりました。

あの家の花壇がその後どうなったのかは分かりません。新しい区域で最初に覚えた目印は、ある家の門柱の横に置かれた青い傘立てでした。

(20代男性・配送ドライバー)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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