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アアルト建築を訪ねて──エディターが名作を巡るフィンランドの旅

  • 2026.10.16
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2026年7月、アルヴァ・アアルトにまつわる13の建築と建築群が、「アアルト作品群」としてユネスコ世界遺産に登録された。“アアルトベース”や“スツール 60”は知っていても、そのデザインが生まれた場所を訪ねたことのある人は、まだ多くないはず。夫妻が暮らした自邸や数々の名作を生んだスタジオから、いまも市民に愛される公共建築、湖畔に佇む夏の家まで。その足跡をたどりながら、建築と自然と暮らしがひと続きになったフィンランドを旅した。



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アアルトを見るために、フィンランドへ

今回目指したのは、アルヴァ・アアルトが暮らし、数々の建築やデザインを生み出したフィンランド。搭乗したのは、23時05分に成田を出発し、翌朝5時55分にヘルシンキへ到着するフィンエアーの直行便。飛行時間は約13時間だ。夜に日本を発ち、現地の早朝に到着するため、その日の朝から市内を巡ることができる。

深夜便では、離陸後の機内食を終えると、機内の照明も就寝に合わせて落とされる。移動時間の多くを睡眠に充てられ、ジェットラグも起こりにくいので、長距離便ながら現地到着後の予定を組みやすい。2027年夏には成田線が最大週14便へ増便され、午前の出発便も加わる予定。フィンランドへの旅は、さらに計画しやすくなりそうだ。

到着後は、まず市内に残るアアルトの建築から、その足跡をたどっていく。

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まずは、アアルトが暮らした家へ

ヘルシンキで最初に訪れたいのは、中心部から少し離れたムンッキニエミ地区。静かな住宅街に、アルヴァとアイノが設計し、1936年に完成した「アアルト自邸」がある。

通りに面した外観は、白く塗られたレンガと黒の木材を組み合わせた、端正でやや閉じた佇まい。ところが内部へ入ると、その印象はやわらかく変わる。自然光を取り込む窓、木やレンガなどの素朴な素材、庭へと視線を導く空間。モダニズム建築の端正さがありながら、住まいらしい温かさも感じられる。

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この家は夫妻と家族の住まいであると同時に、アアルト事務所の仕事場でもあった。住居とオフィスは素材や空間構成によって緩やかに分けられながら、ひとつの建築のなかでつながっている。仕事場と住居が一体になった空間からは、アアルト夫妻にとって、建築やデザインが日々の暮らしと切り離せないものだったことが伝わってくる。

アアルト自邸
Riihitie 20, 00330 Helsinki


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名作が生まれた仕事場、「アアルト・スタジオ」

自邸から歩いて向かえる距離にあるのが、1955年に完成した「アアルト・スタジオ」。仕事の拡大に伴い、自邸内にあった事務所を移転するために建てられた場所だ。

道路側には白い外壁が続くが、その内側には建物に囲まれた庭がひっそりと広がる。段状につくられた中庭は小さな野外劇場のようで、スタッフが腰掛けて講義を聞いたり、白い壁にスライドを投影するなど、交流や学びの場としても使われていたそうだ。

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<写真>近年では、中庭を会場に野外映画の上映も行われている。案内してくれたスタッフによると、ある上映日には雨に見舞われたため、観客全員が室内へ移動し、窓越しに中庭のスクリーンを鑑賞したという。因みにアアルト自身も、1934年に創設された芸術・実験映画クラブ「Projektio」で会長を務めていた。

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中庭に沿って弧を描くスタジオでは、高い位置に設けた窓から自然光が降り注ぐ。図面や模型を扱うための家具、壁に掛けられた照明、床材まで、建築と仕事のための道具が一体となっている。

光の入る製図室やスタッフが集まる食堂、議論や発表の場となる中庭など、「アアルト・スタジオ」は、個人で作業をするだけでなく、スタッフ同士がアイデアを共有し、協働するための場所として設計されているのだ。

アアルト・スタジオ
Tiilimäki 20, 00330 Helsinki

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書店、カフェ、レストラン。ヘルシンキの街で出合うアアルト建築

アアルトを巡る旅は、美術館や保存された建築だけに限らない。ヘルシンキの中心部を歩けば、いまも人々が日常的に使うアアルト建築に出合うことができる。

そのひとつが、1969年に完成した「アカデミア書店」。吹き抜けを中心に売り場が広がり、天井のトップライトから自然光が差し込む。白い大理石を基調とした吹き抜けを、各階の売り場が囲む構成。上階から見下ろすと、書棚や行き交う人々までを含めて、全体を見渡すことが可能な空間だ。

そして2階には、アアルトがデザインした「カフェ・アアルト」が。本を選び、コーヒーを飲みながら過ごすことで、アアルトの建築が今も街の日常に溶け込んでいることを実感できる。

アカデミア書店
Keskuskatu 1, 00100 Helsinki

カフェ・アアルト
Pohjoisesplanadi 39, 00100 Helsinki

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ほど近い場所に建つ「ラウタタロ」も、街の日常に溶け込んだ作品だ。重厚で無骨な外観とは対照的に、建物の内側には、天窓から自然光が降り注ぐ大きな吹き抜けが広がる。トラバーチンで仕上げた回廊や噴水、カフェがひとつになった空間は、とにかく明るく開放的。カフェで使われている照明をはじめ、建物のドアハンドルに至るまで、随所にアアルトのデザインが息づいている。

ラウタタロ
Keskuskatu 3, 00100 Helsinki



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そこから歩いて向かったのが、1937年創業のレストラン「サヴォイ」。アイノ・アアルトとアルヴァ・アアルトが内装を手掛けた、ヘルシンキを代表するレストランだ。この日は予約なしで訪ねたにもかかわらず、幸運にも店内を案内してもらうことができた。真鍮製のペンダントライト「ゴールデンベル」やアイノがデザインしたクラブチェア、特注のテーブル、随所に配された植物など、夫妻が目指した居心地のよい空間が現在も受け継がれている。

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店内には、色もサイズもさまざまな“アアルトベース”が置かれ、花を活けるのが難しいと思われがちな独特のフォルムに、花々が驚くほど自然に飾られていたのが印象的だった。そのしつらえは、自宅での使い方にも多くのヒントを与えてくれる。アアルトのデザインを眺めるだけでなく、食事をしながら実際に体験できる場所として、ぜひ訪れてほしいスポットだ。

サヴォイ
Eteläesplanadi 14, 00130 Helsinki

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街のための建築へ。二つの文化施設を巡る

自邸やスタジオ、書店に続いて訪れたのは、コンサートや集会のためにつくられた「フィンランディア・ホール」と「文化の家」。

トーロ湾沿いに建つ「フィンランディア・ホール」は、コンサートや国際会議の会場として1971年に完成した。白い大理石の外壁と、塔のように高く立ち上がるホール部分が、湖畔の風景のなかでもひときわ目を引く。「フィンランディア・ホール」は、アアルトが構想したヘルシンキ中心部の都市計画の一部としてつくられた。トーロ湾沿いに文化施設を並べる壮大な計画の多くは実現しなかったものの、この建物からは、周辺の風景や都市との関係まで含めて設計していたことがわかる。

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2022年に始まった大規模改修を経て、2025年に再オープン。館内には家具や照明、ドアハンドルまでアアルトのデザインが随所に残り、現在もコンサートや会議の会場として使われている。

また、改修に合わせ、かつて職員用だった2戸の住居も「フィンランディア・ホームズ」として整えられ、「Aino」と「Elissa」と名付けられた二つのアパートメントに一般客も宿泊できるようになった。

フィンランディア・ホール
Mannerheimintie 13 e, 00100 Helsinki



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一方、1958年に完成した「文化の家」は、「フィンランディア・ホール」とは大きく印象が異なる。銅板で覆われた直線的なオフィス棟と、赤レンガの曲面が目を引くホール棟を低層の連結棟がつなぎ、三つの棟が前庭を囲んでいる。アアルト自身は、ホールの形は音響への配慮から決まったと説明している。木、レンガ、コンクリートを組み合わせたホールは、壁や天井の形も含め、音響を考えて設計されている。外観を特徴づける赤レンガの曲面は、内部のホールの形とも結びついている。

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現在の館内の一部は、2023年にロビーやレストラン、イベントスペースなどが改修され、現代のデザインが加わった場所も多い。一方、連結棟にある講義室では、段状に並ぶ木製の席の上に、球形の照明がリズミカルに吊られている。建築だけでなく、家具や照明まで一体で設計したアアルトの仕事を間近に見ることができる空間だ。

文化の家
Sturenkatu 4, 00510 Helsinki



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ヘルシンキから、アアルトの原点へ

アアルトをさらに深く知るなら、ヘルシンキから列車に乗り、フィンランド中部のユヴァスキュラへ足を運んでほしい。

ユヴァスキュラは、アアルトが少年時代を過ごし、建築家として最初の事務所を構えた街。周辺には彼がキャリアのさまざまな時期に手掛けた建築が点在し、アアルトの実験と変化をたどることができる。

移動中の列車の窓の外には、森と湖が繰り返し現れる。都市の風景を離れ、フィンランドの自然へ近づいていくこの移動もまた、アアルト建築を理解するための大切な時間になる。

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小さな町のために設計された、「セイナッツァロの村役場」

ユヴァスキュラから約15km。「セイナッツァロの村役場」は、人口約3000人の小さな工業地域のために設計され、1952年に完成した。 建物は中庭を囲むように配置され、役場の執務室や議場だけでなく、図書館、店舗、住居も組み込まれている。階段を上って中庭へ入る構成は、小さな丘の上の町を思わせる。 外壁や議場の主要な素材は赤レンガ。均質に整えすぎず、素材の表情を残した壁には手仕事の温度が感じられる。

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階段を上った先にある議場は、建物群のなかでもひときわ高く立ち上がる。内部で目を引くのは、中央の梁から扇状に広がる「蝶」と呼ばれる木造のトラス。屋根を支える構造そのものが、空間を特徴づける意匠になっている。役場というと堅い建物を想像するが、ここにはどこか親しみやすさがある。中庭を歩き、図書館に立ち寄り、議場へ向かう。町の暮らしと役場の機能が、ひとつの建物のなかで自然につながっている。

セイナッツァロの村役場
Parviaisentie 9, 40900 Säynätsalo

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湖畔の森に隠された、「ムーラッツァロ実験住宅」

今回の旅のハイライトとなるのが、アルヴァとエリッサが自分たちの夏の住まい兼アトリエとして設計した「ムーラッツァロ実験住宅」だ。建設当時、島へ通じる道路はなく、夫妻は船で家へ通ったという。

現在は車で近くまで行けるが、最後は森の小道を歩いて向かい、木々の間を進んだ先に、アルヴァとエリッサが夏を過ごした家が現れる。

森のなかに佇む建物は、外壁を白く塗った簡素な外観が印象的だ。実験住宅は、1952〜54年に建てられた主屋と、1953年に加えられたゲストルーム棟で構成され、敷地内には薪小屋やスモークサウナも残る。

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中庭へ入ると、森に面した白い外壁とは対照的に、赤レンガの壁が広がる。L字型の主屋と壁が中庭を囲み、その中央には炉を配置。壁面は約50の区画に分けられ、異なる色や形のレンガやタイル、さまざまな積み方が試され、壁そのものが、実物大の実験の場になっている。

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室内は木を基調とした簡素なつくりで、吹き抜けのリビングにはロフトが設けられている。実験のための建築であると同時に、夫妻が実際に夏を過ごす生活の場でもあった。

ここは、完成された建築を眺めるというより、建築家・アアルトの思考の途中に入り込むような場所だ。壁の一面一面に試行錯誤の跡が残り、つくることへの純粋な好奇心が見えてくる。この家を特別なものにしているのは、周囲の環境でもある。森の先には湖が広がり、窓から木々を眺め、中庭で火を囲み、船で湖へ出る。自然を遠くから眺めるのではなく、そのなかに身を置いて暮らす。森と湖のなかで過ごす時間そのものが、この家の一部になっている。

ムーラッツァロ実験住宅
Melalammentie 2, 40900 Jyväskylä

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アアルトを巡る旅の終着点、「Aalto2ミュージアムセンター」へ

旅の終盤に訪れたのは、ユヴァスキュラにある「Aalto2ミュージアムセンター」。アアルトが設計した「アルヴァ・アアルト博物館」と「中央フィンランド博物館」を、新設された連結部でつないだ複合施設だ。

アルヴァ・アアルト博物館の常設展『AALTO – Work and Life』では、住宅や公共建築、都市計画の図面や模型、家具、写真などを通して、アアルトの仕事とその制作過程をたどることができる。さらに、アイノやエリッサ、設計事務所の建築家や協働者たちが果たした役割にも光を当てている。

自邸やスタジオ、ヘルシンキの街に残る建築、森と湖に囲まれた夏の家などの実際の空間を巡ったあとに展示を見ると、図面や模型が旅の記憶と重なり、それまで別々に見えていた作品が、ひとつの流れとしてつながっていく。アアルトを巡る旅を振り返り、その仕事の広がりを改めて知ることのできる場所だ。

Aalto2ミュージアムセンター
Alvar Aallon katu 7, 40600 Jyväskylä

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建築を巡ると、フィンランドの暮らしが見えてくる

アアルトを追って旅をしていると、建築の背景にあるフィンランドの暮らしや自然にも目が向くようになる。ヘルシンキではフェリーでロンナ島へ渡り、海を眺めながらサウナに入り、食卓を囲む。列車でユヴァスキュラへ向かうと、車窓の風景は次第に街から森と湖へと変わっていった。旅のなかで出合った風景や感覚は、アアルト建築を形づくる素材や空間と、どこかでつながっていた。アアルト建築を巡ることは、その背景にあるフィンランドの文化や暮らしを知ることでもあった。

アアルトについて詳しくなくてもいい。建築の年代や様式を知らなくても、実際に空間へ入り、椅子に座り、窓の外を眺めることで、初めてわかることがある。自邸では、アアルト夫妻の暮らしに触れる。スタジオでは、人がともに働くためにつくられた環境を知る。街の書店やホールでは、デザインがいまも日常のなかで使われ続ける姿を見る。そしてムーラッツァロでは、建築が森や湖とどのようにつながっているのかを体感する。

世界遺産への登録は、これらの建築を未来へ残すと同時に、アアルトが考え続けた、人と建築、自然との関係を改めて考えるきっかけにもなる。次にフィンランドを訪れるなら、アアルトの建築を旅の目的地にしてみてはどうだろうか。

※本記事の取材にあたり、Visit Finland、フィンエアーより提供を受けています。

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