1. トップ
  2. 美を見る目をどう養っていくのか—— 「東美アートフェア2026」に先駆けた“目利き”のダイアログ

美を見る目をどう養っていくのか—— 「東美アートフェア2026」に先駆けた“目利き”のダイアログ

  • 2026.10.14

美しいものと出会い、その魅力を自分の感性で受けとめる。そんな豊かな体験へと誘う「東美アートフェア2026」が、2026年10月16日(金)〜18日(日)に開催されます。全国の美術商が選び抜いたコレクションを展示・販売する会場には、2,000点以上の古美術の優品が一堂に。時を重ねた美を間近に感じながら、心に響く一品と出会う貴重な機会です。

ジャケット¥605,000 CEDRIC DIRADOURIAN

今回お話を伺ったのは、100年以上の歴史を持つ東京美術商協同組合理事長の川島公之さん。現代アートの第一線で活躍するアートプロデューサー、山下有佳子さんならではの審美眼を通して、川島さんが培ってきた美を見極める視点や作品に寄せる思いを探っていきます。おふたりの対話から、古美術を愛でる楽しみと、自分らしい感性を育むヒントを見つけていきましょう。

美を知る人の眼差しに触れ、感性を育む

中国陶磁をはじめとする東洋古美術に長年向き合い、東洋古美術商・繭山龍泉堂の代表でもある川島さんと、京都の茶道具商の家に生まれ、現代アートの世界で活動してきた山下さん。異なる分野で美に親しんできたおふたりの対話の軸となるのは、古美術と現代美術というジャンルを超えた美との向き合い方。私たちはなぜ、美しいものに心を動かされるのでしょうか。そして、美を見出す眼差しは、どのように育まれるのでしょうか?

Kaori Nishida

<profile>
山下有佳子(やましたゆかこ)/アートプロデューサー、YMKY Inc. CEO
1988年、京都の茶道具商の家に生まれる。慶應義塾大学卒業後、ロンドンで美術ビジネスを学び、サザビーズジャパンを経て、2017年にGINZA SIX内「THE CLUB」マネージングディレクターに就任。2022年より4年間「Art Collaboration Kyoto」フェアディレクターを務め、2026年からChairperson of the ACK Ambassadors。現在はYMKY Inc.を率い、京都市成長戦略推進アドバイザー、CVJのArtistic & Cultural Strategy Consultantも務める。

Hearst Owned

川島公之(かわしまただし)/東京美術商協同組合理事長、繭山龍泉堂 代表取締役
東京生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒業後、東洋古美術の老舗、繭山龍泉堂に入社。2012年より現職。著書に「美術商 繭山松太郎」(『陶説』2005年)、「わが国における中国鑑賞陶磁の受容とその変遷」(『東洋陶磁』2013年)ほか。美術館、カルチャーセンターなどで、中国陶磁についての講演、講義を多数実施している。東京美術商協同組合理事長。東京美術倶楽部常務取締役。日本陶磁協会理事。國華清話会役員。

鑑定書によらず、自らの感性で出会う美

CEDRIC DIRADOURIAN

山下:川島さんはこれまで数え切れないほどの名品をご覧になってきたと思います。これから暮らしの中に古美術を取り入れてみたいという方が、まず大切にすべきはどんな視点なのでしょうか?

川島:古美術品には基本的に鑑定書がありません。そのため理屈の世界ではなく、感覚の世界だと考えています。本物か偽物か、真贋を見極めるにあたってもファーストインプレッションがすべて。それははじめて古美術をお求めになる方にとっても同じです。「素敵」「可愛い」など、一瞬差し込む直感を大事に育てていただきたいです。

簡単に言えば、目利きになるためには“良いものだけを見る”しか方法がありません。良いものだけを見ることに徹していくと、本物に限りなく近い偽物を前にした時にどこか違和感を覚えるはずです。反対に、見る目を養っていきさえすれば、古美術を見ても、現代アートを見てもすんなりと腹に入るのが感じられるようになります。

山下:近年、アート界に限らず情報が溢れていて、不安を覚える方もいらっしゃると思いますが、大事なのは感性で捉えるということ。それを聞いて安心しました。今回、私が直感的に「可愛い」と心が動いたのが、李朝の「白磁染付秋草文小壺」です。この作品が持つ魅力について解説いただけますか?

CEDRIC DIRADOURIAN

川島:朝鮮半島で500年ほど続いた李朝の陶磁器は、前期、中期、後期の3つに分けて評価されています。この壺もそうですが、17世紀から18世紀にかけての中期は世界的に人気のある時代です。秋草の染付に使われている原料のコバルトは当時は希少価値が高く、その意味でも格の高さが窺えます。端正であり、高貴なキュートさを放っています。

山下:美術品を通じて李朝に思いを馳せたり、歴史を深く知ったりということもアートを見る上での醍醐味のひとつだと感じています。実際にタイムスリップすることはできないけれど、作品がその時代や文化的背景を教えてくれる… 古美術というと博物館や美術館のガラスケースの中で展示されているイメージがありますが、この作品は親しみやすく自宅にも飾りやすい印象を持ちました。

川島:静謐な小壺なので、どんな空間にも調和しますが、おすすめは一点だけぽつんと置くこと。その家の中でもっとも映える場所に、最高の晴れ舞台を用意して、その物の持っている品格を愛でていただくのが良いのではないでしょうか。

時代や文化を超えて、心に響く美しさ

CEDRIC DIRADOURIAN

川島:こちらの「灰釉印文尊」は紀元前5世紀から200年ほど続いた、中国・戦国時代のものです。表面には草や木の灰が降りかかっているのが見受けられます。釉(うわぐすり)がかかることで、焼き物としての美しさが増し、ガラス質によってコーティングされているので強度も出ます。文様からも当時の青銅器からかたどったシャープな印象が感じられ、陶磁器の変革期を捉えた貴重な一点です。

山下:2000年以上前の作品が、ここまできれいな状態で残されていることに驚かされます。古さは感じられず、最近焼成されたようなフレッシュさが漂っていますね。作品の保存状態に限らず、今見ても美しいと感じられる古美術は、時代や文化を超越した普遍的な魅力を秘めているのでしょうか?

川島:長い歴史の中で、人びとが美しいと感じていたからこそ現代まで残り続けてきたのは確かです。その美しさの根源とは何かを辿ると、人間が及ばない自然の成す力が大きいのではないでしょうか。焼き物の場合、窯の中に入れたら後は自然に任せるしかありません。酸素の入り具合や、火の回り方など、人間が完全に制御できないところに計り知れない美しさが宿っているのだと考えています。

不完全さを愛でる、日本の美意識の芽生え

CEDRIC DIRADOURIAN

山下:私の実家では茶道具を取り扱っているので、こちらの水指を見た時に親近感が湧きました。形が左右対称ではないですし、見る角度によって肌の色味も異なります。俯瞰すると、日本美術における美のあり方は世界的にユニークだなと感じています。この独自性は一体どこから来ているのでしょう。

川島:「古伊賀巾着形水指」が焼かれた桃山時代は、日本の独自性が芽吹いた時代であったと言えます。全体的にゆがみ、ひずみがあるのに奇をてらった印象は受けません。むしろ釉薬を何層もかけていて、厚く溜まっているところが美しく見えるから不思議です。なぜ我々は不完全を美しいと感じるのか。それは同時代に発展した茶の湯の影響が大きいのではないでしょうか。慎ましさの中に豊かさや奥深さが感じられる。侘び寂びの美意識は現代の私たちにも息づいています。

“目利き”が捉える、作品の奥深さ

CEDRIC DIRADOURIAN

山下:ここまで韓国、中国、そして日本の古美術を並べて解説いただきましたが、川島さんは古美術をご覧になる際、作られた時代や地域によって見る目を変えているのでしょうか?

川島:古美術を見るときは“チャンネル”を変えることを意識しています。例えば一貫してシンメトリーが正とされていた中国陶磁のチャンネルで、日本の陶磁を見ても「このゆがみは美術ではない」となってしまいます。先ほど、“良いものだけを見る”ことが大切とお話ししましたが、美を見る基準を明確にしておくことも、美と生きる豊かな土壌を育むヒントになるかもしれません。

美術を見る焦点を合わせてコレクションしていくと、時代やジャンルが異なる作品を同じ空間に並べてもしっくりくる。決して簡単なことではないですが、それが美と暮らす醍醐味になってきます。

また、物事の本質や善悪を判断する見識や眼力を意味する「具眼(ぐがん)」という言葉があります。目利きと呼ばれるコレクターには、美術に限らず物事の本質を瞬時に見極められる具眼を持った方が多いと感じています。そして、共通するのは純粋な心で人や物事と向き合っているということ。純粋な状態だからこそ、本物の美しさが体の中に入ってくるとも言えるでしょう。

「東美アートフェア」で巡り合う“美”と、心が豊かになる体験

CEDRIC DIRADOURIAN

山下:今回の「東美アートフェア2026」は価格や知識にとらわれず、純粋に古美術を見てみたい方にとって良い機会になりますね。

川島:美術館に赴いても本物と出合うことができますが、美術館や博物館では“ガラスの壁”が鑑賞者の前に立ちはだかります。特に今回ご紹介した陶磁をはじめとする立体作品は、至近距離で見て、実際に触ってみないことには質感や空気感まではわかりません。「東美アートフェア2026」は間口を広げているので、ゆっくり、じっくりと古美術を見るための入口としての意義を持っています。

山下:今回、川島さんにご用意いただいた作品の中で、実際の質感を近くで見てはっとさせられたのが仏様の手でした。360度から見ると、ふっくらとした柔らかさが伝わってきます。

CEDRIC DIRADOURIAN

川島:古美術の味わい深さは、たとえ一部分だとしてもそこに必ず美が宿っているということだと思っています。「木彫漆箔仏手」の片手という一部分ゆえに「全体像はどうだったのだろう」と鑑賞者の想像力を掻き立ててくれる。それがせわしない現代の生活に古美術を迎え入れる楽しみにもなるでしょう。

山下:近年、現代アートの世界では作品をスピーディーに見て、誰が描いて、どれくらいの価値があるのかということを即座に判断する傾向が広がっています。そんな時代だからこそ、一歩立ち止まって見えないところを想像することが日常を豊かにしてくれるのかもしれません。

良いもの、本物だけを見る。そして美しいものは残っていく。そのような視座を広げていくことは美術品を愛でるだけにとどまらず、生き方そのもののヒントになるように感じています。

「東美アートフェア2026」は10月16日から3日間

CEDRIC DIRADOURIAN

1999年に始まった「東美アートフェア」は日本を代表する美術商が厳選した美術品を展示・販売する、日本最大級のアートフェア。118の美術商が時間をかけて探し求めた、古美術・近現代美術・茶道具・工芸・刀剣など2,000点以上の名品、優品が並びます。

各出店者を巡りながらじっくりと見て楽しめるのはもちろんのこと、直接触れることや購入することも可能に。美を見る目を養うはじめの一歩として絶好の機会となるでしょう。ぜひ清らかで澄んだ秋の週末に出掛けてください。

【東美アートフェア2026】
日程/2026年10月16日(金)~18日(日)
※開催日によって入場時間が異なります
会場/東京美術俱楽部
所在地/東京都港区新橋6-19-15
料金/前売り¥1,500、当日¥2,000
※学生以下、障がい者手帳をご持参の方(付き添いの方1名を含む)は無料
チケット/公式サイトにて販売中
同時開催/町田市立博物館コレクション展
後援/文化庁、京都府
協力/町田市立博物館
URL/artfair.toobi.co.jp

問い合わせ先
アクリスジャパン
TEL/0120-801-922
URL/jp.akris.com

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ