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「フェーズフリー」って知ってる?「いつも」の暮らしが、そのまま防災になる

  • 2026.10.14

地震や豪雨など大規模災害が相次ぐ昨今、備えの必要性は高まる一方ですが、非常食の入れ替えや備蓄を続けるのは難しいもの。そこで注目したいのが、日常と非常時を分けない「フェーズフリー」という考え方です。関連商品やサービスは増え、国も促進検討会を行うなど広がりを見せています。今回は発案者である一般社団法人フェーズフリー協会代表理事・佐藤唯行(さとうただゆき)さんに、その概念と暮らしへの取り入れ方を伺いました。あわせて、「PHASE FREE Meet 2026(フェーズフリーミート2026)」(9月25〜27日・東京ビッグサイト)で表彰式が行われた「フェーズフリーアワード」の各賞を受賞した商品・サービス・施設もご紹介します。

「フェーズフリー」とは

——「フェーズフリー」という言葉を見聞きすることが増えましたが、どのような考え方なのでしょうか?

日常時と非常時という「フェーズ(時間の区切り)」を越えて、どちらの時も暮らしを豊かにしようとする考え方です。便利、楽しい、かっこいい、お得、面白い——豊かさの形はさまざまですが、そうしたものやサービスが、もしもの時には生活や命も守れるようにデザインされている。それがフェーズフリーです。

たとえば、目盛りがデザインに組み込まれ非常時には計量カップとしても使える紙コップ。あるいは高い衝撃緩衝機能を内蔵し、普段は歩きやすく疲れにくいうえ、非常時に徒歩で帰宅する際も足の負担を軽減してくれるビジネスシューズ。

こうした商品やサービスが広まることで、みなさんのライフスタイルや考え方にもフェーズフリーの概念が浸透していく。いずれは、わざわざ備えなくても自然と備わっている、そんな社会を目指しています。

「フェーズフリーアワード2026」各賞を紹介

事業部門——テーマパークからボディソープまで、幅広いラインナップ

——フェーズフリーな事業やアイデアを表彰するのが「フェーズフリーアワード」ですが、今年受賞した事例をご紹介いただけますか。

フェーズフリーアワードには2つの部門があります。1つ目が事業部門、すでに社会に存在する、あるいは利用・購入が可能な商品やサービス、施設を対象にしています。

50件の応募があった事業部門の金賞は「メッツァ ― メッツァビレッジ及びムーミンバレーパーク ―」(フィンテックグローバル株式会社)です。埼玉県飯能市の複合レジャー施設で、メッツァビレッジとムーミンバレーパークを擁します。リニューアルを機にフェーズフリー化を進め、日常は買い物や食事、文化体験の場として、非常時には自家発電設備や貯水施設などを活用し地域住民の防災拠点として機能します。2026年2月に国内テーマパーク初のフェーズフリー協会によるフェーズフリー認証を取得しました。

銀賞は「全身ケアソープバブルガード」(シャボン玉石けん株式会社)です。頭から足まで全身を洗え、子どもから大人まで家族全員で日常使いできます。災害時には体に塗って拭き取るだけのボディ用洗浄料として使えるため、水不足の場面でも清潔を保てます。被災地の熊本でも重宝されているそうです。

こうしたフェーズフリー商品は、普段から生産・流通体制が整っているため、災害時にも被災地へすぐ供給できるのが利点です。

そして銅賞が「角型壁掛け雨水タンク『ピュアエデン』」(デンカアステック株式会社)です。住宅外壁の屋根下に設置する雨水タンクで、配管につなげれば日常時はトイレ洗浄や庭の水まき、洗車に使え、節水に役立ちます。高低差で水を流す仕組みのため、災害時に停電になった時でもいつも通り水洗トイレが使えます。

被災地では飲料水はペットボトルで支給される一方、生活用水の確保は意外と難しいもの。このタンクは最大100ℓためることができ、約20回分のトイレ洗浄水をまかなえるため、心強い存在です。

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アイデア部門——受賞対象は商品化が進むものも

——アイデア部門の事例について教えてください。

アイデア部門は、まだアイデア段階にあり社会に存在しないもので、学生から企業・団体まで例年幅広い層から応募があります。今年は172件のアイデアが寄せられました。

金賞は「避難マップになるご当地お土産」(265Lab./阿部 真歩、島ノ江 史菜、池谷 朋晃、田中 聡一郎〈東京都立大学 インダストリアルアート学科〉)。Tシャツと傘に、観光マップ兼ハザードマップをデザインしたお土産です。Tシャツは着用者自身の目線で読めるよう地図を上下反転、傘はハンドルに方位磁石を付けるなど、細かな工夫が施されています。

銀賞は「47都道府県秘密基地計画」(TreasureHunting47/米原 圭彦、勝川 恭平)です。日常時は空き家を家族や友人とのレジャー拠点として別荘のように活用、また空き時間は民泊として収益化します。災害時には疎開先として活用するというアイデアです。

銅賞は「Kawaiiは味方!?なんでも入るマスコットチャーム」(光武 結衣、丸岡 瑚子〈東京都立大学 インダストリアルアート学科〉)です。キーホルダーのマスコットの中にタオルやマスク、アルミシートなど災害時に役立つグッズが入っています。日常時は通学バッグにつけるマスコットキーホルダーとして楽しむことができ、災害時には非常用物資として機能するため通学中や学校で災害に遭った際に役立ちます。

これまでも受賞したアイデアにはメーカーから「ぜひ当社で作りたい」というお声がけがあるなど企業からの注目度も高く、商品化に向けて話が進んでいるものもあります。

「備えましょう」から「フェーズフリー」に至るまで

——「フェーズフリー」の考え方に至るまでの道のりを教えてください。

これまで防災の普及啓発活動を行い、セミナーなどで「災害を想像し、自分や大切な人の命と生活を守れるように備えましょう」と伝えてきました。みなさん「そうだよね」と共感し納得するのですが、日常に戻れば仕事や家庭のことで手一杯になり、備えは進まない。そして、備えは大切と思いつつ備えられないまま日々を送り、ある日災害で生活や命を失ってしまう。そんなことが繰り返され、自分の活動に限界を感じていました。

「災害が起きた時、大切な人を守れなくてもいいですか?」と尋ねて「いいです」と答える人はいないでしょう。それなのに大多数の人が「備えを続けるのは難しい」と感じている。なぜなら日常では非常時への備えが「コスト」になるからです。日用品と防災用品が、はじめから別物として分けられていることが一因です。

それなら日常時と非常時を分けること自体をやめて、世の中をデザインしてみたらいいんじゃないか。そこにたどり着きました。

フェーズフリー認証とアワード

——今では認証マークのついた商品やサービスも約200件に上ります。2021年から始まった「フェーズフリーアワード」も参加数が伸びており、今年は222件の応募と約9000票のオーディエンス投票がありました。

コンセプトを発信したところ、企業や行政の方々から「すごくいい考え方だね」という反応をいただき、「オリジナル商品を作りたいから基準を作ってほしい」という声も次々に届くようになりました。

最初は認証制度を作ることに抵抗がありました。制度化することで、かえって囲い込みのようになってしまうのではと感じていたからです。フェーズフリーは、もっと社会全体に開かれた、誰でも参加できるものにしたいと考えていました。

ただ、結果的に大きな変化がありました。基準を作る前は、商品開発に名乗りを上げるのはコストをかけられる大手企業ばかりでした。それが、制度化後は中小企業の参入が大きく増え、裾野が広がったんです。評価基準がテンプレートとして機能することで、開発に取り組みやすくなったのでしょう。

——アワードの実施も認知度向上に貢献しているように思います。

アワードの目的は認証制度とは少し異なります。フェーズフリーを正しく体現している企業や団体を表彰し世の中に示すことで、「フェーズフリーってこういうことなんだ!」と多くの人に知ってほしかったんです。そうすれば、名ばかりのフェーズフリーも自然となくなっていくだろうと。

というのも、フェーズフリー商品ってすごく売れるんです。消費者にとっても便利でお得ですから。そのため、フェーズフリーを名乗りつつ内実の伴わない商品やサービスも出てきます。そうしたものを「それは違う」とモグラ叩きのように指摘してブラックリストを作るより、「ホワイトリスト」を作って正しい取り組みを応援したかった。つまりアワードは、社会におけるフェーズフリーの軸を作り上げるための取り組みなんです。

日常の「楽」が非常時の安全安心につながる

——フェーズフリーな暮らしに近づくためにはどうすればいいでしょうか?

日常の暮らしを楽にしておくことは、非常時にも役立ちます。非常時は、普段できていることができなくなる状況だからです。

たとえば液体ミルクは、育児の負担を軽くし、誰でも参加しやすくしてくれます。この便利さは、電気やガス、水道が使えない災害時にも、いつも通り赤ちゃんにミルクをあげられるという形で活きてきます。

このように、認証マークの付いた商品やサービス、施設に触れることで、「フェーズフリーとはこういうことか」という理解が深まります。すると、認証商品を利用するだけでなく、自分の暮らしの中にもフェーズフリーがいろいろあることに気づけるはずです。

たとえば、ちぎった野菜と缶詰を和えただけのおかず。忙しい夕方に少しでも手間を省くための工夫ですが、これは災害時にも作れる料理です。

こうしてフェーズフリーという視点で自分の暮らしを見つめ直し、「これもフェーズフリーかも」と気づく。それを周りと共有し合うことで、暮らしのさまざまな面が少しずつフェーズフリーになっていくのではないでしょうか。

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<佐藤唯行さんプロフィル>

1971年生まれ。一般社団法人フェーズフリー協会代表理事。国内外で多くの社会基盤整備および災害復旧・復興事業を手掛け、世界中でさまざまな災害が同じように繰り返されてしまう現状を目の当たりにしてきた。 その経験・研究に基づき、防災を持続可能なビジネスとして多角的に展開。「フェーズフリー」の発案・提唱者。著書に『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』がある。

<執筆者プロフィル>

那須 あさみ

フリーランスライター。小学生、中学生の4児の母。さまざまな年齢の子どもと一緒に家庭で備えられる防災を模索中。

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