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ナポレオンの「217年前の暗号の手紙」をAIが解読

  • 2026.10.6
ナポレオンの「217年前の暗号の手紙」をAIが解読
ナポレオンの「217年前の暗号の手紙」をAIが解読 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

子どもの頃、友だちと自分たちだけの記号を決めて、授業中にこっそりメモを回したことがある人もいるでしょう。

戦争の時代には、そんな「秘密の記号」が国の命運を左右していました。

フランス皇帝ナポレオンの求めで書かれた1809年の手紙も、その一つです。

この手紙は暗号で書かれていて、これまで誰にも解かれていませんでした。

そこで今回、サイバーセキュリティ企業センチネルワン(Sentinel One)のAIエンジニア、カーター・チャーチ氏が、最新のAIを使ってこの暗号に挑みました。

217年前の密書には、いったい何が書かれていたのでしょうか。

この話題の詳細は2026年10月2日に『Live Science』にて公開されました。

目次

  • 皇帝の手紙はなぜ暗号にされたのか
  • AIは217年前の暗号をどうやって解いたのか?
  • 密書に書かれていた皇帝の言葉と、歴史家の見方

皇帝の手紙はなぜ暗号にされたのか

皇帝の手紙はなぜ暗号にされたのか
皇帝の手紙はなぜ暗号にされたのか / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

ナポレオンの時代、暗号はそれほど珍しいものではありませんでした。

軍事や外交にかかわる機密を伝える手段として、広く使われていたのです。

ポーツマス大学の歴史研究員ザック・ホワイト氏は「ナポレオンは広大な帝国の各地に機密を安全に伝えるため、暗号を使わざるを得なかった」と説明します。

手紙が敵に奪われ、皇帝の計画が筒抜けになる危険は常にあったからです。

今回の手紙は、ナポレオンの求めに応じて、継子でイタリア副王だったウジェーヌが書いたものです。

宛先はオーギュスト・ド・マルモン元帥でした。マルモンはアドリア海の東岸に、ほかのフランス軍から遠く離れて駐留していました。

手紙の目的は、ヨーロッパ各地にいるフランス軍と同盟軍の位置を、離れた場所にいるマルモンに知らせることでした。

これが敵の手に渡れば大変なことになるため、文面は暗号に置き換えられたのです。

しかし、この暗号はなかなかの難物です。

チャーチ氏によると、公開されている手紙の画像は、1969年にフランス陸軍の雑誌に載った低解像度のスキャン1枚だけでした。

そこには155種類、合計1300個の記号が並んでいます。

しかもこの暗号は「同音異字式(ホモフォニック)」と呼ばれるもので、よく使う文字には入れ替え可能な記号がいくつも割り当てられています。

つまり、同じ文字でも毎回同じ記号で書かれているとは限らないのです。

チャーチ氏は、AIの力を示すのにふさわしい暗号を探す中で、この手紙にたどり着きました。

彼が使ったのは、OpenAIの新しいAIモデル「GPT-6 Astra」です。

AIは217年前の暗号をどうやって解いたのか?

AIは217年前の暗号をどうやって解いたのか?
AIは217年前の暗号をどうやって解いたのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

チャーチ氏がAIに渡したのは、手紙の画像1枚と、指示文(プロンプト)1つだけでした。

それから6時間後、AIは解読を終えていたといいます。

AIはまず、低解像度のスキャン画像から記号を書き起こしました。

さらにウェブで調べものをする中で、暗号史研究者ダニエル・タン氏がまとめた「部分的な対応表」を見つけ出します。

この表には33個の記号の意味が記されていて、手紙のおよそ3分の1をカバーしていました。

面白いのは、それまで誰もこの表を今回の手紙と結びつけていなかったことです。

チャーチ氏の理解では、タン氏はこの表を「ウジェーヌ・ド・ボアルネとグラモン将軍の間の暗号」として記録していたといいます。

チャーチ氏は、これは「マルモン」と「グラモン」の名前を取り違えた誤りだったのかもしれないと見ています。

いずれにせよ、AIは調べる途中で自らこの表を見つけ、今回の暗号に当てはめてみることにしたのです。

「そして、うまくいったのです!」とチャーチ氏は振り返ります。

AIはこの部分的な表をもとに、残りの記号がそれぞれ何を表すのかを割り出し、手紙を翻訳しました。

例えるなら、虫食いだらけのクロスワードを、すでに埋まっているマスを足がかりに解いていくような作業です。

もっとも、チャーチ氏自身も「最初は信じられなかった」と話しています。

AIがとんでもない主張をするのは誰もが経験していることですが、今回は答えを機械的に確かめられる点が違うといいます。

間違った鍵から、意味が通り、しかも歴史とも矛盾しない文章が出てくる可能性は、ほぼゼロだというのです。

チャーチ氏は「答えの候補を出すより、その正しさを確かめるほうがはるかに難しい」とも語っています。

「責任までは自動化できない」というわけです。

密書に書かれていた皇帝の言葉と、歴史家の見方

密書に書かれていた皇帝の言葉と、歴史家の見方
密書に書かれていた皇帝の言葉と、歴史家の見方 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

では、解読された手紙には何が書かれていたのでしょうか。

中身は主に、各地の部隊とその指揮官の位置でした。

それに加えて、マルモンに「ひるむな」と励ます一文も含まれていました。

「進軍の命令を受けたら、わずかな部隊や烏合の衆に怖気づいてはならない」というのです。

この翻訳について、キングス・カレッジ・ロンドンでヨーロッパ史を研究するマイケル・ロウ氏は「見事だ」と評価しています。

というのも、ナポレオンが継子に宛てて、暗号文に何を書くべきかを細かく指示した元の手紙が残っているからです。

その中身と照らし合わせられるため、ウジェーヌの手紙の翻訳はかなり信頼できるとロウ氏は言います。

ロウ氏はこれを「一種のロゼッタストーンのようなもの」と表現しました。

中身がほぼ分かっている手紙でAIを試して期待どおりの答えが出れば、中身の分からない文書に同じ方法を使った時にも結果を信用しやすくなる、という意味です。

裏を返せば、今回の密書は歴史家にとってそれほど意外なものではありませんでした。

ロウ氏によれば、暗号版は元の手紙の大部分を繰り返しているだけで、新しい大発見を明かすものではないといいます。

一方でホワイト氏は、この翻訳が1809年のオーストリア遠征を前にしたナポレオンの心理について「興味深い疑問」を投げかけると指摘します。

たとえば当時ナポレオンが実際に戦いに使えた兵力は、この手紙で主張されている数より6万人も少なかったといいます。

また、オーストリアがイタリア侵攻にどれだけの兵を送ってくるかに、ナポレオンがこだわっていたようにも見えるそうです。

ホワイト氏は、歴史家がAIの成果をこの時代の歴史全体の中に位置づけることが大切だと述べています。

そして、今回のAIの作業で得られた鍵が、ほかの書簡にも使えるかどうかにも注目しています。

ロウ氏によると、暗号は軍事だけでなく、私的なやりとりにもよく使われていました。

たとえば、不倫関係にあった上流階級の人々が交わした手紙です。

AIによる解読は、歴史上の人物の私生活をのぞく窓にもなりうるのです。

今回の解読では、AIの訳を元の手紙と照らし合わせられたことが、翻訳をかなり信頼できる理由になっていました。

子どもの頃に回した秘密のメモが、200年後のAIに読まれないことを祈るばかりです。

参考文献

'A kind of Rosetta Stone': AI decodes 217-year-old secret letter ordered by Napoleon (Live Science)
https://www.livescience.com/technology/artificial-intelligence/a-kind-of-rosetta-stone-ai-decodes-217-year-old-secret-letter-ordered-by-napoleon

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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