1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. サイコパスな人と「腸と口の細菌」の意外な結びつき

サイコパスな人と「腸と口の細菌」の意外な結びつき

  • 2026.10.6
サイコパスな人と「腸と口の細菌」の意外な結びつき
サイコパスな人と「腸と口の細菌」の意外な結びつき / Photo by MEHRAX on Pexels

サイコパスと聞くと、多くの人は「脳」や「心」の問題を思い浮かべるでしょう。

ところが最近は、お腹や口の中にすむ細菌が、私たちの気分や性格と関わっている可能性にも目が向けられています。

そこでポルト大学とオックスフォード大学に所属するカロリーナ・コスタ氏らの研究チームは、腸と口の細菌がサイコパス的な特性とどう関係するのかを調べました。

では、サイコパス的な特性が強い人の体の中では、どんな細菌が目立っていたのでしょうか。

研究の詳細は、2026年8月7日付で学術誌『Translational Psychiatry』に掲載されました。

目次

  • 腸と口の細菌から「サイコパスらしさ」を探る
  • サイコパス傾向が強い人で多かった「ある細菌」とは?
  • 便に多かったブドウ糖とタウリンが示すもの

腸と口の細菌から「サイコパスらしさ」を探る

腸と口の細菌から「サイコパスらしさ」を探る
腸と口の細菌から「サイコパスらしさ」を探る / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

サイコパスとは、感情の冷たさや衝動的なふるまい、社会のルールを破りやすい傾向などを特徴とする性格のとらえ方です。

臨床の場では人口の約1%に見られるとされますが、その体のしくみはよく分かっていません。

一方で、私たちの体には何兆もの微生物がすみ、化学信号やホルモン、免疫の反応を通じて脳とやりとりしています。

このつながりは「腸脳相関」と呼ばれ、これまでにうつや不安との関わりが報告されてきました。

しかし、サイコパス的な特性との関係は、まだ調べられていませんでした。

研究チームは、ポルトガルの一般の大人200人に協力してもらいました。

腸の細菌を大きく変えてしまう抗生物質を、過去3か月以内に飲んだ人は除いています。

参加者にはアンケートに答えてもらい、サイコパス的な特性、共感(他人の気持ちを理解し分かち合う力)、不安の強さを測りました。

サイコパスの点数は、人を操る傾向、感情の冷淡さ、行き当たりばったりの生活、反社会的なふるまいの4つの面から測られます。

測ったのは診断がつくほどの状態ではなく、ふつうの人が持つ「サイコパスらしさ」の度合いです。

さらに便・唾液・血液を集め、DNAを読み取る技術で腸と口にどんな細菌がいるかを調べました。

あわせて、体や細菌が食べ物を分解したときに残る小さな分子(代謝物)も分析しています。

サイコパス傾向が強い人で多かった「ある細菌」とは?

サイコパス傾向が強い人で多かった「ある細菌」とは?
サイコパス傾向が強い人で多かった「ある細菌」とは? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

まず研究チームは、アンケートの点数をもとに、コンピューターで参加者を4つのグループに分けました。

グループは、サイコパス的な特性と不安の強さの組み合わせによって分かれています。

予想どおり、サイコパス的な特性の点数が高い人ほど、共感の点数は低い傾向にありました。

次に細菌を調べると、腸でも口でも、細菌の多様さを示す指標には、4つのグループの間で統計的に意味のある違いは認められませんでした。

ただし、細菌の構成の違いを比べる分析では、サイコパス的な特性の点数との間に統計的に意味のある関連が見られました。

そして特定の細菌の量に目を向けると、性格との関わりが見えてきました。

腸では、アリソネラ(Allisonella)とプレボテラ(Prevotella)の仲間、そしてクロアシバシルス・エブリエンシス(Cloacibacillus evryensis)という細菌が多い人ほど、サイコパス的な特性の点数が高くなっていました。

特に、行き当たりばったりの生活や感情の冷淡さが強い人で、これらの腸内細菌が多く見られました。

反対に口の中では、トレポネーマ・ビンセンティイ(Treponema vincentii)という細菌が、点数の高い人ほど少ないという結果になりました。

このほか、腸のルミノコッカス科DTU089という細菌も、グループの間で量に違いがありました。

では、これらの細菌はどうやって脳や行動と関わりうるのでしょうか。

アリソネラは、免疫の反応や炎症を引き起こす物質であるヒスタミンを作ることが知られています。

体の中で長く続く炎症は、ストレスの信号を脳に送ることがあり、それが気分や行動に影響することも多いとされます。

クロアシバシルス・エブリエンシスは、GABA(ギャバ)という物質を腸で作れる遺伝子を持っています。GABAは脳でブレーキ役の信号として働き、衝動や自制心の調整を助ける物質です。

プレボテラについても、脳が感情や感覚の刺激をどう処理するかの違いと関わりがあることが、以前の研究で指摘されてきました。

ただし、これらは細菌の知られた働きから考えられる道筋で、今回の研究で確かめられたわけではありません。

便に多かったブドウ糖とタウリンが示すもの

便に多かったブドウ糖とタウリンが示すもの
便に多かったブドウ糖とタウリンが示すもの / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームはさらに、便と血液に含まれる200種類を超える分子を調べました。

その中で目立ったのが、便に含まれるブドウ糖(グルコース)とタウリンの2つです。

どちらも、サイコパス的な特性と不安がともに高いグループで多くなっていました。

また、便のブドウ糖とタウリンが多い人ほど、反社会的なふるまいや人を操る傾向の点数が高いという関係も見られました。

ブドウ糖は体の主なエネルギー源で、腸にはそれを感じ取って脳に知らせるセンサーがあります。

便にブドウ糖が多いことは、食べ物からエネルギーを取り出して血液に吸収する働きに乱れがあることをうかがわせます。

過去の研究でも、サイコパス的な特性が強い人の脳では、ブドウ糖の使われ方にふつうと違う点が見つかっています。

タウリンは主に肝臓で作られるアミノ酸で、脳の発達や不安の調整に関わっています。

ふだんは胆汁の成分(胆汁酸)とくっついて脂肪の消化を助け、その後、腸内細菌によって切り離されます。

便に切り離されたタウリンが多いことは、腸が栄養をうまく吸収できていないか、特定の細菌が増えすぎている可能性を示すといいます。

研究チームは今回の結果について、腸と口の細菌と、診断がつくほどではないサイコパス的な特性とを結びつける新しい証拠だとしています。

ただし、この研究はある時点で多くの人を一度に調べたもので、示されたのはあくまで「関連」です。

細菌が性格を決めているとまでは言えず、お腹の検査でサイコパスかどうかを見分けられるわけでもありません。

それでも、複雑な性格を理解する手がかりが、脳だけでなくお腹や口の中にも眠っているかもしれないという視点は、とても新鮮です。

私たちの「性格」は、頭の中だけで完結しているものではないのかもしれません。

参考文献

Gut bacteria and digestive metabolites are linked to psychopathic traits (PsyPost)
https://www.psypost.org/gut-bacteria-and-digestive-metabolites-are-linked-to-psychopathic-traits/

元論文

Gut and oral microbiota composition is associated with psychopathic personality: a cross-sectional study
https://doi.org/10.1038/s41398-026-04052-z

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。 好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ