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「ここを空けておいてもらえませんか」新婦の伯母に頼まれた私→「修正をお願いします」と言う新婦に、理由を言えなかった

  • 2026.10.6
ハウコレ

「修正をお願いします」と新婦から届いた写真を前に、打ち込みかけた返事を消しました。約束を守れば怒られ、破れば裏切る。答えを出せないまま、最終打ち合わせを迎えます。

予約の入っていないロビーに、新婦の伯母さまが1人で立っていました。手にしていたのは、新婦さまから見せてもらったという席次の一覧。続柄の欄を指して、こう言われました。「ここを空けておいてもらえませんか」

「育ての親」と分かる書き方で

初回の打ち合わせで、新婦さまは親族の名簿を渡しながら、1人だけ念を押しました。父の海外赴任で両親が家を空けていたあいだ、5歳から高校を出るまで自分を育てた母の姉がいる。続柄の欄は、育ての親だと分かる書き方にしてほしい。名簿の余白に印を付け、候補をいくつか用意するつもりでいました。

続柄の欄は、揉めやすい場所です。ひらがな1つで角が立ち、当日にやり直しはききません。念入りに、と自分に言い聞かせていた矢先に電話が入りました。

新婦の母親からでした。

「姉に、母と書いてやってください。私には、それを書く資格がないので」

娘には相談せず、私にだけ伝えたい、とも。あの子が熱を出した日、自分は電話にも出られなかった。姉の名前の上に何を書いても、それだけは変わらない。電話の向こうの声は、最後まで落ち着いていました。新婦母の続柄が2つ並ぶ席次表に前例がないわけではないのですが、本人の了承なしには動かせない話です。保留のまま、名簿の印を丸で囲みました。

空けておいてほしい、という頼み

その数日後、伯母さまがロビーに来られたのです。

「妹から、何か聞いていますね」

座る前にそう言われ、うなずくしかありませんでした。

「母とは書かないでください。あの子には母親がいます。かといって伯母と書けば、あの子を育てた日のことはどこにも残りません。どちらも違うから、空けておいてほしいんです」

空欄で印刷した席次表を、見たことがありませんでした。会場の前例、親族の目、当日の説明。頭のなかで並べた反対の理由を、伯母さまは全部聞き終えてから言いました。

「新婦育ての母、という書き方もあります」

「それは、あの子が決めることです。私が先に決めたら、また取ることになります」

「あの子が呼ぶ名前で呼ばれるまで、空けておきたい。それだけです。理由は、私から話すまで伝えないでください」

新婦さまの依頼を、私の一存で変えることはできません。ただ、最終の印刷までにはまだ日があります。校正の段階でいったん空欄にし、新婦さまご本人の確認を待つことにしました。妹さんの頼みも、お姉さんの頼みも、同じ人を大事にしている点では重なっている。それを知ったうえで、新婦さまに決めてもらいたかったのです。

新婦さまに言えなかったこと

校正紙が届いたその日に、新婦さまから写真付きのメッセージが来ました。

「伯母の続柄が入っていません。修正をお願いします」

修正します、と返せば済む話です。打ち込みかけた文を消して、こう送りました。

「こちらは最終のお打ち合わせでご説明させてください」

打ち合わせ室に入るなり、新婦さまは校正紙を開いて空欄を指しました。

「伯母の続柄が抜けています」

「そちらは、ご本人からのご希望です」

目を合わせられず、席次表を見たまま答えました。

「打ち合わせで、育ての親と書きたいって伝えましたよね」

「はい。承っております」

「本人って、伯母がですか」

「申し訳ありません。事情は、伯母さまご自身からお伝えいただくお約束になっておりまして」

理由を言えば、伯母さまとの約束を破ることになる。言わなければ、新婦さまは怒ったまま帰る。選べたのは、怒りの向き先を自分に引き受けておくことだけでした。校正紙を鞄に戻す音を聞きながら、テーブルの下で手を組み直していました。

1人になった打ち合わせ室で、名簿の余白に付けた印を見ました。丸で囲んだまま、書き込みのない印。母親に電話をして事情を話すことも考えて、やめました。この欄をめぐって動いた3人のうち、まだ何も知らないのは新婦さまだけです。私が増やしていい人数ではありませんでした。

伯母さまに電話を入れました。

「たぶん、今から行きます。あの子が来たら、話します」

そのあとの台所で何があったのかを、私は知りません。次の確認の電話で新婦さまが言ったのは、「空欄のままで大丈夫です」の一言だけでした。それ以上は、こちらからも聞いていません。聞く権利が自分にないことは、はっきりしていました。

そして...

当日の謝辞で、新婦さまは原稿にない一言を足しました。

「席次表の空いたところは、私がずっと呼んできた名前のための場所です。おばちゃん、ありがとう」

親族席の伯母さまは、テーブルの席次表に手のひらを重ねたまま、頭を下げていました。

それ以来、初回の打ち合わせで続柄を伺うとき、必ずこう聞いています。「その書き方で、ご本人はよろしいですか」。空欄のまま印刷した席次表は、今もあの1組にしかありません。

(30代女性・ウェディングプランナー)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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