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「たいそう立派なお犬様ですね」敬語を覚えたての新人営業の僕→取引先で顔を真っ赤にした理由

  • 2026.10.2
「たいそう立派なお犬様ですね」敬語を覚えたての新人営業の僕→取引先で顔を真っ赤にした理由

覚えたての敬語で胸を張っていたころ

もう30年近く前の話になる。

研修を終えて営業として外回りを始めたばかりのころ、僕は覚えたてのビジネス用語がうれしくてたまらなかった。

「御社」「弊社」「私といたしましては」。1日に50回は口にしていたと思う。

言えば言うほど、自分が立派な社会人になった気がしていた。

直属の上司には2度注意された。

1度目は営業車の中で、2度目は給湯室で、どちらも同じ言葉だった。

「そこまで言わなくていいぞ」

「丁寧に越したことはありません」

僕はそのたびに胸を張って答えた。

上司は何か言いかけて、黙ってコーヒーをすすっていた。

ある日、僕は取引先の小さな会社を訪ねた。

社長さんは60代くらいの男性で、応接室といっても事務所の奥にソファを置いただけの、こぢんまりした部屋だった。

「御社におかれましては、弊社の新しいご提案を、私といたしましてはぜひ」

社長さんは、うんうんと穏やかにうなずいてくれていた。

そのとき、玄関の外で「ワン」と大きな声がした。

静まり返った部屋で返ってきた言葉

吠え声に反応して、敬語のくせがついた口が勝手に動いた。

気づいたときには、もう言い終わっていた。

「御社の玄関にいらっしゃる、たいそう立派なお犬様ですね」

部屋が一瞬、しんと静まった。お茶を運んできた社長さんの奥さんがお盆を持ったまま吹き出し、湯のみがかちゃりと鳴った。

社長さんは口もとをぎゅっと結び、笑いをこらえながら、真顔で僕を見た。

「…お犬様は、弊社の営業部長でございます」

僕の顔は、一気に耳まで熱くなった。すると社長さんはこらえきれずに声を出して笑い、膝をたたいた。

「うちの部長はね、お客さんが来ると必ずあいさつするんだよ」

そこから犬の話が20分も続いた。

散歩の道順、好きなおやつ、雷の日は社長さんの机の下にもぐりこむこと。

僕はメモまで取りながら聞いていた。

商談は、その日回ったどの会社よりも和やかに進んだ。

後日、社長さんから電話があり、僕の提案した商品を買ってくれた。

「部長が気に入ったみたいだから」

会社に戻って報告すると、上司はしばらく肩を震わせてから言った。

「だから、そこまで言わなくていいと言っただろう」

この話は今も社内で「お犬様事件」として語り継がれている。

そして50代になった僕は、配属されたばかりの新人に、少しだけ先輩の顔をしてこう教えている。

「敬語は、使う相手をよく見てからな」

新人はまじめな顔でうなずき、手帳に書きとめた。その一番下に、小さく「お犬様」と添えてあった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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