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イントロで体が動き出す“低音”…ヘアカラーCMで流れた【平成人気ユニット】の名曲、ベースを弾いたのはプロデューサー本人

  • 2026.10.27
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2001年8月、花王「ラビナス」新商品・新CM発表会に出席したDo As Infinityの伴都美子(C)SANKEI

決心はとっくについているのに、最初の一歩だけがなかなか出ない。願書を出す、知らない街の部屋を契約する、慣れ親しんだ場所に別れを告げる。頭では準備ができていても、気持ちばかりが先に走って、肝心の体がついてこない。

そういうときは、背中を強く叩く励ましの言葉が、かえって重たく感じられてしまうこともある。だからいま差し出したいのは、言葉より先に音で背中を押してくれる曲だ。

再生してまず耳に届くのは、歌声ではなく、太くしなやかに弾むベースの一節。歌が始まる前のわずか数秒で、もうこちらの気持ちは前のめりになっている。歌詞の意味を追いかけるより早く、体のほうが先に動き出してしまうのだ。

Do As Infinity『冒険者たち』(作詞・作曲:D・A・I)ーー2001年9月5日発売

歌い出しの前に名乗りを上げる太い低音

Do As Infinityの『冒険者たち』は、歌声より先にベースのリフが鳴り出す曲だ。リフとは、短いフレーズを何度も繰り返して曲の土台を形づくる手法のこと。ロックバンドの楽曲で最初に耳をつかむのは、ギターのかき鳴らしか、鮮烈な歌い出しであることが多い。ベースという楽器はふだん、ドラムと呼吸を合わせて曲の床下を支える側に回る。

けれどもこの曲では、低音がいちばん前に立って力強く拍を刻み、後から飛び込んでくる歌とギターを前へ前へと押し出していく。歌が入ってからも低音は奥へと引っ込まず、主役の座を譲らないまま堂々と鳴り続ける。

高い音が気分を持ち上げるとすれば、低い音は足元から体を押す。同じ形のフレーズが繰り返されるたびに、まるで地面を一歩ずつ踏みしめる足音のようにも聴こえてくる。

この曲の印象を決めているのは、間違いなくベースだ。サビのメロディを思い出そうとすると、先にあの低音の動きが頭の中で鳴り出してしまう。知っているつもりの名曲でも、イントロだけに耳を澄ませてみると、その主役ぶりにあらためて驚かされる。

設計図を引いた人の指が曲の顔を鳴らした

このベースを弾いているのは、亀田誠治だ。亀田は3枚目のシングル『Oasis』から、Do As Infinityのサウンドプロデュースを手がけてきた。曲の音作り全体を見渡し、どんな音をどこに置くかを決める役割だ。そのうえでベーシストとしても録音に加わり、この曲でも自らの指で弦を鳴らしている。

編曲もバンドと亀田ががっちりと組んで形にした。周りを和ませるムードメーカーでもある亀田だが、音の設計を預かる人の手が、そのまま曲の顔になるリフを鳴らしていると知って聴き直すと、低音の一音一音に宿る迷いのなさに気づかされる。土台に徹するだけでなく、歌と並んでメロディを語るように動くベースは、バンドの音そのものの表情になっている。

曲の看板を低音に預けるのは、ポップスとして実に思い切った選び方だ。その思い切りを、バンドと亀田は爽快な音へと変えている。

先を行くベースに追いつく決意の言葉

ベースが前へ押し出していく先にあるのは、旅立ちを決めた人の歌だ。詞は、煙や呪文を思わせる儀式めいた静かな場面から始まり、宇宙や神話の広さへ一気に開けていく。小さな場面から視界がぐんと広がっていくこのダイナミズムは、旅の始まりそのものの手触りだ。2番になると、空を舞い、乾いた雨や熱波といった厳しい自然へ、自分から向かっていく姿を描き出す。

サビの真ん中に置かれているのは、「new frontier」という力強い言葉だ。ひとつの愛を胸に抱いて未知の地平へ進み、たとえ全てを失っても悔いはないという覚悟が、曲全体を貫いている。

詞が物語の入口を語っているうちから、曲の底ではもうベースが歩き出している。だから聴き手は、主人公が決意を口にするより先に、もう旅の途中に立たされている。

伴都美子のよく通る澄んだ歌声が、その決意をまっすぐ前へ運んでいく。止まらずに転がり続けるベースと、前へ進むと決めた詞は、ぴたりと歩幅をそろえているように聴こえる。題名の終わりに「たち」が付いて複数形になっていることも、ひとりの決意を、聴く側の一人ひとりへ開かれたものにしているように映る。

玄関の前でイントロに背中を預ける

2001年のDo As Infinityは、4月『遠くまで』、5月『Week!』、6月『深い森』とシングルを重ね、この曲は3枚目のアルバム『DEEP FOREST』に先駆けて届いた。花王「ラビナス」のヘアカラーのCMソングとして、テレビからも流れていた。髪の色を変えて鏡の前に立つ朝の、少しくすぐったい新しさにも、この弾む低音はよく似合う。

新しい何かに踏み出す日、身支度を終えて玄関で靴を履く。その手前でこの曲を再生してみてほしい。大げさな気合など入れなくても、歌より先にあのベースが鳴り、気がつけば足が前へと出ているはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・笄坂かける)

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