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初の“1位”を獲ったのに紅白では歌わず…小室哲哉が【平成の歌姫】に託した“異例”のシングル

  • 2026.10.27
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2015年9月、ロッテ『紗々』の20周年PRイベントに出席した華原朋美(C)SANKEI

秋風が立ち始める頃、店頭には冬に向けた季節限定のチョコレートが並び始める。極細チョコを幾重にも重ねたロッテの『紗々』が生まれたのは1995年。まだ2度目の秋を迎えたばかりの新しいお菓子だった。その棚に、鮮烈な記憶が重なる。

1996年、テレビから流れてきた『紗々』のCM。画面に出ていたのは、歌い手本人の華原朋美。チョコの繊細な甘さと澄んだ秋の空気の中へ、まっすぐ伸びていく高音。その取り合わせこそが、この歌の居場所を物語っていた。

描かれているのは、一度つまずいた人がもう一度顔を上げて歩き出すまでの気持ちだ。明るい声が、その新たな歩みに光を当てる。

発売から30年がたつ。季節のCMソングとして耳に残るこの曲を聴き直すと、シンガーの歩みにとって決定的な意味を持つ一曲の姿が見えてくる。

華原朋美『save your dream』(作詞・作曲:小室哲哉)ーー1996年10月2日発売

画面越しの歌声が届いた初めての頂点

1996年10月2日に出た『save your dream』は、華原朋美にとって5枚目のシングルにあたる。詞・曲・編曲のすべてをプロデューサーの小室哲哉が手がけた。

発売直後の10月14日付週間ランキングで、本作は初登場1位を記録する。シングルでの首位獲得はこれが初めてだった。累計売上は90万枚を超える。

数字だけ見れば勢いあるヒットに映る。だが際立つのは、チョコの季節と彼女が頂点に立った季節がぴたりと重なり合っていたことだ。

CMソングは構えて聴くものではない。テレビの前を通り過ぎる短い時間に耳を引かなければ流れていってしまう。ひと声で誰もを振り向かせる澄んだ高音が、その一瞬を確かに射止めていた。歌声と本人の姿がCMのなかで結びつき、その秋、いちばん高い場所へ届いた。

呼ばれる名前がようやく自分のものになる

2015年、『紗々』発売20周年を祝う場で、華原朋美はこの時期を振り返った。CMソングが売れて初めての1位を獲り、自分のイメージが上がって芸能人としての「華原朋美」になれた季節だったという。

人前で呼ばれる名前は、ときに本人を置き去りにして世の中を走り始める。名前だけが巨大化し、本人の実感はあとから追いかけていく。『save your dream』は、そのめまぐるしい追いかけっこが終わった秋に鳴っていた。

そう思って聴き直すと、この曲の明るさには単なる元気さとは違う手触りがある。前のめりな勢いは、名前に追いつこうと駆けてきた人の息づかいそのものだ。

タイトルとなった「save your dream」という呼びかけも、聴き手への励ましであると同時に、歌う本人が自分の足元を確かめる言葉でもある。その呼びかけには、歌う本人の手応えも重なって聴こえる。

ブーツを履き直してくじけた丘へ

歌詞の骨格を成すのは、英語の短いサビだ。「save your dream」から続くリフレインが何度も戻り、歌を前へ前へと推進させる。

その合間に置かれた日本語のパートには、雪の結晶や谷を抜ける風、波間といった自然の情景と、花柄のワンピース、革ジャン、ブーツといった身支度の描写が並ぶ。風景と装いが交互に重ねられ、かつてくじけた丘へもう一度向かう決意へと流れていく。

服を選び、ブーツを履く。気持ちを立て直すとき、人はまず身支度から始める。大きな決意を語る前に、着るものを整えて鏡の前に立つ。詞はその何気ない風景を描く。だからこそ前を向く言葉に体温が宿る。おしゃれな装いでも注目を集めていた本人の姿と重なるのも鮮やかだ。

一人称を前に出さず、聴き手へ呼びかける語り口も利いている。誰もが自分にとっての丘を思い浮かべられる応援歌としての広さがここにある。雪の結晶という冷たく澄んだ像は、秋に届いた歌をそのまま冬の入り口へと連れていく。季節が移ろっても色あせない理由が、言葉選びの中に息づいている。

高い声が最後まで晴れ間を手放さない

この曲の明るさを決定づけているのが、華原朋美の高い声だ。ハイトーンが一曲を通して生き生きと響き、明るい曲調のまま最後まで聴き飽きさせない。旋律も同じ場所にとどまらず、表情を変えながら先へ進んでいく。

いざ口ずさんでみると、思った以上に高いところまで連れていかれる。それでも聴いているあいだ、苦しさはまるで伝わってこない。高い音ほど澄んで響き、呼びかけの言葉を遠くまで運ぶ。詞が描く「もう一度」の決意を、声の明るさが肯定しているように聴こえる。

シングル『save your dream』は、別の曲を組み合わせず、同じ曲のミックス違い3本だけで構成された。カラオケすら入れず、この1曲のポテンシャルだけで勝負する構成だ。さらに2枚目のアルバム『storytelling』では、別のミックスで1曲目に置かれている。シングルを同じ歌で埋め、アルバムでも幕開けを任せる。その並べ方そのものに、この曲への絶大な信頼が滲む。

年末の大舞台を踏まなかった看板曲

この曲は紅白歌合戦では歌われていない。華原朋美が初出場した1996年に歌ったのは『I'm proud』、翌1997年は『Hate tell a lie』だった。

初めての首位曲でありながら、年末の大舞台は別の2曲に譲った形になる。それでも好きな曲を尋ねれば、いまも上位にこの曲の名前が挙がる。

大舞台の歌が時代の記憶を背負って年末の居間に響く歌だとすれば、この曲はもう少し小さな場所で鳴る。上着を一枚足したくなる夕暮れの駅や、気持ちが少し沈んだ帰り道のヘッドホンのなか。誰かと一緒に見上げる歌というより、ひとりで自分を奮い立たせるための歌だ。

もう一度だけ前を向きたい朝がある。秋の空気が澄みはじめる頃にこの曲を再生すると、30年前の高い声は少しも曇らず、こちらの一歩を軽くしてくれる。その明るさに励まされるのは、発売当時に聴いた人たちだけではないはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・笄坂かける)

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