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朝ドラ主題歌も手がけた【国民的女優】“自作の曲”でCMから紅白まで出場した27年前

  • 2026.11.1
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2000年12月、大阪城ホールで行われたイベント「AAA IN OSAKA」に出演した松たか子(C)SANKEI

本当に大切にしているものほど、人はいきなり人前には掲げない。目立たない場所にそっと置いて、まずは自分の手の届くところで温めてみる。

女優として広く知られる松たか子にとって、その大切なものは「自分で旋律を書くこと」だったように映る。歌手としてのシングルはすでに7枚を数えていたが、表題曲の旋律はどれも外部の作曲家が手がけたものだった。

1999年の秋、その流れが変わる。8枚目のシングル『夢のしずく』で、彼女は初めて自ら詞と曲を書いた恋の歌を表題に掲げた。女優が歌うCMソングとして覚えている人にこそ、作り手の側から聴き直してほしい1曲だ。だが、作曲という試みの原点は、このシングルより少し前、あるアルバムの最後にひっそりと置かれていた。

松たか子『夢のしずく』(作詞・作曲:松たか子)ーー1999年9月22日発売

アルバムからはじまった作曲家・松たか子

始まりは、1998年9月に出た2枚目のアルバム『アイノトビラ』だ。そのラストを飾る最終曲『あなたへ』で、松たか子は初めて詞と曲の両方を自ら手がけている。

それまでのシングルの表題曲を振り返ると、作曲は日向大介か武部聡志のどちらかが担っていた。作詞こそ2枚目の表題曲から本人が筆を執っていたものの、本人の書いた旋律はまだシングルの表舞台には出ていなかった。

演じる仕事において、俳優は役という他者の言葉を自分の身体に通して表現する。一方、旋律を書く行為はその逆で、自らの内側にある感情を手探りで音にして外の世界へ差し出す作業だ。人前に立つことに慣れていたはずの彼女にとっても、それは役の衣装をすべて脱ぎ捨てて素肌で立つような、勇気の要る試みだったに違いない。

詞も曲も自ら書いた一曲を華々しくシングルの看板にはせず、アルバムの締めくくりに置く。作品を最後まで聴き終えてくれた人にだけ届く、いちばん奥の場所。その慎ましい順番の選び方に、作り手としての松たか子の誠実さと、音楽への敬意が静かに滲んでいた。

肩に力を入れず声の呼吸に寄り添う旋律

アルバムからほぼ1年後、『夢のしずく』が8枚目のシングルとして世に出る。アルバムの奥に置かれていた試みが、ここで初めて表題の位置に立った。

その佇まいに気負いや力みは少しもない。ミディアムテンポのロマンティックな恋の歌でありながら、旋律は大げさに跳ね回らず、声の流れに沿って自然な歩幅で進んでいく。初めて自分で書いた表題曲だからと何かを証明しようとする気配はなく、日々のなかで口ずさみながら形にしていったような親密さがある。

自分の声がいちばん素直に鳴る音域や、言葉を置きたい息継ぎの間合い。それを誰よりも知る歌い手自身が書いた旋律は、歌の呼吸と少しもずれない。『夢のしずく』の歌声がどこまでも柔らかく耳に届くのは、旋律と声がまったく同じ身体から生まれているからだ。

編曲を担ったのは武部聡志である。前作『Stay with me』まではシングルの作曲者として旋律を書いていた名匠が、この曲では編曲に回り、松たか子の書いた旋律を支える側に立っている。斉藤由貴『卒業』の編曲等、数々のヒット曲でも知られる巨匠が、若い表現者の手書きの音を温かく包み込んだ。

旋律を書く人が入れ替わり、それまで旋律を授けていた人が後ろから音を整える。シングルの制作体制そのものが、この1枚で鮮やかに組み替えられたのである。

にぎやかな大晦日に手書きの恋の歌を差し出す

『夢のしずく』は、資生堂の「WHITIA(ホワイティア)」のCMソングにも起用された。CMには松たか子本人も出演している。画面に映る顔も、流れてくる歌声も、その旋律を書いたのも同じ人という重なり。役を演じて画面に立つことに慣れた人が、ここでは自ら書いた歌を背負って映る。演技とは向きの違う、作り手としての素顔が覗く時間だった。

同じ年の暮れ、彼女はこの曲を携えて第50回NHK紅白歌合戦に出場する。1997年の初出場に続く、2回目の紅白だった。

世紀の変わり目を前にしたこの年の紅組には、モーニング娘。の『LOVEマシーン』をはじめ、Kiroroの『長い間』、解散を控えたSPEEDらが並んでいた。そんな賑やかな狂騒のただなかで、松たか子は自ら書いた恋の歌を歌った。時代の熱気の隣に置かれたからこそ、彼女の手書きの旋律が持つ慎ましさと品の良さは、かえって鮮やかに浮かび上がったのである。

あの秋の一歩から続いていく道

この1枚を境に、松たか子は『月のダンス』『優しい風』『明日にくちづけを』と、自ら詞と曲を書いた表題曲を重ねていく。一方で『桜の雨、いつか』や『コイシイヒト』のように詞だけを手がけた曲も並ぶ。自分の旋律と、外部の作曲家の旋律。その両方を表題曲ごとに行き来する歩み方が、ここから始まったのだ。どちらか一方に決め込まないしなやかさは、『夢のしずく』の気負わないメロディとも通じ合っている。

2017年、松たか子は18年ぶりに紅白の舞台へ帰還。3回目の出場で歌ったのは、朝ドラ『わろてんか』の主題歌で、自ら作詞・作曲を手がけた『明日はどこから』だった。主題歌に決まった際、本人はこの曲を自分なりの応援歌と位置づけている。

アルバムの最後にそっと置いた一曲から始まった旋律の書き手としての歩みは、20年近い歳月を経て、誰かを励ます歌を書く人の顔になっていた。

いま『夢のしずく』をあらためて聴くと、恋の歌の甘さの奥から、自分の歌を自分の手で書いた人の、まだ控えめな足音が響いている。その足音の小ささこそが、四半世紀が経ったいまもこの曲を色褪せさせず、私たちのすぐ隣に寄り添わせてくれる理由なのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・篝火花かほり)

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