1. トップ
  2. エンタメ
  3. 27年前、累計160万枚の【平成の歌姫】が自ら綴った失恋歌に隠された本音

27年前、累計160万枚の【平成の歌姫】が自ら綴った失恋歌に隠された本音

  • 2026.10.31
undefined
2000年8月、横浜アリーナで行われた浜崎あゆみのライブより(C)SANKEI

いちばん眩しい季節のただなかで、人はなぜ、目の前の景色から色彩を奪ってしまいたくなるのだろう。

夏は、明るいほど残酷な季節でもある。照りつける日差しも、抜けるような青空も、忘れたいはずの記憶の輪郭まで鮮やかに縁取ってしまうからだ。街中に浮かれたサマーソングが溢れるほど、失われた恋を抱えた人にとっては、逃げ場のない光ばかりが増えていく。

1999年の夏、ひとりの歌い手が時代の坂道を猛烈な勢いで駆け上がっていた。季節の風を味方につけたような熱狂のなかで、日本中のリスナーがひとつのシングルを手に取った。だが、CDをセットして最初に流れてきたのは、夏を謳歌するアンセムではなかった。夏の色を、自らの手で消そうとする歌だった。

浜崎あゆみ『monochrome』(作詞:浜崎あゆみ/作曲:D・A・I)ーー1999年8月11日発売

息つく間もなく駆け上がった時代の坂道

1999年7月14日、浜崎あゆみは『Boys & Girls』を世に出し、ランキングの1位をつかみ取った。だが、立ち止まってその余韻に浸る時間を、この夏の彼女は持たない。わずかひと月後の8月11日には、早くも次なるシングル『A』が店頭に並んでいたからだ。

その勢いは、前の曲にまで波及していく。『A』の爆発的なヒットに引っ張られるように、先行していた『Boys & Girls』も後から売上を伸ばし、累計ミリオンセラーを達成した。新曲が前作を力強く押し上げていくサイクルに、上り坂を駆ける彼女の凄まじい速度がそのまま表れていた。年末には『NHK紅白歌合戦』への初出場も果たし、時代の主役へと躍り出た1年を締めくくる。

当時の彼女は、季節の光を誰よりも強く浴びる場所に立っていた。底抜けに明るい歌を出せば、そのまま「夏の顔」になれる位置にいながら、そこで放たれた歌の手触りは驚くほど内省的だった。

メガヒットの入り口に置かれた「夏の影」

通算10枚目の節目となったシングル『A』は、表題曲を置かず、『monochrome』『too late』『Trauma』『End roll』の4曲すべてをA面として並べた挑戦的な1枚だった。ランキングの表記で先頭に立ち、通常盤の1曲目に収められていたのが『monochrome』だ。つまり、ディスクを再生して真っ先に耳へ届くのが、この歌だった。

シングル『A』が打ち立てた記録は、まさに金字塔だ。初登場1位を飾り、通算3週にわたって首位に立ち、累計売上は160万枚を突破。1999年の年間ランキングでも堂々3位に輝いた。この年の夏を象徴する、最大級の光をまとったメガヒット作である。

だが、その眩い扉を開けた先に待っていたのは、「色を消そうとする歌」だった。華やかなサマーチューンを期待して再生した耳に差し込んでくる、冷たい夏の影。セールスの規格外の大きさと、最初に鳴り響く歌が湛える孤独な温度との落差に、いまこの曲を聴き直す奥深い面白さがある。

日差しではなく鮮やかすぎる記憶を遮るサングラス

歌は、一人称の「私」と相手の「君」のあいだで静かに進んでいく。主人公はまず、過ぎ去った日々の楽しさも悲しさも優しさも、本当にあったのかどうかさえ確かめられずにいる。思い出を最初からなかったことにしたい。そんな心の防衛反応から歌は始まる。だがそこへ夏の匂いが届き、しまい込んでいた記憶がいっせいに呼び覚まされる。

匂いという、もっとも防ぎようのない感覚から思い出が蘇るところに、この歌詞の生々しさがある。どれほど目を閉じ耳を塞いでも、季節の空気だけは否応なく身体に入り込んでくるからだ。痛みをなかったことにしようとする打ち消しを、夏の匂いはあっさりと押し流してしまう。

やがて青い空も見慣れた街並みも歪んで見えはじめ、彼女はサングラスをかけて世界から色を消そうとする。サングラスは本来、夏の強い日差しを和らげるための道具だ。しかしこの曲において、それは光ではなく、鮮やかすぎる思い出から守るためにかけられている。

タイトルの『monochrome』を、この痛切な仕草に重ねずにはいられない。色鮮やかな夏をあえて白黒に落とし、心を麻痺させて何も感じないふりをする。メガヒットの頂点を走る歌い手が、真夏のど真ん中で歌っていたのは、あまりにも静かな抵抗だった。

ガラスの靴を手放し自らに言い聞かせる「大丈夫」

けれど歌は、色を消したままでは終わらない。主人公は、自分が本当に欲しかったものが童話のお姫様の役でも、ガラスの靴でもなかったことに気づいていく。望んでいたのは、相手と一緒にいるときの自分と、相手が心から笑ってくれた顔だったのだと。

飾り立てた幸せの幻想を手放し、ささやかで具体的な温もりだけを抱え直す。強がりにも聞こえる言葉が空元気に響かないのは、求めていたものの大きさがどこまでも等身大だからだ。

最後に彼女は、季節の風に吹かれながら「大丈夫」と静かに頷き、またどこかで会える余白を残して歌を閉じる。相手を責めることも、すがりつくこともしない。終わってしまった恋を、いま続いている季節の一部として抱えたまま歩き出す。この潔い幕引きこそが、夏が巡るたびにこの曲へ立ち戻りたくなる理由なのだろう。

この率直な言葉を綴ったのは、浜崎あゆみ本人だ。そして作曲のD・A・Iと、ともに編曲を手がけた鈴木直人は、直前の『Boys & Girls』と同じタッグである。時代の坂道を駆け上がったナンバーと同じ手から、このひんやりとした陰影を持つ名曲が生まれていたという事実が興味深い。なお、D・A・I自身がコンポーザーを担うDo As Infinityは、『A』のリリースからおよそ1か月半後となる1999年9月29日に、シングル『Tangerine Dream』でデビューを果たしている。

「大丈夫」は、誰かにかけてもらう言葉であると同時に、自分自身に言い聞かせる言葉でもある。自らの手で一度白黒に落とした夏は、その小さな頷きをきっかけに、きっとまた少しずつ色を取り戻していくのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・高輪田マチ)

の記事をもっとみる

注目コンテンツ