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突然“夕食のおかず”を残すようになった患者…看護師「食欲がないんですか?」と聞くも…発覚した“意外な真相”

  • 2026.11.2
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

病棟では、食事の量や食べ方が、患者さんの状態を知る手がかりになることがあります。いつもより食べる量が減った。食堂に来なくなった。食事を前にしても、なかなか箸が進まない。

そんな変化が見られると、気分の落ち込みや不安、薬の影響など、さまざまな可能性を考えます。

しかし、食事が進まない理由は、精神面だけとは限りません。

今回紹介するのは、うつ病で入院していた高齢女性Aさんとの出来事です。それまで食事をほぼ完食していたAさんが、数日続けて夕食を残すようになりました。

「食欲がないんですか?」と聞いても、返ってくるのは「別に」という短い返事。

体調不良を訴えることもなく、普段と大きく変わった様子はありませんでした。ところが、食べ残しをよく見ると、ある特徴があったのです。

「今日は食べません」急に夕食を残すようになったAさん

夕食後、食器を下げる時間になりました。私は、食事を終えた患者さんの様子を確認しながら、食べ残しにも目を向けていました。

そのとき、Aさんの食器が目に留まりました。

主食はある程度食べていますが、副菜はほとんど手をつけていません。

「Aさん、今日はあまり食べられなかったんですね」

声をかけると、Aさんは『そうですね』と答えました。

「食欲がありませんか?」

「別に」

「気分が悪いとか、お腹が痛いとかはないですか?」

「ないです」

Aさんは、特につらそうな様子もなく答えました。その日はたまたま食欲がなかったのかもしれない。私はそう考え、体調の変化がないか気に留めておくことにしました。

ところが翌日の夕食も、その次の日も、Aさんは同じように食事を残していました。

やはり、主食は食べています。一方で、副菜はほとんど残っています。

「Aさん、ここ数日、夕食を残すことが続いていますね」

「そうですか?」

「はい。何か食べにくいものがありますか?」

「…別に」

いつも通りの返事でした。ただ、数日続いていることが気になりました。

うつ病の患者さんでは、気分の落ち込みや意欲の低下に伴って食欲が落ちることがあります。薬の影響や身体の不調が関係している場合もあります。そのため、私は精神状態の変化にも注意しながら、食事の様子をもう少し確認することにしました。

食べていないのではなく、残し方が違っていた

その後も、Aさんの食事の様子を観察しました。

すると、あることに気づきました。Aさんは、食事をすべて残しているわけではありません。
ご飯や柔らかいものは食べていますが、硬さのある副菜には、ほとんど手をつけていなかったのです。

「Aさん、ちょっと聞いてもいいですか?」

翌日、食事のあとに声をかけました。

「はい」

「ご飯は食べられているようですが、おかずが残ることが多いですね」

Aさんは、少し考えてから答えました。

「…そうですね」

「おかずの味が苦手ですか?」

「そういうわけではないです」

「食べたくても食べられない感じがありますか?」

すると、Aさんは口元に手を当てました。

「実は…」

少し間を置いてから、ぽつりと話しました。

「歯が合わないんです」

「歯、ですか?」

「入れ歯が、最近ちょっと合わなくて」

私は、思わず聞き返しました。

「食べるときに痛みますか?」

「痛いというか、うまく噛めないんです。硬いものを食べると、ずれてしまう感じがして」

「それで、おかずを残していたんですね」

Aさんは、小さくうなずきました。

「ご飯は食べられるんです。でも、おかずは硬いものがあるでしょう」

それまで「食欲がないのかな」と考えていた私にとって、意外な話でした。

Aさんは、食べる気がなかったわけではありません。食べようとしても、うまく噛めない。そのため、食べられるものを選び、硬いものを残していたのです。

「こんなことで言うのも恥ずかしくて」

私は、もう少し詳しく話を聞きました。

「入れ歯が合わなくなったのは、最近ですか?」

「ここ何日かですね」

「食べるとき、ずれたり外れそうになったりするんですか?」

「そうなんです。気になって、ちゃんと噛めなくて」

Aさんは少し困ったように笑いました。

「でも、こんなことで言うのも恥ずかしくて」

「恥ずかしいことではないですよ。食べにくいのは困りますよね」

Aさんは、少し安心したような表情を見せました。

「食べられないわけじゃないから、わざわざ言わなくてもいいかなと思っていたんです」

その言葉を聞いて、私は、なぜこれまで「別に」としか答えなかったのかが分かった気がしました。Aさんにとって入れ歯の不具合は、自分で何とかすればよいことだったのかもしれません。

体調が悪いわけではない。食事をまったく食べられないわけでもない。だから、看護師に伝えるほどのことではないと思っていたのでしょう。

しかし、食べにくい状態が続けば、食事量が減り、栄養状態に影響する可能性もあります。

「教えてくださってありがとうございます。食べにくい状態が続くと困るので、入れ歯のことも含めて対応を考えましょう」

そう伝えると、Aさんは、「お願いします」とうなずきました。

食事の量だけでは分からなかったこと

私は、Aさんの食べ残しの様子と本人から聞いた話をスタッフ間で共有しました。

うつ病による食欲低下の可能性も引き続き観察しながら、入れ歯の状態について確認し、必要な対応につなげることにしました。食事の形態や硬さについても、食べやすさを確認しながら検討する必要があります。

ただ「食べていないから、食欲が落ちている」と考えるだけでは、今回の原因を見つけられなかったかもしれません。

Aさんは、主食を食べていました。

そのため、一見すると食事をある程度取れているようにも見えました。しかし何を食べ、何を残しているのかに目を向けると、別の問題が見えてきました。

食べ残しには、患者さんの身体の状態や、食事のしづらさが表れていることもあるのです。

「食欲がない」の一言で片づけない

精神科病棟では、患者さんの行動や生活の変化を、精神症状と結びつけて考える場面があります。うつ病の患者さんが食事を残せば、気分の落ち込みや意欲の低下が影響しているのではないかと考えるのは自然なことです。

もちろん、その可能性を見落としてはいけません。

一方で、身体の不調や生活上の困りごとが、食事の量に影響している場合もあります。

Aさんの場合、入れ歯が合わず、硬いものを噛みにくくなっていました。

しかし、本人はそのことを「わざわざ伝えるほどではない」と感じていました。

もし、食事量だけを見て「食欲が落ちている」と判断していたら、入れ歯の問題に気づくのは遅れていたかもしれません。

大切なのは食べた量だけでなく、どのように食べているのか、何を残しているのか、普段と何が違うのかを確認することです。

いつもと違う食べ方に、理由が隠れていた

Aさんは、食事を残す理由を自分から積極的に話していたわけではありません。

「別に」と答え、食べにくさを抱えたまま過ごしていました。けれど、食事の残し方に目を向け、少しずつ話を聞いていくと、入れ歯の不具合という身体的な問題が分かりました。

患者さんが口にする言葉だけでは、困りごとがすべて分かるとは限りません。

「食べたくない」のか。

「食べたいけれど、食べられない」のか。

その違いによって、必要な支援は変わってきます。あの日、Aさんが残していたのは、単なる食事ではありませんでした。

うまく噛めないという困りごとを、誰にも伝えられずにいたのです。

いつもと違う食べ方に気づくこと。本人が「これくらいなら言わなくてもいい」と思っている困りごとにも、耳を傾けること。その積み重ねが、患者さんの身体と心の両方を支える看護につながるのだと感じた出来事でした。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として、高齢者から小児までの医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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