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入院患者「薬変わりました?」処方は同じなのに手を止め…患者だけが覚えた“違和感”に看護師「ハッとした」

  • 2026.10.25
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

病棟では、毎日の服薬が日課になっている患者さんも少なくありません。いつもの時間に薬を受け取り、飲み終えたら食事や身支度に戻る。そんな何気ない光景も、看護師にとっては日常の一部です。

けれど、毎日繰り返していることだからこそ、小さな変化を見落としてしまうこともあります。

今回紹介するのは、入院していた中年女性Aさんとの出来事です。

夕食後の服薬時、いつもなら迷わず薬を飲むAさんが、その日に限って錠剤を見つめ、手を止めました。

最初は、気分が乗らないのかなと思いました。しかし、Aさんが口にした一言で、私は薬を渡すときの説明について考えさせられたのです。

いつも通りの服薬。でも、Aさんの手が止まった

夕食後、病棟では服薬の時間を迎えていました。私は薬を準備し、患者さん一人ひとりに声をかけながら配薬していました。

「Aさん、お薬ですよ」

「はい」

Aさんはいつものように返事をしました。

ところが、薬を差し出した瞬間、Aさんの手が止まりました。錠剤を見たまま、受け取ろうとしません。

「どうしました?」

声をかけると、Aさんは一度こちらを見て、

「別に」

そう言いながらも、Aさんは薬から視線を外しませんでした。

普段のAさんは、服薬時に大きな抵抗を示すことはありません。薬を受け取ると、水と一緒に飲む。いつもそんな様子でした。それだけに、その日の反応は少し気になりました。

「何か気になることがありますか?」

もう一度尋ねると、Aさんは薬を指さしました。

「今日、薬変わりました?」

私は錠剤を確認しました。

処方内容に変更はありません。薬の種類も、指示されている用量も、いつもと同じです。

「処方はいつもと同じですよ」

そう伝えると、Aさんは困ったような表情を浮かべました。

「でも、いつもと違う気がするんです」

「同じ薬ですよ」だけでは納得できなかった

私は、処方内容が変わっていないことを改めて説明しました。

「薬の種類も量も、いつもと同じです。心配しなくて大丈夫ですよ」

Aさんは小さくうなずきました。

しかし、すぐには薬を受け取ろうとしません。

「…本当に同じですか?前は、こんな色じゃなかったと思うんです」

そう言われて、私はもう一度錠剤を見ました。確かに、Aさんがこれまで見慣れていたものと比べると、見た目が違っていました。

ただ、その時点では、私もすぐに理由を説明できませんでした。

「確認してきますね。少し待っていてください」

私は薬の情報を確認し、必要な内容を薬剤師にも問い合わせました。

すると、薬そのものが変更されたわけではなく、メーカーの変更によって錠剤の見た目が変わっていたことが分かりました。

薬の成分や処方内容が同じでも、製造するメーカーが変わると、錠剤の色や形、包装などが異なる場合があります。

今回も、そのような変更があったのです。

私はAさんのところへ戻りました。

「Aさん、確認できました。薬の種類や量が変わったわけではなくて、メーカーが変わったことで、見た目が違っているようです」

「メーカー?」

「はい。同じ薬でも、作っている会社が変わると、色や形が変わることがあるんです」

Aさんは、もう一度薬を見ました。

「そうなんですね…」

その表情には、まだ少し戸惑いが残っていました。

毎日飲んでいるからこそ、違いに気づいた

私はAさんに、ほかに気になっていることがないか尋ねました。

「見た目が違うと、何か別の薬なんじゃないかと思いますよね」

Aさんはうなずきました。

「前と違うから、間違っているのかと思って」

「そうだったんですね」

「毎日飲んでいるから、いつもの薬は分かるんです」

その言葉を聞いて、私はハッとしました。看護師の私にとって、薬は処方内容や薬剤情報を確認して判断するものです。一方、Aさんにとっては、毎日手に取り、飲み続けてきた薬そのものが見慣れた存在でした。

色や形が変われば、「いつもと違う」と感じるのは自然なことです。

しかも、薬は自分の体に入れるものです。

もし見慣れない薬を渡されたら、誰だって「本当にいつもの薬なのだろうか」と気になるかもしれません。私は、Aさんが感じた違和感を、単なる思い込みとして片づけなくてよかったと思いました。

「気づいて教えてくださってありがとうございます。心配なときは、こうして聞いてもらって大丈夫ですよ」

そう伝えると、Aさんは少し表情を和らげました。

「じゃあ、飲んでもいいんですね?」

私は、薬の種類や量に変更がないこと、見た目が変わった理由を改めて伝えました。

Aさんは説明を聞いたあと、薬を受け取り、水と一緒に服用しました。

「いつものこと」に潜んでいた小さな変化

服薬が終わったあと、私は今回のことを振り返りました。

もし、Aさんが手を引っ込めたときに「処方は合っていますから、飲んでくださいね」とだけ伝えていたら、どうなっていたでしょうか。

Aさんは納得できないまま薬を飲んでいたかもしれません。あるいは、次の服薬でも同じ不安を抱えていたかもしれません。もちろん、薬を渡す際には処方内容や本人確認など、安全のために必要な確認があります。

しかし、それだけで十分とは限りません。

正しく処方された薬であっても、患者さんがその変化をどう受け止めているかは、別の問題だからです。

今回のAさんは、薬が変わったことを疑っていたというより、見慣れない錠剤を前に「いつもの薬ではないのでは」と不安になっていました。

そして、その違和感を言葉にするまでには、少し時間がかかっていました。

「別に」と答えながら、薬をじっと見つめていたAさん。

その様子を見て、もう一度声をかけたことで、ようやく理由を聞くことができました。

「飲んでください」の前に、立ち止まってみる

病棟では、決まった時間に多くの患者さんの服薬を支援します。

忙しい時間帯には、いつも通りに進めることが優先になり、小さな変化を見過ごしそうになることもあります。それでも、普段は迷わず薬を飲む人が急に手を止めたとき。

いつもと違う反応が見られたとき。

そこには、本人なりの理由があるかもしれません。

薬の見た目が変わったことに気づくのは、看護師だけではありません。毎日服用している患者さんだからこそ、わずかな違いに気づくこともあります。

「同じ薬だから大丈夫」と説明するだけではなく、何が違うと感じたのか、何が心配なのかを聞いてみる。その小さなやり取りが、患者さんの安心につながることがあります。

あの日、Aさんが薬を見つめていた時間は、ほんのわずかでした。

しかし、いつもの服薬風景にあった小さな違和感を見過ごさなかったことで、Aさんの不安を知ることができました。

毎日繰り返す看護の中にも、患者さんからのサインは隠れています。

そのサインに気づき、理由を確かめること。

それも、安全に薬を飲んでもらうために大切な看護の一つなのだと感じた出来事でした。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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