1. トップ
  2. “崩す”ことで生まれる、「ジル サンダー」の新たなミニマリズム【2027春夏コレクション】

“崩す”ことで生まれる、「ジル サンダー」の新たなミニマリズム【2027春夏コレクション】

  • 2026.9.30
Aflo

新たなクリエイティブ・ディレクターにとって、3シーズン目は一つの試金石だ。最初の2シーズンが、新鮮さとともに自身の美学を示す名刺代わりだとすれば、その次には、受け継いだブランドをどこへ導くのかが問われる。その意味で、今季3シーズン目を迎えたシモーネ・ベロッティの「ジル サンダー」は明快だった。創業者ジル・サンダーが築いたストイックなミニマリズムを起点に、精密さや抑制というブランドのコードを現代の感覚で捉え直した。それも、人間的な温度を伴って。

Courtesy of Jil Sander

出発点は、「ジル サンダー」の根幹にある“ユニフォーム”。ジャケット、コート、トラウザーズ、ペンシルスカートといった規律を象徴するワードローブを意図的に崩すことで、ベロッティは“脆さ”を持ち込んだ。

Countasy of Jil Sander
Countasy of Jil Sander

細身のジャケットはボタン位置を高くし、コートやジャケットのウエストには意図的な引きつれをつくる。シャツの襟はラペルから飛び出し、オーバーサイズのシャツは肩からずり落ちる。ニットはくしゃりと形を変え、ドレスにはシワが刻まれている。こうした操作は大胆に見えて、実に緻密だ。偶然に見えるズレさえ周到に設計し、見慣れたコードを更新した。

Countasy of Jil Sander
Courtesy of Jil Sander

過去2シーズンの身体に沿うタイトなラインから発展し、今季は布を身体から解放するようなボリュームも目を引いた。ベロッティ自身がコレクションを「波」のように構成したと語る通り、序盤の端正なルックから徐々にフォルムを緩め、中盤ではギャザーを寄せたジャケットや大きく膨らむドレスへと振幅を広げ、最後には再び抑制されたテーラリングへと戻っていく。とりわけ、シーツを巻きつけたようなイエローのドレスが象徴的だった。

Countasy of Jil Sander

色彩にも一貫した意図がある。ニュートラルなパレットにスカイブルーのような意外な色調を差し込み、日本の古い風景を用いたプリントは具象から抽象へと変化した。奇妙な色合いのタイツはトーン・オン・トーンのスタイリングにわずかなノイズを加え、足元にはアシンメトリーなパンプスや大胆なカッティングのシューズ、モカシンとスニーカーを掛け合わせたようなフラットシューズが並ぶ。

Countasy of Jil Sander

幾何学的なバッグはフォルムをゆがませ、開けば鮮やかなライニングがのぞく。服から小物まで、完成された均衡をほんの少し外すことで、どこか心に触れるような親密さを生み出している。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

創業者のミニマリズムには、ストイックに研ぎ澄まされたがゆえの冷たさが魅力だったとすれば、ベロッティのミニマリズムから伝わってくるのは、より人間的な温かさだ。あらゆるイメージや情報が滑らかに補正され、最適化されていく時代に、私たちはむしろ不完全さに安心感を覚えるのかもしれない。満開の花の完璧さだけでなく、色あせ、朽ち、形を崩していく姿にこそ美しさがあるように。

Countasy of Jil Sander

「コレクションをつくることは、セラピーに通うようなものです。自分が何を残したいのかを理解するために、いったん物事を解体する。そして、もう一度それらを組み立て直すのです」とコメントを寄せたベロッティ。彼にとって服づくりがセラピーなら、そこから生まれた服もまた、完璧であろうとする緊張を少し解いてくれる。着る人にささやかな安らぎを与える「ジル サンダー」は、私たちにとってそんなセラピーのようなワードローブになりそうだ。

Countasy of Jil Sander
Hearst Owned
Hearst Owned
元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ