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ヘリテージを未来の語彙へ。2027春夏NYファッションウィークを現地リポート

  • 2026.9.30
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現地時間2026年9月10日(木)〜15日(火)に開催された、2027春夏ニューヨーク・ファッションウィーク。今季、多くのデザイナーが目を向けたのは、自らが受け継いできたアーカイブや、すでに見慣れたスタイルだった。過去の名作をそのまま再現するのではなく、プロポーションを変え、異なる素材を重ね、着こなしを崩す。ヘリテージは、次の服を生み出すための“語彙”になっていた。

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「コーチ」の記憶、「トリー バーチ」のフェミニニティ、「トミー ヒルフィガー」のプレップ、「カルバン・クライン」のミニマリズム、「ケイト」のロマンチシズム、そして「リー」が捉え直した1960年代。ここでは、今季話題をさらった6ブランドが、それぞれの美学をいかに現在の装いへと更新したのかをひもとく。

コーチ(Coach)

「コーチ」は、ブランド創設85周年を記念したコレクションをニューヨークのダウンタウンで発表。到着したゲストにはマティーニが振る舞われ、会場は開演前からアニバーサリーを祝う高揚感に包まれていた。

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節目となる今季、クリエイティブ・ディレクターのスチュアート・ヴィヴァースが光を当てたのは、“記憶”と、長く親しんできたものが時とともに変化していく過程だ。「過去を振り返るコレクションにはしたくありませんでした」という言葉どおり、ヘリテージを懐古的に引用するのではなく、「コーチ」らしい遊び心を加え、今のワードローブへと更新した。

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コレクションを貫いたのは、縦長のシルエット。ヴィンテージライクなレザーやニットなど、異なるテクスチャーを織り交ぜたエフォートレスなルックがニュートラルカラーを中心に展開され、終盤にはメタリックカラーで構築した装いも登場した。デイウエアから刺激的なナイトシーンへとシームレスにつながる展開には、ルールに縛られず装いを楽しむニューヨーカーの自由な感性が表れていた。

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テクニカルな試みとユーモアが際立ったのは、ブレザーやトレンチコート。裏地や内部構造をあえて表に見せるインサイドアウトの意匠によって、クラシックなアイテムにモダンなニュアンスを加えた。素肌に直接まとい、ロングネックレスを重ねた気負いのないスタイリングも印象的だ。ヴィヴァースのクリエーションを象徴するバイアスカットのスカートやドレスは、ライニング素材をはじめ、オーバーダイ加工を施したジョーゼット、デニム、ラメ、スパンコールなど、多彩な素材で展開。スニーカーやウエスタンブーツを合わせ、歩くたびに生まれる流麗な動きを、ストリートにそのまま持ち込めそうな着こなしへと落とし込んだ。

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バッグにもプレイフルなディテールが光る。“ブルックリン”は、中身を外側にあしらったようなデザインで登場。1970年代のアーカイブに着想した“ターンロック トート”は、メタリックフォイルやコンフェッティで飾られ、誇張されたオーバーサイズのフォルムが装いに軽やかな洗練を添えた。

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ヴィヴァースがクリエイティブ・ディレクターに就任して13年。誰もが知るヘリテージに、彼は新たな表情を与え続けてきた。85周年という節目を迎えても、その視線は過去ではなく未来へ。変化を肯定するオプティミズムが、今季のコレクションにも鮮やかに表れていた。

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トミー ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)

「トミー ヒルフィガー」は、「PLAZA PREP」と題した2027春夏コレクションを発表。会場に選んだのは、ヒルフィガー自身がかつて家族と暮らした、ニューヨークを象徴するザ・プラザ・ホテルだ。「ザ・プラザ・ホテルは私たちにとって最高のプレイグラウンドです」とヒルフィガーは語る。

Tommy Hilfiger

「40年にわたり、私はニューヨーカーたちのスタイルにインスピレーションを受けてきました。彼らはクラシックなスタイルを自分らしく自由に取り入れ、新たな魅力へと昇華させています」。プレップの魅力は、ルールを守ることではなく、どう自分らしく着崩すかにある。今季はアップタウンの伝統とダウンタウンの自由な感性を交差させ、アメリカンプレップに新たな表情を与えた。

Tommy Hilfiger
Tommy Hilfiger

カラーパレットは、ブランドを象徴するレッド、ホワイト、ブルーが中心。鮮やかなイエローやグリーンを差し込み、端正なプレップに軽やかさを加えた。カラーブロックのラグビードレスやイサカストライプのオックスフォードシャツ、タータンチェックのブレザー、アイビージャケットなど、見慣れたヘリテージピースはプロポーションや色彩を変えて登場。ポロシャツもコンパクトなシルエットからオーバーサイズまで幅広く展開し、クレスト刺しゅうや襟を立てたスタイリングでプレッピーらしさを強調した。

Tommy Hilfiger
Tommy Hilfiger

アイコニックなトミーフラッグは、上質なスエードやシルクカシミヤ、ボリュームのあるトートバッグに展開。フェード加工やウォッシュ加工を施し、使い込んだような風合いに仕上げた。

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足もとには、1990年代に着想したツートーンのスケートスニーカーをはじめ、ボートシューズやペニーローファー、レザーのスライドサンダルが登場。アイビーを象徴する端正なローファーとストリート由来のスニーカーを並べ、アップタウンとダウンタウンの境界を曖昧にした。

Tommy Hilfiger

歴史あるザ・プラザ・ホテルを舞台にしながら、「PLAZA PREP」はノスタルジーにとどまらなかった。格式とストリート、ノスタルジーと新鮮さの間を自由に行き来し、トミー・ヒルフィガーが築いてきた“Classic American Cool”を現代のニューヨークへと更新したコレクションだった。

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カルバン・クライン(Calvin Klein)

そぎ落とすほど、身体と欲望の輪郭は鮮明になる。「カルバン・クライン」の2027春夏コレクションで、クリエイティブ・ディレクターのヴェロニカ・レオーニが向き合ったのは、ブランドの根幹を成すアメリカン・ミニマリズムだ。会場には、1891年に建設されたターミナル・ウェアハウスを選び、レンガ造りの産業建築にウォルター・デ・マリアによる3点のフロア・スカルプチャーを配置。建築と彫刻がつくる研ぎ澄まされた空間が、コレクションの世界観と呼応していた。

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「アメリカン・ミニマリズムとは、そぎ落とすことの規律でした」とレオーニ。「デザインと身体の関係、その間には何も存在しないというところから。すべてを取り除く。残るのは、欲望です」。不要なものを取り除き、必要なものだけを残すブランドの思想を、今季は服の内側にいる女性へと向け、抑制のなかにセンシュアリティを浮かび上がらせた。

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コレクションの基盤となったのは、コートやシャツ、テーラリング、トラウザー、ペンシルスカート、スリップドレスといった、ブランドを象徴するワードローブ。シルエットをより長く、細く引き伸ばし、ときにウエストを強調することで、簡潔なアイテムに緊張感をもたらした。コットンや軽量ウールのテーラリングは、シャープでありながら軽やか。3つボタンのコットンスーツにはTシャツのような着心地を与え、ワイドショルダーのジャケットはレイヤードを意識した構造に仕上げた。

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スリップドレスやTシャツドレスは、バイアスカットによるフルレングスのイブニングドレスへと変化。エクストラファインシルクニットのTシャツや、シルクキャディを用いたカラーブロックのベースボールシャツには、アメリカンスポーツウエアの要素を取り入れた。デニムやレザー、レーザーカットのスエードにアンダーウエアをのぞかせるディテールを重ね、端正なたたずまいに親密な緊張を生み出した。

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カラーパレットは、さまざまなニュアンスのホワイトとブラックが中心。スカーレットや鮮やかなイエロー、ロイヤルブルー、チェリー、淡いシトロンが、研ぎ澄まされたシルエットを際立たせた。ジョージア・オキーフのワードローブに着想したチェック柄が、モノトーンを基調とするルックにさりげない変化を添えた。

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アクセサリーには、機能性を端正なデザインへと昇華する視点が貫かれている。メタル製のヘッドバンドは髪を後ろへまとめ、スカーフは身体に沿って流れるドレープを描く。バッグは従来よりも大きなプロポーションへと拡張され、シャープで構築的なフォルムと、柔らかくリラックスしたシルエットで展開。新作のトライアングルバッグは、折り紙を思わせる構造が特徴だ。

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レオーニが提示したミニマリズムは、女性の身体を均質なシルエットに閉じ込めるためのものではない。余分なものを取り除き、服と身体を限りなく近づけることで、その内側にある存在や欲望を際立たせる。2027春夏コレクションが示したのは、抑制の先に官能を見いだす、「カルバン・クライン」の新たな現在形だった。

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トリー バーチ(Tory Burch)

「トリー バーチ」は今季、アメリカンワードローブに根づく実用性を軸に、華やかなフェミニニティを提案した。「女性が求めるのは、美しさや実用性、そしてユーモア――装うことの喜びです」と語るトリー・バーチ。アスレチックなアイテムや端正なテーラリングに、鮮やかな色彩と装飾を重ね、着る人が自分らしく組み合わせられる余白を残した。

Tory Burch
Tory Burch

会場となったのは、イサム・ノグチの「サンクン・ガーデン」。幾何学的な石造りの空間に、コーラルやターコイズ、バイオレット、ミント、バーミリオン、バターイエローが鮮やかな軌跡を描き、深みのあるブラウンやクールなニュートラルカラーが大胆な配色を引き締めた。

Tory Burch
Tory Burch

ベースとなったのは、アスレチックニットや腰履きのスカート、ドローストリングパンツ、パッチポケットシャツといった実用的なアイテム。オペラコートは着慣れたトレンチコートのようにラフに羽織り、シャープなテーラリングもあえて少し崩した。メンズウエアのウールにはシルクを合わせ、ペーパーコットンにはタイダイやウォッシュ加工を施す。壁紙を思わせるジャカードやシェニール織のパイル地、流れるようにドレープするクレープ・ド・シーンなど、質感の異なる素材がシンプルなシルエットに奥行きを加えた。

Tory Burch

メタリックな刺しゅうや、フリルカラーをあしらったフロッキー加工のカーディガン、織りで表現したポルカドットが、今季の華やぎを印象づけた。なかでも目を引いたのは、手仕事で仕上げたフェザー。肩を飾るスカーフやバッグに取り入れ、機能的な服に思いがけない華やかさとユーモアを加えていた。

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アクセサリーにも、身近なものの価値を転換するバーチらしい視点が息づく。“リー ラジヴィル”の新作ショッパーは、素朴な紙袋から着想したフォルムに極細のストラップを配置。インドの職人コミュニティ「Marasim」と制作したバスケットトートは、鮮やかな色とパターンで仕上げた。

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華やかさと実用性、クラフトとスポーツ、優雅さとユーモア。トリー・バーチは、それらをひとつの様式に収めるのではなく、異なるまま共存させた。完璧な調和を目指すより、選ぶ人の感性によって生まれる意外な関係性を楽しむ。2027春夏コレクションが提示したのは、服によって自分を完成させるのではなく、装うたびに新しい自分を発見していく喜びだった。

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ケイト(Khaite)

ロマンスとは、必ずしも甘美なものではない。「ケイト」の2027春夏コレクションで、キャサリン・ホルスタインが描いたのは、繊細さと力強さ、親密さと抑制がせめぎ合うロマンチシズム。透けるランジェリーの儚さを重厚なレザーが引き締め、柔らかなドレープに誇張されたシルエットを重ねることで、どこか不穏な官能性を引き出した。

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着想源となったのは、ホルスタインが夫でセットデザイナーのグリフィン・フレイゼンと滞在したヴェネツィア。曲がり角の先に現れる思いがけない風景、刻々と移ろう光、時間をかけて積み重なった色や質感。そうした街の記憶を具体的なモチーフとして引用するのではなく、服を構築するための視点へと置き換えた。近づくほど新たな層が現れ、視点を変えるたび印象が揺らぐ。

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ブラス、クリーム、セラドンを基調とするパレットのなかで、まず目を引いたのは大胆なボリュームだ。身体を包む彫刻的なフォルムに、ランジェリー由来のディテールや透ける素材を重ね、肌をのぞかせながら、同時に覆い隠す。センシュアルでありながら露骨ではなく、力強さを備えながらも身体の動きを妨げない。その曖昧なバランスが、ルックに緊張感をもたらした。

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大胆なプロポーションを支えているのは、刺しゅうやプリーツ、ピコットエッジといった緻密な手仕事だ。細部へ視線を移すと、布の落ち方や揺れ、身体の輪郭まで計算されていることがわかる。シルクとレザー、透け感と構築性、繊細なクラフトとプリミティブな造形を同じルックに共存させ、それぞれの個性を際立たせた。相反する要素をひとつの調和へ収めないからこそ、服には一見しただけでは捉えきれない奥行きが生まれている。

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プロポーションの探求は、アクセサリーにも広がった。“ブレイク”バッグはサイズやシルエットに新たなバリエーションを加え、“ロータス”には今季を象徴する刺しゅうをあしらっている。見慣れたデザインの比率や表情を変えることで、コレクションを貫くボリュームと繊細さの対話を引き継いだ。

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ヴェネツィアが、光や時間、見る者の位置によって絶えず表情を変えるように、今季の服もひとつの印象にはとどまらない。儚く見えたものが力強さを帯び、重厚な素材が動きのなかで軽やかに揺れる。「ケイト」が描いたロマンスとは、矛盾を解消した先にある調和ではなく、相反する感情が同時に存在する、その不完全な美しさだった。

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リー(Lii)

2026年「LVMHプライズ」でカール・ラガーフェルド賞を受賞し、ニューヨークの次世代を担う存在として注目を集めるゼイン・リー。彼が手掛ける「リー」の2027春夏コレクションは、1960年代を象徴する色やシルエットを手掛かりに、経験したことのない時代に抱く郷愁を探った。過去のスタイルをそのまま再現するのではなく、スポーツウエアの機能性と独自の構築によって、当時のロマンチシズムを現在の身体へと引き寄せた。

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ランウェイに並んだのは、見慣れた日常着の構造をわずかにずらした服。Tシャツは幾重にも重ねて切り開き、覆う部分と肌を見せる部分を組み替えた。カクテルドレスに配した四角いパネルは布を身体から浮かせ、カラーブロックのスカートには幾何学的な輪郭を与えている。リンガーTシャツにタンクトップを重ねたトップスや、立体的なラップスカートにも、ベーシックなアイテムの均衡を崩すリーの感覚が表れていた。

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ミニドレスや鮮やかな色彩には、1960年代のユースカルチャーの気配が漂う。ビニールや弾力のある素材、絵画的な配色を取り入れ、当時のムードを現代的な質感へと変換した。ツートーンのスパゲッティストラップドレスも、その時代を思わせるシルエットを残しながら、動きやすいつくりと意外なプロポーションによって、懐古的な印象から距離を置いている。

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実用的なディテールも、スタイリングを変える装置として機能した。アノラックから切り離したフードは、キャミソールやドレスに大きな襟のように取り付けられ、「ナイキ」とのコラボレーションによる片脚のタイツは、左右非対称のラインを生み出す。スポーツウエアの要素を装飾へと読み替えながら、その軽さや動きやすさは失わない。この現実的な感覚が、実験的なシルエットを日常のワードローブへとつなぎ止めている。

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自らが経験していない時代に想像を巡らせ、そこからまだ見ぬ形を引き出したリー。1960年代への郷愁を過去に閉じ込めず、次の時代を描く力へと変える。その視線にこそ、「リー」の新しさが宿っていた。

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