1. トップ
  2. エピソード
  3. 「うるさかったら遠慮なく言ってくださいね」上に越してきた家族。エレベーターで伝えた一言

「うるさかったら遠慮なく言ってくださいね」上に越してきた家族。エレベーターで伝えた一言

  • 2026.9.30

引っ越しの挨拶で言われた言葉

数年前の春、僕たち夫婦が暮らすマンションの真上の部屋に、小さな子どものいる家族が越してきた。

日曜の昼、インターホンが鳴ってドアを開けると、菓子折りを手にした奥さんが立っていた。

「上に越してきました。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

奥さんは少し申し訳なさそうに笑い、走り回る年ごろの子どもがいるので、下の階に音が響くかもしれないと話した。

「もしうるさかったら、遠慮なく言ってくださいね」

帰り際にも、奥さんは同じ言葉をもう一度口にした。

ずいぶん気をつかってくれる人だな、と思ったのを覚えている。

ところが、ひと月もしないうちに、夜になると天井からドタドタと足音が響くようになった。

夜9時を過ぎても続く日があり、数えてみると週に3回ほどだった。

「言ってくださいって、向こうから言ってくれたんでしょ?」

妻にそう言われても、僕はすぐには動けなかった。

「そうなんだけどな。いきなり直接言いに行くのも、ちょっと気が引けるんだよ」

子どもが元気に動くこと自体を責めたいわけではない。

それに、同じマンションで暮らしている以上、顔を合わせるたびに気まずくなるのも避けたかった。

エレベーターでようやく伝えた

そこで僕は、まず管理会社に相談した。

担当者は事情を聞くと、生活音への配慮をお願いするお知らせを、全戸のポストに入れると言ってくれた。

数日後、うちのポストにも同じ紙が入った。

それから足音は少し静かになったものの、夜9時過ぎになると、やはり週に何度か響いてきた。

そんなある朝、出勤しようとエレベーターに乗ると、上の階の奥さんと一緒になった。

扉が閉まったあと、僕は少し迷ってから声をかけた。

「あの、前に『うるさかったら言ってください』って言ってくださったので…。夜9時を過ぎると、足音が響く日があるんです」

奥さんは一瞬黙ったあと、小さく頭を下げた。

「そうだったんですね……。すみません。教えてくださってありがとうございます。気をつけます」

責めるような返事が返ってくるのではと少し身構えていた僕は、その言葉にほっとした。

その晩から、不思議なくらい夜の足音は気にならなくなった。

夕食のとき、僕は妻にエレベーターでの出来事を話した。

「ちゃんと伝えられたんだ」

「うん。引っ越しのときに向こうから言ってくれてたから、話しやすかったよ」

妻は「それならよかったね」と言って、天井を見上げた。

相手を責めるつもりはなくても、生活音のことはなかなか直接言いづらい。それでも、最初にかけてもらった「遠慮なく言ってください」という言葉のおかげで、僕も落ち着いて伝えることができた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ