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「私は忙しいんだ!」赤信号で追突された30代男性、“手間を取られた分”の賠償を求めた結末

  • 2026.10.10
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「私は忙しいんだ!」

電話口で、相手方のBさん(30代・男性)は何度もそう口にしました。

赤信号で停止中に、後ろから追突された過失のない事故。警察や修理工場とのやり取りに追われ、仕事の予定も崩れてしまった。手間をかけさせられた分まで払ってもらいたいと考える人もいるでしょう。

今回は、損害保険会社で事故対応を担当していた私が、加害者側の担当として対応した追突事故のお話です。

信号待ちの車への追突

赤信号で停止していたBさんの車に、契約者のAさん(60代・女性)が後ろから追突しました。過失割合は100:0(Aさん:Bさん)となり、Bさんに過失はありません。

Bさんにケガはありませんでした。車はリアバンパーの取り替えなどが必要で、修理費の概算は10万円。私はAさんの対物賠償責任保険で、Bさんへの賠償を進めることになりました。

修理工場との調整と代車の手配が済めば、解決に向かう。その予定でした。ところが、Bさんとの最初の電話から、話は修理とは別の方向へ進んでいったのです。

事故対応に追われたBさん

Bさんは、電話のたびに自身の忙しさを訴えました。

「事故のせいで社内の打ち合わせに間に合わなかったんですよ」

Bさんは事故の後に警察、修理工場に連絡し、自分の保険会社にも事故の報告をしています。打ち合わせに間に合わなかったことで具体的な損害が出たわけではありませんが、Bさんは事故対応に時間を取られたことへの不満を繰り返していました。そして、こう続けます。

「被害者なんだから、迷惑料くらい出るんでしょ?」

「迷惑料」という項目

私はBさんに、事故の賠償に「迷惑料」という項目はないことを説明しました。

「こっちは手間を取られてるのに、それは何も出ないのか」

Bさんからは、何度もそう聞かれました。

たしかに、事故に遭えば修理工場とのやり取りや車の持ち込みなど、本来なら必要のなかった手間が生じます。しかし、こうした事故対応にかかった時間や手間は、原則として賠償の対象になりません。修理費や代車費用など、事故によって生じた損害を項目ごとに算定していくのが基本です。

では、手間を取られたことによる精神的な苦痛を「慰謝料」として請求できるのでしょうか。

ケガのない物損事故では、慰謝料も原則として認められていません。一般には修理費などの財産的な損害が賠償されれば、精神的な苦痛も和らぐと考えられているためです。

物損事故でも慰謝料が認められた例はありますが、自宅に車が突っ込み、それまでどおりの生活を送れなくなったケースなど、例外的なものです。今回のような車の修理で済む事故とは事情が異なります。

それでもBさんは「納得できない。弁護士特約を使う」と言って電話を切りました。

Bさんからすれば、私は加害者側の保険会社の担当者です。私が説明を重ねるより、Bさんが自分の保険会社や弁護士に一度相談したほうが話は進むと考え、Bさん側からの連絡を待つことにしました。

Bさんが相談した「自分の味方」

後日、Bさんから連絡がありました。

「弁護士や自分の保険会社にも相談しましたが、難しいということがわかりました」

Bさんは「忙しい毎日のなかで事故に遭い、気が立っていた」と付け加えます。

自分の保険会社や弁護士からも、私と同じ説明を受けたそうです。相談してはじめて、私とのやり取りを冷静に振り返ることができたといいます。

「自分なりに確かめたことで気持ちを整理できました」

落ち着いた声で、Bさんはそう締めくくりました。私は改めて、修理費と代車費用について賠償を進めることを伝え、Bさんも了承。解決に至りました。

弁護士費用特約は「見通しを確かめる」きっかけにもなる

弁護士費用特約は、相手との交渉を弁護士に任せるためだけのものではありません。多くの特約では法律相談の費用も補償されるため、「自分の請求は認められる可能性があるのか」を専門家に相談するためにも利用できます。

一般的に、弁護士費用特約のみを使用しても等級には影響しません。ただし、利用する際は事前に自分の保険会社へ連絡し、補償の対象になるかを確認しておきましょう。

もちろん、弁護士に相談したからといって、請求が認められるとは限りません。今回のBさんも、第三者に相談して見通しを確かめたうえで、「迷惑料」の請求を続けないという結論を出しました。

納得できないときに専門家の意見を聞き、自分で判断する。そのために弁護士費用特約を使うのも、ひとつの方法です。

取られた時間は戻ってこない

Bさんが「こっちは手間を取られてるのに」と何度も訴えたのは、その負担に納得できなかったからでした。実際、Bさんは被害者です。そう言いたくなる気持ちは、保険会社側の立場の私も理解しています。

自分に過失のない事故ほど「なぜ自分がここまでしなければならないのか」という割り切れなさが残ります。だからこそ、自分の保険会社や専門家など第三者の意見も聞きながら、どこまで請求できるのかを確かめ、自分が損をしない方法を考えることが大切なのです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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