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夫「失敗しました」200万円安い工務店に決めた30代夫婦…初めての確定申告で告げられた“思わぬひと言”【一級建築士は見た】

  • 2026.11.5
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「確定申告の相談で、税務署の方に『省エネ基準に適合する証明書がないと、住宅ローン控除は受けられません』と言われて。13年で260万円ほどの控除が、ゼロになったんです」

そう話すのは、昨年の夏、郊外の住宅地に地元の工務店で注文住宅(4LDK・延床約108㎡/土地約170㎡、約4,300万円)を建てたAさん(30代女性・保育士)です。結婚7年目の共働きで、夫と4歳の子どもとの3人暮らしです。

工務店は、夫の実家の近くで40年続く会社でした。社長が打ち合わせのたびに家まで来てくれ、間取りの相談にも親身で、見積もりは工務店のほうが200万円ほど安く、夫婦は人柄と価格で決めかけていました。並行して見積もりを取っていた大手ハウスメーカーの営業担当からは、「省エネ基準の証明書を出せない会社で建てるのは、おすすめしません。今年から、建築確認を受ける家は証明書がないと住宅ローン控除が受けられません」と止められました。

社長に聞くと、「うちは昔からの仕様で、冬も暖かいですよ。省エネの計算や証明書はやっていません」と正直な答えでした。帰り道、Aさんが「省エネの証明書って、要らないの?」と聞くと、夫は「あの社長なら大丈夫だよ。控除の話は営業トークでしょ」と答えます。

夫婦は一昨年の秋に工務店と契約し、建築確認は一昨年の冬、省エネ基準が義務になる前に下りました。昨年の夏に入居し、今年の2月に初めての確定申告に行ったのです。

2024年以降の新築は、省エネ基準が控除の条件

住宅ローン控除は、年末のローン残高の0.7%を所得税などから差し引く制度で、新築は原則13年間続きます。2024年1月以降に建築確認を受けて新築した家は、国の省エネ基準(断熱性能と、冷暖房や給湯に使うエネルギー量の基準)に適合することが条件になりました。適合しない家は、2024年7月以降に竣工した場合、控除の対象から外れます。

適合を示すには、建設住宅性能評価書か、住宅省エネルギー性能証明書が必要です。証明書は、建築士事務所に所属する建築士や、登録住宅性能評価機関などが発行します。2025年4月からは省エネ基準への適合がすべての新築住宅で義務になりましたが、控除を受けるには引き続き証明書が必要です。

基準を満たす仕様で建てても、計算と証明書がなければ控除は受けられません。逆に、仕様が基準に届いていなければ、あとから証明書を出すこともできないのです。省エネの計算や証明書の発行は、控除の条件になるまで、小さな工務店では頼まれなければ行わないことも珍しくありませんでした。

建物の工事請負契約には、土地の売買のような重要事項説明の仕組みがなく、税制についての説明義務も工務店にはありません。それでも、証明書を出せるかどうかは契約の前に工務店側が伝えるのが望ましいのですが、Aさんが依頼した社長は「やっていない」と伝えていました。

社長に悪意があったわけではなく、制度が変わった直後だったため、工務店の昔からのやり方と新たな控除の条件がかみ合っていなかったのです。夫婦は他社から明確な警告を受けていたものの、当時はその言葉の重さを実感できておらず、夫はただの営業トークだと決めつけてしまっていました。

13年で約260万円の控除が、ゼロに

Aさんの住宅ローン借入額は約3,500万円です。省エネ基準適合住宅であれば、子育て世帯への上乗せ措置により借入限度額が4,000万円となり、13年間で260万円ほどの控除が受けられる計算でした。工務店を通じて建築士に断熱性能の計算をしてもらったところ、壁の断熱材が薄く、窓もアルミサッシだったため、基準には届きませんでした。

夫は「人柄だけで決めて、失敗しました」とこぼしました。

昨年の冬は暖房をつけても足元が冷え、暖房費もかさみました。建築費が200万円安く済んだことよりも、失った控除額のほうが大きかったのです。誰かがだましたわけではなく、変わったばかりの制度、工務店のやり方、そして夫婦の認識のずれが、この結果を招きました。

控除は諦め、内窓で寒さを和らげる

控除は取り戻せません。夫婦はこの秋、約30万円かけて寝室と子ども部屋に内窓(既存の窓の内側にもう一枚設置する窓)を付け、寒さを和らげました。内窓の工事は国の補助の対象になることがあり、条件は年度によって異なります。

夫は「君から聞かれたのに、営業トークだと決めつけてごめん」と妻に謝り、内窓の費用を自分のボーナスから出しました。Aさんは、次の家の相談を受けた友人に「証明書を出せるか先に聞いて」と伝える役を買って出ています。

工務店選びは、人柄だけでなく「証明書」を出せるか確認を

地元の工務店は、社長の顔が見え、間取りの融通が利き、建てたあとも近くにいて相談しやすい相手です。長く続く会社には、地域で積み上げた信頼があります。

一方で、省エネの計算や証明書の手続きは、会社によって対応に差があります。対応していない会社に悪意があるわけではなく、制度が新しいからこそ差が出ます。だからこそ、人柄で決める前に、証明書を出せるかどうかを聞くことが欠かせません。

・2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅は、省エネ基準への適合が住宅ローン控除の要件。2025年4月から基準は義務になったが、控除を受けるには引き続き証明書が必要
・証明書は建設住宅性能評価書か住宅省エネルギー性能証明書のいずれかで、建築士事務所に所属する建築士や登録住宅性能評価機関が発行する。契約前に、発行可能かどうかと費用を確認する
・基準に満たない仕様の家は、事後的に証明書を発行できない。契約前に、断熱材と窓の仕様、省エネ計算の有無を確認する
・控除の借入限度額や要件は、入居年、住宅の性能、世帯構成によって異なる。確定申告のタイミングではなく、契約前に確認する

工務店の候補が決まったら、省エネ基準の証明書を発行できるかどうか、一度確認してみてください。

参考:
住宅ローン減税(国土交通省)
令和4~7年までの制度に関するQ&A(国土交通省)


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
行政で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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