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父の死後、実家を引き継いだ30代息子→遺品整理やリフォームを進めるが?2ヶ月後、父宛に届いた“1通の郵便”に「うそでしょ…」

  • 2026.10.14
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。アディーレ法律事務所の弁護士・正木です。

「借金を相続したくないのであれば相続放棄をすればいい」「相続放棄は3か月以内にしなければならない」そんな話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。確かに間違いではありませんが、実は、期限内でも相続放棄ができなくなってしまう落とし穴が存在しています。

今回は、亡き父への親孝行と思って一生懸命に行動した結果、300万円もの借金を背負うことになってしまったケースをご紹介します。

「父さん、家はちゃんと守っていくよ」

30代男性のAさん(仮名)は、幼い頃に両親が離婚し、父に育てられました。自身も1年前に離婚し、離婚後は、実家から車で30分ほどの場所で一人暮らしをしていました。大病を経験した父が心配で、普段からまめに連絡を取ったり、実家を訪ねたりしていました。

ところが、半年前、Aさんの父が突然亡くなりました。亡くなる前日もいつも通り電話で話し、「今度の休みに顔を出すよ」と言っていた矢先のことでした。

葬儀を終え、静まりかえった実家に入ったAさんが目にしたのは、玄関の父の靴。リビングにはいつも使っていた眼鏡と読みかけの新聞。

「もう父さんはいないんだ」

Aさんは胸が締め付けられる思いの一方、強く心に誓ったことがありました。
「父が苦労して残してくれたこの家だけは、自分が守っていきたい」

「団信があるから大丈夫」

Aさん自身、毎月の養育費や自動車ローンの支払いなどで生活はギリギリだったため、実家の住宅ローンがまだ残っていることでとても不安に駆られていました。そんなとき、Aさんは、生前の父の言葉を思い出しました。

「俺に何かあったら頼んだぞ。団信に入ってるから心配するな」

父の本棚にしまってあった書類を見てみると、父は住宅ローンを組む際に団体信用生命保険(団信)に加入していました。これは、ローンの借り手が死亡するまたは所定の高度障害になるなど、一定の場合に、保険金で住宅ローンの残債が完済される制度です。

「よかった、これなら住宅ローンは心配いらないな」

本棚には、他にも書類や郵便物が入っていましたが、Aさんは、
「まずは家の整理をしなきゃな。落ち着いたらまた見れば良いか」
と考えていました。

団信でほっと胸をなで下ろしたAさんは、父の財産を整理し始めました。父が乗っていた自動車を売却。実家は、父が残してくれた預金を使って、水回りを直すなどのリフォームをし、使わない家具や家電はリサイクルショップに売却。名義変更もして実家に住む準備を始めました。

「これで父さんの家をちゃんと引き継いでいけるはず」
Aさんは、少し肩の荷が下りたような気がしていました。

「うそでしょ…こんなに借金が?」

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

ところが、父の死亡から2か月後、父宛てに一通の郵便が届きました。封筒を開けてみると、そこには父が利用していたカードローンの返済案内が入っていました。驚いて通帳を確認すると、毎月10日前後に7万円の引き出しをしていることがわかりました。

「これ…もしかして、借金の返済?」

さらに父の部屋を探してみると、確認を後回しにしていた書類の中に、カードローンの利用明細や催告書が何通も入っていました。
消費者金融に問い合わせて確認すると、残っている借金は約300万円に上ることがわかり、Aさんは青ざめました。

「うそでしょ…こんなに借金があったなんて」

「今からでも、相続放棄できますか?」

Aさんは、急いで弁護士のもとへ相談に駆け込みました。
「借金なんて全く知りませんでした。相続放棄の期限って3か月ですよね?まだ3か月経っていないので、急いで相続放棄をしたいんです!」

相続放棄は、相続人が、亡くなった方の権利や義務を一切引き継がないようにするための手続きです。相続放棄には期限があり、自分のために相続開始があったことを知った時、つまり、亡くなったことと自分が相続することを知ってから3か月以内にしなければならないのが原則です。

しかし、Aさんの悲痛な訴えを聞いた弁護士の回答は、厳しいものでした。
「お気持ちはよくわかります。確かに3か月以内ではあるんですが、残念ながら、Aさんが相続放棄するには大きな問題があります」
「え…?なぜですか?まだ3か月過ぎていないのに…!」

相続開始から3か月以内であっても、相続人が、相続財産の全部または一部を処分した場合、法律上、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて、すべてを無条件で引き継ぐとみなされることがあります(法定単純承認)。その結果、「やっぱり借金があったから相続放棄したい」ということは、原則としてできなくなります。

「借金があることを知らなかったとしても、Aさんが自分で住むために家の名義変更をしたことは、典型的な法定単純承認にあたると考えられます。しかも、車を売却したり、預金を使ったり、家具を売却したりもしていますよね。信用情報機関への開示請求などの調査も十分にしないまま財産を動かしてしまっていますし、この状況で相続放棄するのは極めて難しいと思います」

Aさんは借金を知っていて財産を処分したわけではありません。実家を守りたい、その一心で父の財産を整理しただけでした。
「そんな……父の家を守りたかっただけなのに…」

後悔のない相続のために

Aさんは、この半年を振り返ってこう語りました。

「『父のために』とか『父の残した家を守りたい』という気持ちばかりが先走ってしまいました。事前に調べる手段があったのに、何も考えずに動いてしまった自分が情けないです。こんなことなら、最初から実家を諦めて相続放棄をすればよかった…今は後悔しかありません」

「3か月以内だから」「借金があるとは知らなかった」といって相続放棄できるとは限りません。預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて、まずは相続財産全体を確認する。相続財産調査が終わるまでは手をつけないようにする。相続放棄の可能性があるのなら、財産を処分する前に、できるだけ早く専門家へ相談することも大切です。

大切な家族を亡くした直後だからこそ、焦って手続きを進めず、まずは一度立ち止まること。それが後悔しない相続のための第一歩です。


※実際の事例を参考に構成したストーリーです。

執筆・監修:弁護士 正木 裕美(アディーレ法律事務所)
南山大学法学部、及び同大法科大学院卒。一児のシングルマザーとしての経験を活かし、不倫問題やDV、離婚などの男女問題に精通。テレビの情報番組などにもコメンテーターや法律解説者として多く出演し、悩みを抱えた方に寄り添いながら、難しい法律もわかりやすく的確に解説することに定評がある。愛知県弁護士会所属。

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