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子どもを連れて夫と別居→「婚姻費用があるから生活費は大丈夫」のはずが…10か月後、40代妻を直撃した“100万円”の大誤算

  • 2026.10.1
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。アディーレ法律事務所の弁護士・正木です。

離婚や別居を考えたとき、「これからの生活費はどうなるの?」と不安になる方は多いのではないでしょうか。別居中でも、離婚が成立するまでは「婚姻費用」を配偶者に請求できることがあります。

だからといって油断は禁物です。今回は、「婚姻費用の制度があるから大丈夫」と請求するのを後回しにした結果、もらえたはずの婚姻費用の一部を受け取れなくなってしまったケースを紹介します。

「もう一緒に暮らせない」

40代女性のAさん(仮名)は、15年前、勤務先の同僚だった夫と結婚しました。「家庭を大切にしたい」と考えたAさんは、出産を機に退職。2人の子どもに恵まれ、専業主婦として家事や育児をしてきました。

ところが、長男が小学校に上がった頃から、夫は家事や育児を一切しないどころか、「付き合いも仕事のうちだ」と連夜飲み歩くようになりました。

「家族の時間も大切にしてほしい」と訴えるAさんでしたが、夫は「育児や家事は専業主婦の仕事だろ」と聞く耳を持ちません。夫婦の会話は減り、口論も増えていきました。

決定打となったのは2年前のこと。Aさんと子どもが高熱で寝込んでいたところに、突然、酔っ払った夫が、職場の後輩を連れて帰宅したのです。

「こんな日にどうして……!」

怒るAさんに夫は言い放ちました。
「誰のおかげで生活できていると思ってるんだ!嫌なら出て行け!」

その言葉を聞いた瞬間、Aさんの中で何かがプツリと切れました。
「もう、この人とは暮らせない」
Aさんは、子どもを連れて家を出ることを決意しました。

「婚姻費用があるから大丈夫」

無収入のAさんにとって、最大の壁はこれからの生活費。手元にあるのは結婚前のわずかな預金だけです。
「アパートを借りなければいけないし、子どもの生活費もあるし…この先どうしたら…」

不安に押しつぶされそうになったAさんでしたが、離婚経験のある親友に相談すると、思いがけない言葉が返ってきました。
「ねえ、『婚姻費用』って知ってる?正式に離婚するまでは生活費をもらえる権利があるんだよ。私も別居中もらってたから大丈夫!」

別居中であっても、夫婦には、収入に応じて、夫婦や子どもの生活を維持するために必要な生活費、医療費、教育費などの費用(婚姻費用)を分担する義務があります。

「じゃあ、生活費は全部自分で用意しなくてもいいんだね。よかった」

親友の言葉に安心したAさんは、預金を取り崩し、子どもの学校や新居の準備を整え、2か月後、子どもを連れて家を出ました。
「まずは新生活を整えないと。婚姻費用の話は落ち着いてから夫に連絡しよう」と考えていたといいます。

「今、忙しいから」

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

別居から3か月ほど経ち、パートにも慣れてようやく生活が落ち着いてきたAさんは、夫に電話をしました。

「別居中の生活費のことで相談があって。調べてみたのだけど、私達の収入から計算すると月12万円くらいが妥当かなって。月末までに私の口座に振り込んでもらえないかしら」

「あー…今忙しいから、後でかけ直す」

そう言って一方的に電話を切られ、折り返しもありません。「その話はまた今度にしてくれ」とはぐらかされ続けるうちに、あっという間に半年が過ぎてしまいました。

その間にも家賃、光熱費、食費や子どもの教育費などは、どんどん出ていきます。底をつきかけた預金通帳を見て危機感を覚えたAは、「パート代や手当だけじゃ全然足りないし、このままじゃ生活できない」と、別居から10か月目に、家庭裁判所に婚姻費用を請求するための調停を申し立てることにしました。

「婚姻費用を請求されたことなんてない」

調停で、Aさんは調停委員に訴えました。

「別居したときからの婚姻費用を払って欲しいんです。夫には何度も電話で伝えているのに払ってくれなくて」

ところが、夫は、
「子どものことで連絡は来ますが、婚姻費用を請求されたことなんて一度もありません」
と話しているというのです。

唖然とするAさんに、調停委員が問いかけます。
「電話以外に、婚姻費用をいつ請求したかわかる郵便物、メール、LINEなどの記録は何かありますか?」

「いえ、電話だけです…」

夫との話し合いは平行線のまま調停は不成立になり、手続きは、裁判官が判断を下す審判に移行しました。そして下された判断は、
“「調停を申し立てた月」から月額12万円の婚姻費用の支払いを命じる”というものでした。

消えてしまった100万円以上の婚姻費用

「え?別居したときからもらえるわけではないの…?」

婚姻費用は、別居時からの分が自動的に支払われるものではありません。実務上では、基本的に「婚姻費用を請求した月」が始期とされます。そのため、調停や審判を申し立てた月、それ以前に内容証明郵便などで請求していた場合には、その請求月が始期となるのが一般的です。早く請求するだけでなく、「いつ請求したか」がわかる形で記録を残すことが大切です。

Aさんの場合、電話で請求したことを夫に否定され、それを裏付ける客観的な証拠は何もなかったため、裁判所は、別居後3か月時点で請求したというAさんの主張を認めず、結果として、別居から調停申立て前月までの9か月間の婚姻費用は、受け取ることができなかったのです。

「もっと早く、きちんと請求しておけばよかった」とAさんは後悔したのでした。

婚姻費用は、できる限り早めに

Aさんは、今回のことを振り返ってこう言います。
「請求時期のことなんて考えもしませんでした。今さらですが、問題を先延ばしせず、すぐに行動すればよかったと心から悔やんでいます」

Aさんの失敗は、「別居したら婚姻費用をもらえる」と安心して、請求を後回しにしてしまったこと。生活費の負担が積み重なってから慌てて手続きをしても、当然に遡って婚姻費用が認められるとは限りません。別居後の婚姻費用を請求するときは、権利があるからと安心せず、配達証明付き内容証明郵便など、「いつ請求したか」証拠が残る方法で別居後できるだけ早く請求することが大切です。


※実際の事例を参考に構成したストーリーです。

執筆・監修:弁護士 正木 裕美(アディーレ法律事務所)
南山大学法学部、及び同大法科大学院卒。一児のシングルマザーとしての経験を活かし、不倫問題やDV、離婚などの男女問題に精通。テレビの情報番組などにもコメンテーターや法律解説者として多く出演し、悩みを抱えた方に寄り添いながら、難しい法律もわかりやすく的確に解説することに定評がある。愛知県弁護士会所属。

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