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東直子さんが選ぶ「令和の短歌」|テーマは「空を見つめる」

  • 2026.9.27
inoc / Getty Images

日本では古くから、人々が日々の気持ちを短歌に託して表現してきました。ここでは、現代の感性で日常を切り取った「令和の短歌」を、歌人の東直子さんが選び、毎回さまざまなテーマに沿ってご紹介します。今回のテーマは「空を見つめる」です。

いちまいの遠い秋空たましいが羽織るショールを心と呼んで

笠木 拓『オランジェット』(2026年)

【東直子さんの講評】

遠くまで広がる澄んだ秋空を一枚の布に見立て、「たましい」にはショールを羽織らせる。秋空から布がふわりと降りてきて、たましいをやわらかく包むようなイメージが浮かぶ。

さらにそのショールを「心」と呼ぶのだ。頭の中に一枚のやわらかい布を浮かべつつ、たましいと心の違いを考えた。どうやら「たましい」は、寒さに弱くて守ってあげなくてはならない存在で、「心」の方は「たましい」を包みこむ存在のようだ。

「たましい」はその人のナイーブな根源的なもので、「心」はそれを守るものとして外界と対応する柔軟な力があるようである。なぜなら「遠い秋空」から生まれたショールだから。心がおおらかに広がる心地がする。

夕空がおもひだしつつある明日をとほく瞬きをらむこと座も

千葉優作『anchorage』(2026年)

【東直子さんの講評】

空を擬人化し、その内面に思いをめぐらせている。めずらしい捉え方だが、夕空の風景はどこかノスタルジックで「おもひだしつつある」という動詞とよく似合う。どうやらこの歌の世界の空は、一日が終われば「明日」が始まるということを一日ごとに忘れ、夕方になると思い出すというサイクルで回っているようだ。

「明日」がやってくるということの神秘性が新しく立ち上がる。日常の、当たり前の風景に、浪漫的な味わいが加わった。

さらにその明日に「とほく瞬きをらむ」というフレーズが美しく響く。そうして最後に、音楽を想起させる星座、「こと座」が誇らしく光り始めるのである。空に広がる物語が、ほのかな希望へと繫がる。

何度でもささくれた手を差し入れてあの曇天の向こうに触れる

大野理奈子『スター』(2026年)

【東直子さんの講評】

雇用に関する不平等や生き辛さ、不如意な現実を詠んだ作品を含む歌集『スター』の最後に置かれた一首である。一首だけでもすっと胸に刺さるが、様々な忸怩たる思いを詩として昇華させつつ、短歌の可能性を模索する作者の作品をたっぷり読んだあとでは、その感慨はさらに深くなる。

曇天は、どんよりした気分の比喩として描かれることが多く、この歌でも象徴的に置かれている。しかしそれに素手で差し入れて「向こうに触れ」たいとまで考えるのは稀有である。ささくれた手が痛そうだが、ものともせずに逞しく突き抜けようとしている。自分への、そして多くの「ささくれた手」の持ち主へのエールでもあるのだろう。

◾️短歌のNew Topics...募集中! 第28回 NHK全国短歌大会

第28回NHK全国短歌大会が作品を募集中。自由題・題詠「間」のほか、新作15首も対象とする。選者には東直子さんをはじめ、歌人の俵万智さん、永田和宏さん、吉川宏志さんらが名を連ねる。応募の締め切りは11月16日(ウェブは23時59分、郵送の場合は必着)。

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ひがしなおこ◯歌人、作家。広島県生まれ。1996年に第7回歌壇賞、2016年には小説『いとの森の家』(ポプラ社)で坪田譲治文学賞を受賞する。歌集『春原さんのリコーダー』(ちくま文庫)、小説『ひとっこひとり』(双葉社)、エッセイ集『魚を抱いて 私の中の映画とドラマ 』(春陽堂書店)など著書多数。最新刊は掌編『フランネルの紐』(河出書房新社)。

文=東 直子 編集=吉岡博恵

『婦人画報』2026年10月号より

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