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石田ひかりさん「“夢の続き”をもう一回やりたいと思って」。専業主婦からの復帰を振り返る|『さとこはいつも』

  • 2026.9.26
CEDRIC DIRADOURIAN

15歳、35歳、55歳。“さとこ”という同じ名前を持つ3人の女性の人生が、ひとつの物語のなかで交差していく映画『さとこはいつも』。姫野花春さん、有村架純さん、石田ひかりさんの3名が“さとこ”を演じます。

『南極料理人』や『さかなのこ』で知られる沖田修一監督の最新作で、異なる世代の女性像をユーモラスに描きながら、いつしか胸いっぱいに広がる共感を誘う作品です。

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石田さんが扮する55歳の里子は、ちょうど子育てを一段落させた女性。やっと自分の時間を持てるようになったところで、小説家志望という若き日の夢を思い出します。

里子の夫を演じるのは、90年代の大ヒットドラマ『あすなろ白書』で石田さんと共演した筒井道隆さん。かつてともに青春を演じた2人が歳月を重ねた夫婦を演じる──たとえ当時を知らなくても、特別なケミストリーは伝わるはずです。

子育てのために一度は仕事を離れた経験を持つ石田さん自身の歩みと、里子という役に込められた「夢の続き」というテーマについて、そして筒井さんとの久々の共演について、語っていただきました。

「沖田監督って本当にいい人なんだろうな」

CEDRIC DIRADOURIAN

─沖田修一監督の作品が以前からお好きだったそうですが、今回の脚本を最初に読まれた時の感想を聞かせてください。

石田ひかりさん(以下、石田) 男性がここまで優しい本を書けるんだ、という驚きと、沖田監督って本当にいい人なんだろうな、とも思いました。3人の"さとこ"も、彼女たちを取り巻く人々も、優しくて滑稽でおかしみもあります。オダギリジョーさんが演じる、不倫をしている役の村本さえも愛すべきキャラクターに書き上げていて、どんな人も悪人だと思いきれない。そんな救いがありましたね。

─石田さんが演じた里子は、一見どこにでもいるような主婦ですが、そんな女性の誰もが実はそうであるように、しっかり個性を持っています。

日々行う家事に家族が気がつかないことに寂しさを感じる一方で、夫や息子たちからは大切にされていて、いわゆる“不幸な中年女性”の型にもはまらない。そんなユニークな女性像を演じるとき、どんな感情を大事にされたんでしょうか。

石田 私の場合は脚本を読み込んでいろいろと想像していきますが、やっぱり現場に助けられることが大きいです。あまり作り込まずに現場で仕上げるタイプ。セットや照明、また共演者の方の声を聞くことも大切にしています。

芝居って1人でするものではなくて、皆さんとの共同作業なので、相手の方のセリフの出だしがちょっと変われば、私もそれに反応していかなきゃいけない。私にとってはそこが芝居の面白さであり、緊張感を覚える部分です。うまく反応できないときもありますが(笑)。

監督によっては、現場に行くまでに役を固めていくことを求める方もいらっしゃるので、もちろんその都度変わります。セリフを頭に入れていくのは当然のこととして、私は現場で変化していくものでもいいのかな、と思っています。

約30年ぶりの共演!試写で驚いたことは

(左から)石田ひかりさん、筒井道隆さん。撮影中の仲睦まじいオフショット。 Hearst Owned

─この映画では、石田さんの自然なお芝居が印象的です。素のままではないはずなのに、本当に自然です。

石田 それが一番難しいし、自分ができているとは思わないですけど、今回は筒井(道隆)くんに助けられました。出来上がった作品を見て、正直、自分でも驚きました。「私、こんなにも人に心を許している顔をしていたんだ」って。それは沖田組の雰囲気であり、やっぱり筒井くんの存在です。

─特に石田さんと同世代の方々には、筒井さんと共演されたドラマ『あすなろ白書』は忘れられない作品です。

石田 そうだと思います。その後も1度映画でご一緒していますが、共演はそれ以来で30年ぶりぐらいだと思います。

─夫婦を演じると知ったとき、どう思われましたか?

石田 びっくりしました。私や筒井くんにとって『あすなろ白書』はすごく大事な作品ですが、映像作品の作り手側の皆さんにとっても意識せざるを得ないものだと思うんです。そのため30年間まったく共演がなかったのだと思いますが、今回それが突破されて、「おお、来たか」と思いました。これは本当に嬉しいサプライズでした。

もちろん共演を避けていたわけではなく、一度もそういうお話がなかったんです。それが、いまやいろいろな仕事のお話をいただくようになりました。

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─おふたりが一緒に映っている姿に、歳月を積み重ねた夫婦の空気を感じましたが、それはやはり相手役が筒井さんだったから、かもしれませんね。

石田 そうだと思います。実際はプライベートでもそれほど会っているわけではないんです。前にプライベートで会ったときから現場で再会したのは10年ぶりぐらいだと思いますし、連絡先も知らなかったんです。この度、やっと連絡先を聞きました(笑)。

それぐらいの距離感なんです。それが共演すると、こんなに影響を与えてくれる。やっぱり特別な存在なのだなと再認識しました。

─久々の共演で、お互いに変わったところ、変わらないと思ったところは?

石田 みっちゃん……私は筒井くんをみっちゃんと呼んでいるんですけど、昔から変わっていなくて、とにかく不器用な方なんです。愛すべき不器用な人。

例えば “あるもの”を私に渡すシーンを撮影したときには、通常はスタッフの方が用意してくださるような小道具を、役に沿ってちゃんと本人が最初から作っていたんです。

「みっちゃん何やってんの?」と聞いたら、大真面目な顔で「作ってるんですよ」と言われて(笑)。あれは忘れられないです。映像に写らない部分まで役に沿うことが、彼にとっては普通なんでしょうね。

最近そういう瞬間や何十年ぶりの再会が増えていますが、「長くやってきてよかったな」と思える瞬間です。

憧れゆえに……完璧を目指した専業主婦

CEDRIC DIRADOURIAN

─里子に関して、沖田監督は「夢の続き」というキーワードを出していらっしゃいます。彼女は結婚して子どもを持って夢から遠ざかった時期がありますが、石田さんも産後にお仕事から離れた時期がありました。

仕事から距離を置くというのは、勇気がいることだったのではないでしょうか?

石田 はい。でも、実は専業主婦にすごく憧れがあったんです。母が専業主婦で、しっかりと3食作って子育てしてくれました。そんな母しか見ていなかったので、自然に私もそうなるだろうと思い込んでいたところがあったんです。"母親とはこういうもの"という、ほとんど刷り込みに近い感覚でした。

結婚からほどなくして子どもが生まれたときに、その小さな命と向き合う、大切にこの子を育てることへの迷いはまったくなかったです。仕事をするということが頭に浮かばないぐらい、私にとっては自然な選択でした。

ただ、やってみたら自分でもびっくりするぐらい向いてなくて、げっそりと痩せてしまいました。性格的に真面目なところがあるので、おむつはこまめに変えて、母乳で育てて……と「~せねばならない」ということに縛られて、がんじがらめになっていました。

年子で2人産んだので、日常は顔を洗う暇もないぐらい。食事も立って納豆ご飯をかき込むのが精一杯、というぐらい自分を追い込んでいましたね。

─完璧を目指されたのでしょうか。

石田 そうなんです。自分のことなんてどうでもよくて、とにかくこの子に何かあってはいけないと思うと、怖くて眠れない日々が続きました。心配で心配で、息をしているか、汗疹になっていないかと、常に細かく身の回りを確認しながら過ごしていたら、苦しくなってしまって……。

2人目を産んだあとに、『皇帝ペンギン』というドキュメンタリー映画のアフレコのお話をいただいたのですが、久しぶりに外に出たときに、ものすごく気分転換になって、そこでちょっと気持ちが動きました。なんとか仕事と子育てのいいバランスを保ちながらできないものかな、と。

ただ実際は年子となると学校行事なども大変で、東日本大震災が起きたこともあって、当時すぐには子どもを置いて仕事に行くような気にはなれませんでした。

いろいろな出来事が重なって、ようやく私の仕事への覚悟が決まったのが、上の子が14歳、中学2年生ぐらいになったころです。

「お仕事をもう一度頑張りたい」。それこそ“夢の続き”を私ももう一回やりたいという思いでしたし、子どもたちにも働く母親のもとで過ごす人生を経験させたかった。お互いにとってそれが一番いいのではないか、という考えになったんです。

振り返れば、もっと早く仕事を再開しても良かったんじゃないかと思うこともあります。親がそばにいなくても子は育つ、というのがいまの実感ですね。それを踏まえて、この映画を見た方が「年をとるのも悪くないな」というような感覚を持ってくださったらいいな、という気持ちでいます。

CEDRIC DIRADOURIAN

【インタビューを終えて】

世代が近いからでしょうか。初対面なのに、石田さんはとてもフランクに語ってくださいました。同窓会で久しぶりに顔を合わせた、同学年の顔見知りのような距離感。どの質問についても、丁寧に記憶をたどり、そのときどきの感情をもう一度確かめるように語ってくれます。

印象的だったのは、筒井道隆さんとの再会について語るときの、ふっと表情がほどけた瞬間でした。30年という時空は、共演者として現場に立てば一気に解消されるのかも。プライベートで交流がありすぎたら、逆に照れてしまいそう。作中では、おふたりのほどよい距離感と信頼が劇中の夫婦としてのリアリティとなって画面に映し出されます。

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そうした「長くやってきたからこそ手に入るもの」への実感は、里子というキャラクターが抱える時間の重みとも静かに響き合っています。自然な演技ができているなんて思わない、と謙遜されますが、里子を見ているこちらの心は共感で揺さぶられっぱなしでした。

インタビューが終わって席を立って歩き始めたと思った途端、石田さんは「あ、椅子!」と座っていた椅子を元の位置に戻しました。ごく自然な立ち居振舞いから、丁寧に生活している日常が垣間見えるようです。

子育てに向き合う中で自分を追い込んでしまった日々。そこから少しずつ、“夢の続き”に心を向けていった軌跡を語る石田さんの言葉には、飾らない実感がこもっています。「年をとるのも悪くない」。いまだからこそ見える景色を表したその言葉を、こちらも素直に受けとめました。

▶石田ひかりさんギャラリー

撮影=セドリック・ディラドリアン ヘア&メイク=遊佐こころ スタイリスト=Lim Lean Lee 取材・文=冨永由紀 編集=井本茜(婦人画報編集部)

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