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彼女に「今日は合わせてみた」とだけ送った僕が、画面の外で決めていたこと

  • 2026.9.27
ハウコレ

「それもある」と返した残りの理由を、僕はその場で打てませんでした。決めたのは、同じ分に届いた彼女の「おはよう」を見たあとです。

会社から届いた調査票の回答期限は、その日の日付になっていました。日本にいる彼女と付き合ってちょうど5年になる日と、同じ日付です。赴任先では休日にあたるその日だけ、僕は彼女の生活時間に合わせてみることにしていました。

送れないままの回答欄

赴任先での勤務も5年になり、次年度の赴任継続か帰国かの希望を確認する社内の調査票が届いたのは数週間前でした。仕事はこちらで軌道に乗っています。戻れば、積み上げたものをいったん置くことになる。彼女には、この調査票のことを話していませんでした。時差はほぼ半日。僕の「おやすみ」に彼女の「おはよう」が届き、彼女の「おやすみ」に僕の「おはよう」が届く。5年間、同じ言葉が並んだことはありません。その時差を、僕は都合よく使っていました。込み入った話は、寝て起きてから返せばいい。答えを先送りする口実が、毎日の挨拶の中に紛れていたのです。

彼女が起きる時刻に合わせた日

休日のこちらの夜を、僕は眠らずに過ごしました。部屋の明かりを落とさないまま、彼女の目覚ましが鳴るころを待ちました。彼女がいつも「おはよう」を送ってくる時刻ちょうどに、こちらからも「おはよう」を送ると決めていました。打ち込んで、送信。同じ分に、彼女からの「おはよう」が届きました。画面に並んだ2つの同じ言葉を、僕はしばらく見ていました。彼女が今、どんな顔でこの画面を見ているのかは分かりません。

「起きてたの?」

「今日は合わせてみた」

「5周年だから?」

「それもある」

残りの理由を打ちかけて、消しました。まだ決めていないことを、決めたように書くわけにはいかなかったからです。

それもある、の残り

5周年の日だけは、いつもと逆に僕が彼女の時間に合わせてみようと思っていました。実際に分かったのは別のことです。眠らずに送った1件が、同じ分に届いた彼女の1件と並びました。その画面を見て、僕はこの5年、彼女がこの生活をどう思うか考えないようにしてきたと気づきました。時差があるから仕方ない。それで済ませれば、これからのことを話さなくて済んだからです。戻ると決めるのが怖かったのではなく、話し合うのが怖かっただけでした。時差は理由になりません。同じ言葉を並べようと思えば、僕はいつでもそうできたのです。回答期限の調査票を開き直したのは、彼女の「おやすみ」を確認し、いつもの「おはよう」を返したあとでした。

そして...

帰国を希望する欄に印を入れて送信しました。それから、彼女とのチャットを開きました。

「帰国希望を出した。まだ決まってない。でも、先に言っておきたかった」

送信してから、僕はようやく部屋の明かりを消しました。

(30代男性・海外駐在員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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