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片山正通が語る新クルーズ船「AMANE」。「旧岩崎邸」から着想した“水上の邸宅”とは?

  • 2026.9.26
Wonderwall®

「日本郵船」が2027年春に新クルーズ船「AMANE(海音)」を就航する。トータルデザインを手掛けたのは、片山正通率いるWonderwall®だ。東京湾で36年にわたり多くの人々に愛されてきたレストラン船「LADY CRYSTAL(レディ クリスタル)」の後継船となる「AMANE」において、どのようなデザインや顧客体験を目指したのか。片山に話を聞いた。


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1885年の創業以来、約140年にわたり日本の海上輸送を支えてきた「日本郵船」。「AMANE」は、同社が紡いできた客船文化の歴史に新たな章を開く。「一般のお客様が日本郵船の歴史やおもてなしに直接触れることのできるレストラン船は、『日本郵船』にとって、いわば会社の『顔』となる非常に重要な存在だと感じました」と片山。それゆえ同社の歴史を紐解き、その起源にインスピレーションを求めた。

SATOSHI TAMURA

和魂洋才の思想を再解釈

その過程で手がかりとなったのが、かねてから片山が魅力を感じていたという「旧岩崎邸庭園」。日本郵船の設立に深く関わった岩崎彌太郎の長男、久彌の本邸として建てられた都立庭園だ。片山とWonderwall®のメンバーはここを訪れ、邸宅と庭園が呼応しながらひとつの空間体験をつくり出していることに着目。これを客船と海に置き換え、「庭園としての東京湾」「水上に浮かぶ邸宅」というコンセプトが導き出された。

「旧岩崎邸庭園」の洋館を設計したのが「御雇外国人」として日本に招聘され、西洋建築学を教えるとともに国内に数々の建築を残したジョサイア・コンドルだったという点も、片山の創造力を刺激した。

「西洋の様式や技術を柔軟に取り入れながら、日本の精神性と調和させてきた“和魂洋才”の考え方を、船上空間として再解釈したいと思いました。これは、Wonderwall®の根底にある“西と東の融合”という考え方にも通じています」

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「AMANE」を手掛けるにあたり、「顧客体験そのものをデザインしたいと思いました」と片山は強調する。

非日常の体験は、船を視界に入れながら桟橋に立つところから始まる。「AMANE」のロゴに目をやりつつ、1階のメインダイニングや2階の個室の様子に胸を膨らませながら、同じく片山がデザインした光の灯る桟橋を歩き、船内に入る。

<写真>ブランドロゴのデザインは、平林奈緒美による。船名「AMANE」には、「広くあまねく」人々に思いが届くようにという願いと、心地よい海の音が聞こえてくるような情景を重ね、「海音」という意味が込められている。

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「水上の邸宅」の中心となるのが、90席のメインダイニング。日本建築に使われる天井のなかでも格式の高い「折上格天井」を現代風に取り入れた。ピラー(支柱)のない、広々とした空間だ。「ピラーは窓枠に忍ばせているんです」と片山。十分な天井高も、閉塞感のない印象に貢献している。「橋の下を通ることから、船は高さの制約が厳しいのですが、ここでは2300mmを確保しました」

席の配置にも工夫を凝らした。「レストラン船だと窓際の席が好まれると思いますが、中央の席でも空間を広めに取ったり、どこにいても海の景色を楽しめるように窓を可能な限り広げました」

メインダイニングのチェアを含む家具の多くは、フィリップ・ユーレル コレクションを「AMANE」用にカスタマイズ。制作は「カッシーナ・イクスシー」が担った。

<写真>メインダイニングでは、日本の旬の食材を取り入れたフランス料理を提供する。

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バーラウンジや個室も展開

2階の船尾側には、デッキに面したバーラウンジを配置。風の影響を受けにくい船尾の特性を活かし、海を見渡すガラス戸をすべてスライドさせて、海側を大きく開け放つことができる構成とした。海風を感じながら心地よく過ごせる、船内と海をやわらかくつなぐ空間だ。

<写真>8席の静かな空間で、海の景色を楽しむバーラウンジ。

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同じ階の船首側。この個室では、東京湾のパノラマ風景を堪能できる。進行方向にある船首は風の影響を受けるため、個室が置かれることはまれだが、片山はダイナミックな風景との一体感を味わえるこの場所を選択。「通常、2階の船首には操舵室があるのですが、今回はこれを上階に移動させて、個室を配置しました」

<写真>着席での会食に加え、立食や複数テーブルでの利用にも対応可能。

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6名用の個室も、2室用意。少人数での会食に適した空間だ。「東京湾と船をどう楽しんでもらうか」ということを常に考えていたという片山。ここでも、食事を楽しみながら「外に目を向けたくなるようなデザイン」が実現されている。ひとつの壁面をガラスで覆い、そこから直接デッキに出られる仕様とした。落ち着いた色合いの内装が、海の景色を引き立てる。

<写真>格子パターンの天井は、格天井を意識したメインダイニングのデザインを想起させる。

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個室に敷かれた深いブルーの絨毯は、すべて「山形緞通」のものだ。「とても気に入っているブランドです。羊毛を手作業で高密度に打ち込んでいるのですが、踏み心地がとてもいい。音も吸収するし、足が楽。靴を脱ぎたくなってしまうような絨毯です」と片山。「木や石といった硬い素材が使われたデッキ、フローリングを通り、絨毯のある個室へ入る。『リビングに入って落ち着く』ような感覚も表現したいと思いました」

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3階には「庭園としての東京湾」というコンセプトを身体で感じることのできるフライングデッキを設置。ここにはコンパクトな厨房もあるので、ちょっとしたパーティーやレセプションを開くことも可能だ。

「せっかく船に乗っているのだから、さまざまな角度から海を味わってもらいたいですね」と片山は言う。プロジェクトコンサルティングを担う「タイソンズアンドカンパニー」の寺田心平らが、船上での過ごし方やプログラムを組み立てるなか、Wonderwall®はその体験を受け止める空間をデザインした。食事をしながら海を眺め、バーラウンジでくつろぎ、フライングデッキに出る。船内のさまざまな場所を巡るなかで、海との距離感が少しずつ変化していく。その積み重ねによって、「庭園としての東京湾」というコンセプトを、ひとつの船上体験として立ち上げている。

<写真>「AMANE」全体像。操舵室のある3階には、フライングデッキと厨房が設置されている。

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「(インテリアデザインにおいて)ヒーローをつくることは、好きではない」と語る片山。「AMANE」でも、人目を引く“見どころ”を用意するようなことはしなかった。そうではなく、桟橋を照らす照明に、廊下のアート、反射を抑えて海の風景を引き立てるガラス、個室に敷き詰められた絨毯——こだわり抜いたディテールを丁寧に重ねることで、邸宅で過ごすような上質な船上体験を叶えた。

「AMANE」は、2027年5月に就航予定。日本郵船が誇るクルーズ船が、新たな時を刻む。


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