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リサ・ラーソンとグンナルが暮らした北欧・エステルレーンを訪ねて。

  • 2026.9.10

アーティストカップルのリサ&グンナル・ラーソンが相次いでこの世を去ってから数年。リサは2024年、享年92歳。グンナルは2020年、享年94歳、芸術界のおしどり夫妻は仲睦まじく人生をともにした。スウェーデン国内はもとより、スペインや日本をはじめ、世界各地でふたりの共同展覧会を開催してきたが、その内容からもいかに夫婦がお互いにインスピレーションを与え、支え合っていたことが伝わってくる。

今回、約20年にわたり夫妻を撮影してきた木寺紀雄が、ふたりが愛した場所、エステルレーンを再訪した。

グンナルはエステルレーンの風景画などの絵画をはじめ、1970年頃にデザインした「クーラン」(Kulan)と呼ばれるプラスチックの灰皿が有名だ。

エステルレーンでの日常の何気ない、でも美しい風景。

リサは言うまでもなく、ぽってりとして可愛らしいセラミックの動物たちが特に日本でも長く愛されてきた作品だ。

シムリシュハムンと言うサマーハウスの近くの街にあるアートギャラリー・ブティックにて。自身が手がけたライオンとお茶目にポーズを取るリサ。

日本でも映画『リサ・ラーソンがいた時間』が2026年9月18日から公開予定だが、彼らを偲ぶ人々がいまも絶えない。海を隔てた日本でもそうだが、そのうちのひとりがフォトグラファーの木寺紀雄だ。

リサ&グンナルと木寺との最初の出会いは2007年に遡る。ある雑誌でのスウェーデン特集で、その当時はいまほどメジャーではなかった陶芸家リサ・ラーソンへのインタビュー・撮影を兼ねて訪れ、そこで初めてふたりに会ったのだ。一目惚れと言ってもいいほど、ふたりの作品はもちろん、その人柄にも魅了された木寺はその熱が冷めず、ふたりの写真集を出したい思いが膨らみその後、自費でスウェーデンへ渡ったほどだ。

「素直で純粋、本当に邪悪さがなく、人を疑うこともしない。言葉もなかなか通じない僕らを受け入れてくれて、騙されてしまうのではないかと、呆れるくらい人がいいんですよ」と木寺は言う。

2011年に再訪した木寺は、リサとグンナルが、特に晩年、そして夏のほとんどを過ごしていたサマーハウスがあるエステルレーンで再会したのだ。

エステルレーンはスウェーデン南部スコーネ地方に位置する南東部の地域だ。どこまでも広がる美しい景色と可愛らしい街並み、そしてりんご栽培で有名な場所だ。麦畑が連なる田舎道からさらに小道を入り、遠目には家らしきものがあるのか分からないぐらい大きな木々に囲まれた所にあるリサとグンナルのサマーハウスで木寺を迎えた。

木寺が訪問する際に道に迷わないようにとのリサとグンナルの自作道案内看板。なんというセンス!

2度ランチタイムに訪れた木寺はミートボールをご馳走になり、アトリエや作品を見せてもらった。そしてフィーカしたり、散歩したり、近郊をドライブしたりと、まさに田舎のおじいちゃん、おばあちゃんが休みに過ごす緩やかな時を一緒に体験したのだ。

リサとグンナルもよく散歩したという東海岸の海辺。連なる海岸沿いの中でもHaväng(ハーヴエング)と言う場所は、海の草原という意味の通りに砂質草原に植生するさまざまな植物と長く続く砂浜で人気だ。

特別な何かがあるわけでもないスウェーデンの田舎とその風景だが、連れて行ってもらった海辺や散歩中に目にする植物など、周りに点在するそれらの自然はリサとグンナルの作品のインスピレーションの宝庫だったのではないかと、木寺は感じている。

私自身もリサとグンナルの親しい友人とのご縁で、彼らのストックホルムの住居兼アトリエ、そしてエステルレーンにあるサマーハウスに数回お邪魔したことがある。言葉が通じない木寺がわざわざ日本からやってきた時の事をよく私に話してくれたのを思い出す。

「ノリオがね〜、ノリオがね〜、」と有り難そうに何回も。また木寺が当時、まだ出たばかりだったスウェーデン語通訳アプリを駆使して一生懸命会話をしようとしている様子を本当に嬉しそうに話すのだ。

人柄もそうだが、彼らの作品に関しても「まじめで、真剣で、でもカッコいい。こっちが恥ずかしくなって見習わなくてはと、背筋を伸ばさなくてはと、何かに気づかれるんです」と木寺は語る。

「リサもグンナルも、ふたりともルックスも、ちょっとした仕草も、何もかもが絵になるし、まさに、フォトジェニック、かわいくて、ほんとうにかっこいい。あんなふうに生きられたらと憧れます」という木寺だが決してお金持ちのセレブのような生き方を言っているのではない。

ふたりが愛したサマーハウスは、もともと昔ながらの農家だった。グンナルが毎年コツコツとロッピス(スウェーデンの蚤の市)を巡り、使えるものを見つけては集め、少しずつ改装していったという。手作りのボードゲームを飽きずに遊んで過ごしたり、自らを「クッキーモンスター」と呼ぶほどのおやつ好きなリサが大切にしていたフィーカの時間。そこには、そんな何気なくも豊かな時間が流れていた。

スウェーデンの、特に夏の名物でもあるLoppis(ロッピス)。蚤の市とかセカンドハンドの意味だが、ガレージセールのような感じでスウェーデンの田舎道を走ると、あちこちで見かける。掘り出し物もあればジャンクもあり、当たり外れのドキドキを楽しむのもロッピス巡りの醍醐味だ。

2026年5月、木寺にとっては7年ぶりのスウェーデン訪問。(前回は2019年、ストックホルムで入院していたグンナルを見舞っている)

旅の目的のひとつでもあったのが、リサとグンナルのお墓参り。サマーハウスとお墓があるエステルレーン地方への旅は15年ぶりだが、無人販売や馬がのんびり過ごす風景は、時が止まったかのように変わっていなかった。

ロッピス同様、田舎でよく見かける無人販売所。野菜が殆どだが花や蜂蜜など手作りでフレッシュ感満載のものが並ぶ。ついつい看板を見るたびに寄りたくなる。

嬉しさと切なさ、そして懐かしさが込み上げる。一緒にフィーカした場所、散歩した場所、そして一緒に過ごした時間。静謐な空気のなか、リサとグンナルの墓前で長く手を合わせた。その帰り際に撮った一枚のお墓の写真。左下に小さくまるで猫の足跡のようなものがふたつ見える。

木寺に「こんな模様、墓石にあった?」と聞くと、
「いや、実はこれ光なんです。僕には笑っている顔に見えて。メルヘンチックかもしれないけどふたりのイタズラかなと」。

「ノリオー、来てくれてアリガト、Tack så mycket!!」というリサとグンナルが贈ったメッセージのようだった。

「とにかくリサは笑顔を絶やさない、グンナルはそれをかっこよく見守っている。そんな幸せで素敵なふたりでした」(木寺)
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