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“18年前”に余命わずかな主人公の人生を描いた名作 テレビドラマ界を代表する“レジェンド脚本家”の訃報 

  • 2026.10.17
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黒木メイサ (C)SANKEI

9月18日。脚本家の倉本聰が逝去した。
テレビの黎明期から活躍し数々の名作ドラマを手掛けた倉本は、山田太一や向田邦子と並ぶテレビドラマのレジェンド脚本家だ。
倉本たちがいなければ日本のテレビドラマに、脚本家の作家性を大切にする文化は生まれなかっただろう。
そんな倉本の代表作と言うと国民的ドラマと言える『北の国から』だが、筆者が倉本の訃報を聞いた時に真っ先に思い出したのは、『風のガーデン』だった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

本作はフジテレビ開局50周年記念ドラマとして2008年に放送された。
東京の高林医大病院で麻酔科准教授として働く麻酔科医の白鳥貞美(中井貴一)は、東京で多忙な日々を過ごしていたが、体調の異変に気付き検査した所、膵臓癌がステージ4bに進行していた。
自分の命が長くないことを悟った貞美は、絶縁状態となっていた父親の白鳥貞三(緒形拳)が引き取った娘の白鳥ルイ(黒木メイサ)と知的障害のある息子の白鳥岳(神木隆之介)に一目会いたいと思い、3人の暮らす北海道の富良野へと向かう。

物語序盤は、訪問医の貞三と「風のガーデン」というブリティッシュガーデンで働くルイと岳の姿を描いた富良野と、貞美が働く東京が対比される形で描かれる。
全11話の作品だが、近年のドラマと比べるととてもゆったりとしたスピードで話が進み、本格的にドラマが動き出すのは、貞美が富良野で岳と再会する第6話からとなっている。
印象に残るのは富良野と東京の時間の流れ方の違い。
ゆったりとした時間が流れる富良野に対し、麻酔科医としての仕事に追われている貞美が暮らす東京での暮らしは忙しなくて、いつもバタバタしている。特に前半は、貞美と同じ膵臓癌の末期状態にある患者・二神達也(奥田瑛二)が、政財界を揺るがす株の不正取引に関わる黒幕としてマスコミや検察に追われる姿が描かれているため、社会派サスペンスドラマを観ているようだ。

そのため物語の情報量が多く、気持ちが落ち着かない。 対して、貞美が富良野に戻り息子の岳と再会する第6話以降の展開は、ほんわかとしたやりとりが多くて心が温まる。
岳は、貞美のことを大天使ガブリエルだと思い込んでおり、貞美は話を合わせて天使のフリをして岳と会うようになる。

前半のシリアスなトーンから一転したファンタジックな展開だが、色とりどりの花々に囲まれたブリティッシュガーデンが舞台ということもあり、天使と少年の幻想的なやりとりに説得力を与えている。

このように東京と富良野では物語の印象がガラリと変わるのだが、その変化は映像にも強く反映されている。
貞美を中心とした東京パートの物語ではカメラが速く動き、細かくカットが割られていく。
逆に富良野パートではカメラがゆっくりと動き、ふわふわとした浮遊感がある。

『風のガーデン』の演出は宮本理江子が全話担当しているのだが、一人のディレクターが手掛けているため演出に統一感があり、映像の完成度がとても高い。

宮本は脚本の意図を正確に読み取った上で、演出に落とし込んでいる。
貞美は膵臓癌で肉体が弱っていくのだが、家族と再会して富良野の大自然に触れることで精神的には健康になっていく。
そんな貞美の肉体と心情の変化が映像のテンポを通して、追体験できるようになっているのがドラマとしての面白さだ。

広大な自然とちっぽけな人間

北海道の富良野が舞台となる本作は、『北の国から』、『優しい時間』に続く富良野三部作となっている。

倉本は富良野に生活の拠点を置き、自然と共存する生活者の立場から物質文明に染まった都会での暮らしに警鐘を鳴らすようなドラマを多数手掛けてきた。

1981~82年に連続ドラマが放送された後、2002年までSPドラマが断続的に作られた『北の国から』はその筆頭だが、この『風のガーデン』は『北の国から』で描いたテーマを1クールのドラマで改めて展開したような作品だと言える。

こう書くと説教臭くて重苦しい作品に聞こえるかもしれないが、作品から受ける印象はとても優しい。

貞美は麻酔科医という立場こそ立派で周囲から尊敬されているが、異性関係にだらしなく過去に友人の妻と不倫関係にあり、そのことを知った彼の妻はショックを受けて自ら命を絶ってしまった。
そんな貞美に対して娘のルイは嫌悪感を抱いていたが、彼女もまた 妻子持ちの男性と交際してしまう。
二人以外の登場人物も様々な問題を抱えて暮らしているのだが、そんな人間的な弱さが大きな魅力となっており、とても愛おしい存在として描かれている。

人間の弱さを愛した倉本聰

『風のガーデン』は、自分の命が短いと知った時に、残りの人生をどのように過ごすべきかを描いた物語だった。
そのためどうしても、逝去した倉本と貞美の姿を重ねてしまうのだが、改めて観ると弱さの中にある人間のたくましさを感じ、とても明るい気持ちで観終えることができた。

倉本のドラマに登場する人々はちっぽけな存在で、何度も過ちを繰り返す。
しかし、そんな愚かさも含めて物語は人間を優しく包み込んでくれる。だから倉本のドラマを観た後は、人間の弱さが愛おしくなる。

崇高な理想を掲げながらも人間の愚かさを最後まで愛し続けたのが、倉本聰のドラマだったのだと、本作を観て改めて実感した。


出典元:FOD『風のガーデン』配信ページ より

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