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「その場ではやり直せない」ロボットが入れずに…元自動車メーカー社員が見た、新車塗装の知られざる“匠の技”

  • 2026.10.1
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出典:PIXTA(※画像はイメージです)

新車のボディーを眺めていると、どこを見ても色むらがなく、滑らかに塗装されていることに気づきます。家具の補修や工作、プラモデルなどで塗装した経験がある人なら、「どうすれば、これほど均一に塗れるのだろう」と思ったことがあるかもしれません。

自動車工場では塗装工程の多くがロボット化されていますが、複雑な形状の部分や、ロボットのアームが入りにくい場所では、人がスプレーガンを扱う工程も残っています。大手自動車メーカーで塗装分野の生産技術に携わった筆者が見たのは、流れる車体に合わせてガンを動かす作業者の姿でした。

品質を保つには、均一な塗膜が欠かせない

スプレー塗装は、ガンを左右に動かせばよいという単純な作業ではありません。塗装面とガンの距離や角度、腕を動かす速さ、塗料を吹き付ける量などを一定に保つ必要があります。

さらに、先に塗った範囲と次に塗る範囲を適度に重ね、塗膜(塗料が乾燥してできる膜)の厚さを均一に仕上げなければなりません。

ガンを近づけすぎたり、動かす速度が遅くなったりすると、その場所に塗料が付きすぎて垂れる場合があります。反対に、ガンが遠すぎたり、速く動かしすぎたりすると、塗料が十分に付かず、表面がざらつくこともあります。

車体の形に沿って腕を動かしながら、距離や速度を保つ。一つひとつは小さな動作でも、それらを同時にこなし続けるところに熟練した技術が表れます。

色が変わっても、ラインは待ってくれない

自動車の生産ラインでは、同じ色の車体だけが続けて流れてくるとは限りません。筆者が見た工程では、次の車体の色を確認し、その色に対応したスプレーガンへ素早く持ち替えていました。

持ち替えている間も車体は進んでいきます。正しいガンを選び、決められた場所を塗り始めるまでの手際も、作業の一部です。

メタリックやパール系の色では、塗り方によって見え方に差が生じる場合もあります。これらの塗料には光を反射する細かな粒子が含まれており、粒子の並び方などによって明るさや色味が変わるためです。同じ塗料でも、吹き付け方が異なれば、周囲との色のつながりが不自然になることがあります。

塗膜の厚さだけでなく、仕上がったときの見え方にも気を配る必要があるのです。

細かな部分を塗り、その場ではやり直せない

ロボットは、設定された動きを高い精度で繰り返せることが強みです。一方、車体には曲面や段差があり、ロボットのアームや先端のスプレーガンが入りにくい場所もあります。車種や工程によっては、そうした細かな部分を人が塗装します。

狭い場所へ塗料を届けながら、周囲には付きすぎないようにする。腕や体の向きを変えても、ガンと塗装面の距離や角度を安定させなければなりません。

塗料が垂れたり、仕上がりにむらが出たりしても、作業中に布で拭き取ってすぐに塗り直せるわけではありません。筆者が見た生産ラインでは、補修が必要な場合、塗膜が乾燥した後に表面を研磨するなど、後工程で対応していました。

車体が流れる中で、色に合わせてガンを持ち替え、複雑な形状にも対応する。新車の滑らかな仕上がりは、ロボットの精度だけでなく、こうした作業者の技術にも支えられています。次に車を見るときは、広い面から形の入り組んだ部分まで、塗装のつながりにも目を向けてみてください。


筆者:jaco

大手自動車メーカーで、自動車の塗装ラインの構築に携わった。車体の塗装面に色むらや異物がないか、品質検査を行った経験もある。現在はITエンジニア兼Webライターとして、ものづくりの現場で得た経験を生かして執筆している。趣味はキャンプ、登山、旅行。フリーランス時代には年間50泊ほどのキャンプを楽しみながら、アウトドアやIT系の記事を執筆していた。


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