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隣人の“8,000円の植木鉢”を駐車中に割った20歳女性→実は母親の形見と発覚…賠償後に彼女がとった“意外な行動”

  • 2026.10.1
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「植木鉢そのものは、そんなに高いものではないんです」

電話口でそう話したのは、Bさん(50代・女性)。契約者のAさん(20歳・女性)が、自宅の駐車スペースに車を入れる際に接触してしまった植木鉢の持ち主です。

隣の家の物を壊してしまっても、保険で弁償すれば解決できる。そう考える人もいるかもしれません。ただ、Bさんの話には続きがあったのです。

今回は、損害保険会社で事故対応を担当していた私が受け持った、8,000円の植木鉢をめぐるお話です。

隣家の塀ぎわで起きた接触

Aさんが自宅の駐車スペースへバックで車を入れようとしたところ、隣に住むBさん宅の塀ぎわに置かれていた植木鉢に、車の後部が当たってしまいました。

植木鉢は倒れて半分以上が粉々に割れてしまい、植えられていた植物と土が飛び出して、辺りに散らばっていたそうです。一方、Aさんの車は後部バンパーに少し傷がついた程度でした。

Aさんはすぐに、Bさん宅へ謝罪に向かいました。しかし、Bさんはなかなか話を聞いてくれる状態ではなかったとのことでした。

それでもAさんは謝罪し、保険で賠償させてほしいと何度も申し入れ、Bさんにも保険会社から連絡することを了承してもらったそうです。

こうして事故の連絡を受けた私が担当となり、Bさんへの賠償対応を進めることになりました。

植木鉢の値段と由来

私はBさんに電話をかけ、まずは謝罪をしたうえで、壊れた植木鉢の詳細についてお聞きしました。Bさんによれば、植木鉢自体は高価な品ではないとのこと。実際に調べてみると、同等の品は8,000円程度で確認できました。

「ただ」とBさんは続けます。

「母の形見だったんです」

亡くなったお母さんが大切にしていた植木鉢。Bさんは、お母さんとの思い出を一つずつ語ってくれました。私は口を挟まず、その話に耳を傾けます。そして、Bさんは最後にこう尋ねました。

「思い出深い品を賠償してもらうことって、できるんでしょうか?」

保険で償えるのは「物」の価値まで

結論からいえば、原則として思い出そのものに値段をつけて賠償することはできません。

対物賠償責任保険で賠償するのは、あくまで壊れた物に対する損害です。持ち主にとってどれほど大切な物であっても、支払いの対象となるのは物としての価値までであり、思い出や愛着といった気持ちの部分は通常含まれません。

一方で、例外も存在します。壊れた物に特別な精神的価値があり、物の値段を賠償しただけでは償えないほどの苦痛を受けたと認められるなど、特段の事情がある場合には、慰謝料が認められることもあります。

たとえば、家族同然に暮らしてきたペットを死なせてしまったケースや、家に車が突っ込み、生活基盤自体がおびやかされたと判断されるケースなどです。ただし、実際に認められるのは、ごく限られた場面にとどまります。

今回の件は、そうした例外には当たらない可能性が高い。

私がそう伝えると、Bさんは「そうですよね」と言葉少なに返しました。

8,000円を保険を使わずに支払った理由

その後、植木鉢は8,000円で賠償することで話がまとまりました。Aさんは保険を使わず、Bさんへ直接支払っています。

自動車保険の対物賠償責任保険を使えば、原則として翌年の等級は3つ下がり、その後の保険料にも影響します。20歳のAさんは、もともと保険料が高くなりやすい年代です。Aさんの契約で試算すると、8,000円の賠償のために保険を使えば、その後に増える保険料のほうが賠償額を大きく上回る見込みでした。

その見込みを私がお伝えすると、Aさんはこう返しました。

「わかりました。保険料の関係もそうですが、やっぱり自分で謝りたいのもあるので。保険は使いません」

私はBさんに連絡し、Aさんから直接賠償となること、保険会社としては対応を終了することをお伝えしました。

Bさんが「そうですか」と一言だけ返したのが、印象に残っています。

賠償の外側で続いていたこと

後日、Aさんから私あてに連絡がありました。

「あの時はBさんも動転していたみたいで。その後は穏やかに話してくださいました」

聞けば、Aさんは自身が子どもの頃からBさんのことを知っており、Bさんのお母さんにもお世話になっていたといいます。

「Bさんのお母さんの思い出話をすると、とても喜ばれました。今後もたまにお話し相手になろうと思います。私にはそれくらいしかできませんから」

賠償としては、8,000円の支払いで終わった事故です。もちろん、Bさんにとっては“それだけ”の事故ではありませんでした。しかし、Aさんも、“それで終わり”にはしなかったのです。

「値段」と「意味」は別のもの

保険で力添えできるのは、あくまでも価値を金額として算定できる部分が中心です。形見や記念品など、お金では取り戻せない大切な物については、万が一の事故に備えて安全な場所に置くなど、ご自身でも守る工夫をしておくことが大切です。

一方で、相手の大切な物を壊してしまったとき、保険による賠償だけでは埋められないものが残ることもあります。

保険を使って賠償することはもちろん大事ですが、相手への向き合い方まで保険に任せられるわけではありません。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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